全国型「京女」ブランドを支える少人数教育/京都女子大学

 京都女子学園は、京都女子大学のほか、京都女子大学大学院、京都女子高等学校、京都女子中学校、京都女子大学附属小学校、京都幼稚園からなる総合学園であり、2010年には創立100周年を迎えている。親鸞聖人の体せられた仏教精神により、自己中心でない豊かな人格を育てようとの建学の精神のもと、京都女子大学では学園創立100周年を機に、10年後に目指す大学像“京女グランドビジョン”を制定した(図表1)。そこには、教育・研究の両面からの全学的な改革による、新しい女子大学像の提案が描かれている。

 京都女子大学に対する女子高生の評価は、リクルート「進学ブランド力調査」にも表れているように非常に高い(カレッジマネジメント176号参照)。「資格取得に有利である」「学生生活が楽しめる」「自分の興味や可能性が広げられる」「先輩・卒業生が魅力的である」といった項目では、関西エリアで女子大学でトップとなっている。

 女子の大学進学率が上昇しているとはいえ、女子の進学先が女子大学に限られているわけではない。歴史と伝統を持ち、「京女」ブランドを確立しているとはいえ、京都女子大学は5学部10学科3 専攻からなる1学年1,300名程度の中規模大学である。大規模大学に比べればマンパワーも予算も少ない中で、共学大学とも競合しながら、京都女子大学はいかにして評価され、いかなる課題を抱えながら女子学生の獲得を果たしているのだろうか。

 川本重雄学長に、そのあたりのお話をうかがった。

図表1.京女グランドビジョン

改革を進め、教育力を大学に終結

 京都女子大学は、歴史と伝統を大切にしながらも、社会の新しいニーズに柔軟かつ的確に対応できる女性、自立した心豊かな人生を過ごすことのできる女性の育成をめざし、「学生のための」改革を推し進めてきた。

 1920年に設置された京都女子高等専門学校を前身とし、戦後の学制改革に伴い文学部国文学科、英文学科、中国文史学科(翌年、東洋史学科に改組)、家政学部食物学科、被服学科、児童学科の2学部6学科の体制で1949年に京都女子大学は開設された。1956年に増設した文学部初等教育学科を、1964年には教育学科に改組し初等教育学専攻と音楽教育学専攻を設置、1993年には文学部東洋史学科を史学科に被服学科を生活造形学科にそれぞれ改組し、食物学科を食物栄養学科に名称変更している。

 21世紀を迎え、女性に対する社会のニーズの多様化を背景に、改革の動きはますます加速している。2000年には、現代社会学部現代社会学科を開設、併せて全学にわたる全面的なカリキュラム改革を行い資格取得課程も大幅に増設した。2004年には、文学部の教育学科と家政学部の児童学科を改組し再編して発達教育学部を設置するとともに家政学部に生活福祉学科を増設している。記憶に新しいところでは、2011年、日本の女子大学ではじめての法学部を設置するとともに既存学部・学科の定員増及びカリキュラムの改革、学生支援体制の充実を実施している。

 一方、大学の新学部設置に伴う定員増のために短期大学部全学科・専攻の定員を2000年に減じて以来、各学科・専攻の定員を段階的に縮小し、60年にわたり短期高等教育機関としての役割を果たしてきた短期大学部は、大学に“教育力を結集させる”ことを目的として、2010年度を最後に学生募集を停止している。

日本の女子大学初の法学部の設置

 段階的に短期大学部の学生募集を縮小・停止していく中で、女子大学としての新しい姿について様々な案が学内から出たが、「女子大として唯一のものを、奇をてらわずに、まずはやってみよう」と、日本の女子大学初の法学部の新設に至ったという。社会科学系の学生募集は共学大学でも苦戦している現状を承知の上で、それでもなお社会的マーケットのニーズがあるとみてのことだと学長は語る。

 京都女子大学の大きな特徴は、全ての学部において女子大学ならではの少人数教育が実践されており、きめ細かな指導が行われている点にある。それは新設された法学部でも例外ではない。全国でも最小規模の1学年100名の定員に対し16名の指導教員が指導にあたり、これまでにない少人数での法学教育を実現している。法学部では珍しく卒業研究を必修科目として設置するなど、職業人として求められる実践力を修得することも目指している。

