学びのみちしるべ【第18回】/地球資源システム工学

大学での学びの中身と、その学問が社会でどう役立つのかを大学の先生が解説。
進路選択のみちしるべとなるよう、高校での学びがその学問にどうつながるのかもお聞きしました。

九州大学 大学院工学研究院 地球資源システム工学部門 藤光康宏教授


 この学問の内容、面白さは? 

資源は私たちが生きていくうえで絶対必要なもの。
海底や月面の資源活用のための研究も進んでいる

 石油や天然ガス、鉱物、地熱は現代社会の産業と生活を支えるために必要不可欠な地下資源です。地球環境との共存を前提として、地球上に広く分布するこれら地下資源の探査から採掘、そして、それらを利用できる形にするまでの研究開発を行っているのが地球資源システム工学です。最近は新たな資源の獲得のため、深海に広がる海洋鉱物資源の一種「海底熱水鉱床」の開発や、さらに地球を飛び出して月面や火星での資源探査の研究も行っています。
 私の専門は「地熱エネルギー」です。地熱は石油や天然ガスなどの化石燃料のように枯渇する心配がなく、24時間365日の供給が可能です。何よりこの地熱エネルギーを活用した地熱発電は、CO 2 の排出量がほとんどありません。太陽光や風力などのように天候にも左右されない再生可能エネルギーとして注目されています。火山国である日本は、地熱発電のポテンシャルは非常に高く、その資源量は世界3位です。しかし、豊富な地熱資源がありながら実際には十分に利用されていません。こうした現状を踏まえ、私の「地球熱システム学研究室」では、各地のさまざまな地熱を熱源、流体、地下構造の3つの要素から成るひとつのシステムであるととらえ、環境に適応した持続可能なエネルギーとして私たちの生活に役立つものにする研究を進めています。具体的には、地熱発電に利用する蒸気や熱水が溜まる「地熱貯留層」という地下深部の岩盤の割れ目を電磁探査や重力探査によって調査し、どれぐらいの蒸気が出るのかをモデリング(※)したりしています。自然現象をモデリングして状況を予測し、それを実際に現代社会の産業や生活に役立つものにできるところに私自身は面白みを感じています。
(※モデリングとは、適確な解答が得られるようモデルを作って分析すること)

RANGE

 2010年、ニュージーランドのオハアキ地熱発電所地域で地熱貯留層の重力モニタリングを行っている写真。
 遠くに見える、大きな冷却塔が地熱発電所。






 社会でどのように役立つ? 

環境に優しいエネルギーの創出の一翼を担う。
生活基盤を支える分野のスペシャリストに

 先日、地熱発電所に勤務する卒業生が「電気など仕事に必要なほかの分野のことは本などを参考にして自分で勉強できた。でも、地球資源システム工学に関する知識や技術は本を読んで理解できるものではなかった」と話してくれました。机上だけでは学べない調査・研究の経験は、社会へ出た後も大きな武器になります。卒業生の多くは石油関連、電力会社、資源開発関連の企業や研究所、地方自治体などに就職しています。資源関連の分野は、私たちの生活の一番基盤となるところであり、人類が生きていく限り絶対に必要です。しかも、資源開発の対象エリアは年々拡大し、冒頭でお伝えしたように今は海底や月面にまで広がっています。世界的にみても右肩上がりの分野と言えます。


 高校の科目とのつながりは? 

理科全般と数学、社会などの知識が必要。
文系分野など幅広く興味を持つことも大切

 地球資源システム工学科すべての専門分野を合わせると、物理、化学、生物、地学といった理科全般に関わってきます。それに加えて数学の知識も大切。海外との交流も多いので英語が使えることは強みになります。さらに理系だけでなく、地理や歴史といった文系の分野にも普段から興味がもてると良いと思います。というのも、地熱調査を行う場所には必ず温泉があるのでそれを観光資源として暮らす人々のことも調べたりするからです。
 勉強とは直接関係ないですが、学生時代を振り返って思うのは自分を試す機会をつくるといいと思います。私は九州大学へ通う学生だったのですが、1年生終わりの春休みに福岡県にある大学から実家のある神奈川県川崎市まで自転車で帰り、それが大きな自信につながりました。チャレンジすることで身につく力こそ、勉強にも研究にもそして何より生きていくうえでも大切だと考えます。


(取材・文/いのうえりえ)

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