同質性の境界を越える 【事例】倉敷高校 (岡山・私立)

学校という枠の中だけでは、生徒は成長しない。
縦に横につながり、出合いの機会を拡げていく

倉敷高校(岡山・私立)
左から、普通科総合探究コース2年学年主任・野村正和先生、普通科総合事業部・向井崇真先生、普通科総合事業部長・浅井克憲先生


生徒の成長には、学校の枠を
越えた非日常の学びが必要  
生徒に主体的に考え行動する力をつけてほしい。そのきっかけとなる経験を高校3年間のうちにさせてあげたい。そのためには、校内にとどまらず、積極的に外とつながることが不可欠である。そうした考えの下、倉敷高校では学校の枠を外して活動の輪を広げる取組が進んでいる。取組を先導してきた浅井克憲先生は、「〝やらされ感〞があり主体性が足りていないのが、本校の生徒の課題だった。学校の中だけでは、生徒は成長しない」と述べる。

「日常的かつ同質的な校内での学びだけでなく、普段は得られないような刺激を受ける非日常の教育活動が必要だと、常々感じてきました。例えば、部活動における他校の生徒や先生との交流や協働的な活動を通して、生徒は大きく成長します。そうした経験ができる場をより多くつくりたいと考え、校内外に縦・横のつながりを広げることに努めてきました」(浅井先生)

横に広げる取組のひとつが、GLE(グローバル・リーダーシップ・エデュケーション)だ。GLEは、グローバル人材の育成を目的とした実践型教育プログラム。小中高生が中心となり、海外のアーティストを招聘したイベントを企画・運営することを通して、主体性やコミュニケーション力、判断力といった資質・能力を身につけていく。倉敷高校に先駆けて長崎南山高校(長崎・私立)や松風塾高校(青森・私立)が実践しており、倉敷高校は一昨年度(2019年度)より実践校に加わった。GLEとして掲げる「グローバルリーダーシップ」に「シチズンシップ」「フレンドシップ」を加えて倉敷高校のGLEの本柱とし、他者を尊重・理解し、他者と関わり、共に活動するといった能力を育てることを取組の軸に定めた。

1年目は、川崎医療福祉大学の特別協力により大学の記念講堂でラテンジャズコンサートを開催。生徒会メンバーと有志、吹奏楽部員ら学年混合の40名程度からなるGLE実行委員会を結成し、イベントの企画、広報、楽器や舞台の準備などを主体的に担った。また、指導・助言役として、川崎医療福祉大学の学生も年間を通して参加した。1部は他校(長崎南山高校・松風塾高校)と共通(別日開催)のコンサート、2部は各校独自の生徒企画という構成で、他校とはをSkype使ってつながり、情報を共有・交換しながらイベントを作り上げていった。「GLEに関わった生徒は、驚くほどに成長した」と浅井先生。「それまではどこか受け身だった進路への意識や勉強への姿勢も変わり、自分の夢に向かって主体的に大学を選択し、自ら道を拓いていった。きっかけや環境さえあれば生徒は変わっていくのだと実感した」と振り返る。

3校の生徒が協働して
オンライン文化祭を開催
学校を越えた協働が飛躍的に進んだのが昨年度だ。コロナ禍のなかGLEはオンライン開催となり、「世界とつながるオンライン文化祭」と称して秋に2日間にわたって開催されることになった。本番に向け、各校のGLE実行委員の代表が集まるオンライン会議を2週間に1回ほど実施。各校で出た意見を持ち寄り、議論を重ね、決まったことを再び持ち帰って検討する…ということを繰り返しながら、イベントのコンセプトづくりから役割分担などの実務的な部分まで少しずつ詰めていった。  

他校の生徒との交流・協働に加え、広告・宣伝のプロによる研修や外部アドバイザーによるサポートなど、社会人とふれあう機会が多いのもGLEの特徴だ。昨年度までGLEの担当だった向井崇真先生は、「アーティストに送るメールの内容を考えたり、第一線で活躍する社会人の方の意見を聞いたりといった社会とつながる経験は、生徒にとって大きな刺激になったようだ」と言う。本番は盛況で、YouTube配信の視聴者は300人近くにまで上った。  

今年度は、コロナ禍の状況を鑑みてアーティストのコンサートは自粛し、倉敷高校、長崎南山高校、神村学園高校(鹿児島・私立)の3校合同で「英語スピーチフェスティバル」を開催する予定だ。昨年度に続き、定期的なオンライン会議で生徒同士が連携しながら準備を進めており、「主体性や課題解決能力の育成に加えて、学校という枠を越えて人と、社会と、世界といかにつながるかというソーシャルスキルの習得につながっている」と、今年度のGLEを担当する野村正和先生は述べる。

