編集長 小林浩コラム(巻頭言)

各大学の「カレッジ・レディネス」は示されているか(カレッジマネジメント Vol.214 Jan.-Feb.2019)

各大学の「カレッジ・レディネス」は示されているか

APに基づき、全ての入試区分で『学力の3要素』を問う
  現状入学者選抜改革はどこまで進んだのか。結論から言うと今回のテーマである入学者選抜改革については、2021年度入試に向けての大学の取り組みはまだ“手探り状態”と言わざるを得ない。大学入学者選抜要項には、大きな影響のある入試の変更は「2年程度前には予告・公表する」という、いわゆる“2年前ルール”があるが、本稿を執筆している12月現在、多くの大学で予告・公表が行われていない状況である。2021年度入試では、各大学のAP(アドミッション・ポリシー)に基づきAO入試(総合型選抜)・推薦入試(学校推薦型選抜)・一般入試(一般選抜)全ての入試区分で、『学力の3要素』を問う入学者選抜に変えていくことが強く推進されていくことになる。そこには、大きく2つのポイントがある。①各大学のAPに基づくこと、②全ての入試区分で『学力の3要素』を問うこと、である大学は、前述の①と②の双方を並行して進めなければならず、そこまで詰められていないというのが現状であろう。①のAPについては、2016年3月に文部科学省が発表した「ガイドライン」において、下記のように記されている。

    (アドミッション・ポリシーについて)
  • ディプロマ・ポリシー及びカリキュラム・ポリシーを踏まえるとともに、「学力の3要素」を念頭に置き、入学前にどのような多様な能力をどのようにして身に付けてきた学生を求めているか入学後にどのような能力をどのようにして身に付けられる学生を求めているかなど、多様な学生を評価できるような入学者選抜の在り方について、できる限り具体的に示すこと。また、必要に応じ、入学前に学習しておくことが期待される内容についても示すこと。
  • 入学者選抜において、アドミッション・ポリシーを具現化するためにどのような評価方法を多角的に活用するのか、それぞれの評価方法をどの程度の比重で扱うのか等を具体的に示すこと

※下線は筆者

 特に下線を引いたところについて、学内で意思決定をした上で公表することが必要になる。これまでのように「入学がゴール」ではなく、入学した学生をきちんとポリシーに基づいて育成するという観点からの整理が必要であり、それはこれまで何十年も行ってきた大学教育の根本を見直す、大変な作業である。そうした観点から、育成する人物像や教育方針に基づき、入学するには『学力の3要素』において、このような準備をしてきてほしい、ということを受験生・高校教員・社会に対して発信することが求められている。これは「カレッジ・レディネス」と呼ばれており、翻訳すると「うちの大学・学部に入学するためにこのような準備をしてきてください」ということである。もちろん、育成する人材像や教育方針は大学ごとに異なるため、本気で取り組むには、これを解きほぐして整理し、入学者選抜に反映させていかなければならない。しかし、まさに“言うは易く行うは難し”である。こうした入学者選抜が実質化していくには、まだまだ時間がかると考えられる。

 また、②については、それぞれの入試区分で『学力の3要素』を多面的・総合的に評価することが求められている。しかし、各大学を悩ませているのが、民間の英語4技能試験の活用と、一般選抜における主体性の評価であろう。どちらも公平性をどのように担保するのかという課題がある。特に主体性の評価については、調査書や高校までの活動履歴の活用・評価方法について、大学と高校の間でコンセンサスが取れないまま、双方とも疑心暗鬼の状況が続いているように思える。

3つのフェーズで進む入学者選抜改革

 あくまで個人的な意見だが、大きく入学者選抜改革は、3つのフェーズ(段階)を経て進んでいくと考えている。

※クリックで画像拡大

 まず、第1フェーズは、高大接続答申以降、その理念に共感し、いち早く改革を進めた大学が出てきた「黎明期」である。この時期の改革は、AO・推薦入試の改革である。大学が育成する人材像や教育方針を明確にし、その教育の特徴や人材像を入試の名称に「メッセージ」を乗せて多面的・総合的に評価するものである。こうした入試は非常に手間がかかるため、募集人数も少なく、概ね定員の3%〜20%程度となっている。そこで重要なのは、「マッチング」である。大学のメッセージと受験生の学力・意欲等のマッチング型入試を行い、小さなチャレンジからその成果の検証を行いながら、次のフェーズへの準備を進めている状況と言えよう。

  第2フェーズは、2021年度入試に向けた一般選抜を含む改革である。全ての入試区分で、APに基づき、学力の3要素を評価していこうという大学がでてきた「導入期」である。

  本来は、今年がその公表の時期に当っている。2021年度入試に向けた入試改革を発表している代表例は早稲田大学だろう。話題となったのは、政治経済学部では大学入学共通テストで数学が必須になるということだ。その意図としては、政治経済学部では入学後の学びに数学は必要であり、合格をゴールにするのではなく、「カレッジ・レディネス」として、入学後の学びに向けた準備をしてきて欲しいというメッセージである。長文読解を課すことで問われる論理的思考力を含め、真の意味での高大接続型に舵を切ったと言える。

 そして、第3フェーズは、新学習指導要領で学んだ生徒が大学受験に臨む2025年度入試。ここからが「本格実装期」となろう。この時には、黎明期、導入期で入学した学生の学修成果が検証されるようになり、各大学のAPがより精査されなければならない。その上で、大学入学共通テストでは全ての教科で記述式が導入され、英語4技能や主体性を評価する取り組みの検証も進んでいるだろう。

 各大学の入学者選抜改革が「カレッジ・レディネス」を意図したものになっているかどうか、そして入学後の育成まで考えられているか、人材育成のメッセージが込められている。各大学の教育の在り方を考える上で、重要な視点だと考えている。

 

本誌はこちら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

プロフィールはこちら