昨年度と今年度は、3校のGLE実行委員がZoomでつながりオンライン会議を実施。
最初は遠慮がちだった生徒たちも、次第に積極的に発言するようになっていった。

  

上戸さんと金石さん(左コラムに登場)は、「やるからには活躍したい」と自らオンライン文化祭の司会に立候補。
イベント本番は緊張したと言うが、終わ ったあとは3校のGLE 実行委員全員で画面越しに大きな達成感を分かち合った。

  

縦・横のつながりのなかで、
他者理解の素地を育てたい  
より多くの生徒に学校の枠を越えた活動を経験させ、主体的に物事に取り組むきっかけを与えたいと、倉敷高校では縦につながる高大連携にも力を入れている。岡山県内の大学・短大校、専門学校4校と提携し、今年度からは「3(高校)+4(大学)」の枠組みで探究的に学ぶ「IQ(Interest:関心・Quest:探究)ゼミ」に本格的に取り組み始めたのだ。

「地元・岡山に貢献する人材を、倉敷高校での年間を越えた岡山での3年間という枠組みの中で育てたい…という私たちの思いから、県内の大学との高大連携を進めてきました。大学の講義を受け、その内容をレポートにまとめて発表したり、大学や専門学校の先生に出張講義やオンライン講義をしていただいたりしています。今後はより探究学習に力を入れていきたいと考えていますが、探究の前段階として興味・関心(interest)をもつことが大事です。生徒一人ひとりのinterestを引き出すきっかけとして、高校だけに閉じない学びはとても意味のあるものだと思っています」(浅井先生)  

ほかの高校や大学とのつながりに加えて、さらに多様な縦のつながりづくりにも意欲的だ。今年月には、地元の商工会に学校法人として加盟した。今後は、「生徒がいろいろな業種・職種や年代の人たちと関わり合いながら地元のことを考え、活動する機会をつくっていきたい」と浅井先生。「地域で子どもを育てることをしなくなった結果、子育てや教育の場が同質的なものになり、生徒が自分と異なる立場の人とふれあう機会が減り、他者を理解しようとする姿勢が育ちにくくなっていると感じる。相手の良さを知り、その良さを活かすことも、能力のひとつ。縦とも横ともつながりながら活動することで、その素地をつくりたい」と締めくくった。


Voice 学校の枠を越えて活動した

生徒たちの声

  

思わぬ発見があり、別の視点から
見てみることの大切さを実感した

上戸さん:学校行事が中止や縮小になるなか、少しでも本校の生徒が楽しめる機会をつくりたいと思い、参加しました。

金石さん:私は人と関わることが好きで、いろんな人ともっとつながりたいと思っていました。一方、部活動などをしていないので他校の生徒と関わる機会が少なく、さらにコロナ禍の影響で外部の人との交流が途絶えてしまっていました。そうしたなか、他校の生徒ともほかのクラスや異学年の生徒とも関われるGLEを通して、今までとは違う世界に出合えるのではないかと思い、参加を決めました。

上戸さん:最初は慣れない者同士、意見が出せないこともあったけど、次第に仲間意識が芽生えました。自分たちが考えつかないようなアイデアが他校の生徒から出てきて新鮮だったり、意見交換をするなかで自分ではいいと思っていたアイデアのデメリットが見えてきたりして、自分と異なる視点で見てみることの大切さを実感しました。

金石さん:最初は初対面だったことに加えてオンラインだったので戸惑いましたが、たとえ賛成できる意見ではなくても相手の発言を最後まで聞くようにするなど、コミュニケーションのマナーや相手への思いやりを身につけることができました。育った環境や使う言葉など違いを感じたこともあれば、共感できる点や共通点もあって、学校を越えて仲間としていい関係性を構築できたと思います。

上戸さん:私たちは本番では司会を務め、終わったときは達成感でいっぱいでした。私はもともと人前に出るタイプではなかったのですが、いろんな人と意見を交わしたり人前で話したりしたGLEの経験を通して自信がつき、その後、生徒会長にも立候補しました。

金石さん:他校の生徒や外部の社会人など多くの人と関わったことで、意外な発見や普段の学校生活では得られないような刺激をたくさんもらえました。自分が知らない世界とつながることの大切さを改めて感じました。

左から、GLE2020実行委員会・副委員長 上戸かみと春佳さん、金石玲佳さん

  

学校データ:1960年創立/普通科・商業科/1108人(男子689人、女子419人)/新時代の高校を創造する「倉敷クエスト」を掲げ、教育改革を推進中。

取材・文/笹原風花