 「女性のための法律科目」を充実させていることも大きな特徴である。21世紀の法化社会の中で、社会の法的諸問題を自ら発見し、その解決に主体的に取り組み、法的に処理する実践力を持つ「女性の知性と人間性」を育み、人のいのちを大切にし、人々の福祉に貢献できる「人間としての力」を育てることを教育目標とし、法学部の学びの基礎である「基本六法」を学んだうえで、女性に特有の社会問題の法的解決に関連する科目群(「ジェンダーと法」「女性の労働と法」など)と、女性市民の積極的貢献が期待される科目群(「市民活動と法」「企業社会と法」など)で構成される「女性のための法律科目」を開講している。

 こうした教育目標やカリキュラムからも分かるように、卒業生が法曹関係の職に就くことを必ずしも期待しているわけではない。「弁護士養成機関ではないので、法科大学院を作る予定はない」との学長の言葉にもそれは表れている。女性が社会に出た際に必要なリーガルマインドの育成をあくまでも目標とし、各自の進路や興味に応じて履修することで、女性の生活や人生からの視点を加えた法学教育を実施している。

図表2.在学生の出身地(2012年5月現在)

全国から「京都」に集まる学生

 京都女子大学のキャンパスは、京の名所三十三間堂や京都国立博物館に隣接する、京都東山阿弥陀ヶ峰の山裾に広がっている。学寮を含む全ての施設がこの東山のキャンパスにあり、古都「京都」ならではの歴史と文化に囲まれた静かな環境の中で、勉学や研究に取り組むことができる。

 「東山に惹かれ、ここで国文学や歴史学を学びたいといった学生が地方からも来ている」と学長が言うように、「京都」という地の利もあってか、女子大学には珍しく、学生は全国各地から集まってくる。以前に比べればその割合は下がっているというが、現在でも、在学生の出身地のおよそ4割は近畿圏以外で占められている(図表2)。

 そのため、近畿圏のみならず、九州、中国・四国、最近は東海といった地方にも出向いて入試広報を行っている。京都の大学で構成されるコンソーシアムでは、日程を合わせてオープンキャンパスを実施し、様々な地方から「京都」を訪れる受験生に対して各大学がその魅力をアピールしているという。入試会場も各地に設けており、入学者の17%を占める公募制推薦入試では、近畿圏以外にも、東京・名古屋・金沢・岡山・広島・高松・福岡を会場としている(一部の専攻、方式を除く)。

 キャンパスに直接足を運ぶことが難しい受験生のことも考慮し、ウェブサイトを活用した広報活動にもかねてより力をいれている。その一例である「京女倶楽部」は、受験生と保護者のための受験に役立つ情報や、楽しいコンテンツが盛りだくさんの会員制サイトである。今でこそ同様のサイトを多くの大学で活用しているが、2005年に京都女子大学がはじめた当初は斬新なコンテンツとして注目度も高かったという。現在でも中学生を含め2,500名を超える登録者数を誇るが、資料請求者が35,000~37,000件であることを考えると、会員数の伸び代はまだ十分にあるだろう。追随する他大学のコンテンツとの差別化も含め、リニューアルを検討しているそうだ。

「京女」ブランドを支える学寮生活

 全国から集まる学生のために、京都女子大学には、錦華寮、小松寮、東山寮、日吉寮の4つの学寮があり、全てキャンパスに隣接している。希望者は全て希望する期間にわたって入寮できる規模を持ち、新入生のおよそ4分の1が入寮しているという。

 そこでは、朝の礼拝が義務づけられるなど、規則正しい共同生活が求められている。1924年に貞明皇后が京都女子大学を行啓された際には学寮も見学され、礼拝などの仏教的情操教育に感銘を受けられて、「あたたかに香りゆかしき心の学校」と表されたという。

 学寮での規則正しい生活習慣は、授業への姿勢にも表れており、学寮生以外の学生にもよい影響を与えているという。「友達と一緒に勉強をしっかりとして、次のステップへ進もう」といった姿勢は非常勤の講師陣からの評判も高く、伝統ある「京女」ブランドを支え育む源となっている。

女子大としての就職支援

 開学以来、京都女子大学では女性の地位向上と活躍の場の拡大を求めて、学部・学科の拡充や資格課程の整備に取り組み、有用な人材を育ててきた。卒業生は、既に16万人を超え、教育界・産業界をはじめ社会の様々な分野で活躍し、「まじめ」「堅実」といった高い評価を得ているという。

図表3.業種別就職状況(2012年3月卒業生)

 就職活動を直接支援する進路・就職課のほか、キャリアセンター、教職支援センターなどの職員の地道な努力もあり、就職難が叫ばれた時期でも、2009年度93.3%(就職希望者1,102名)、2010年度94.8%(就職希望者1,135名)、2011年度94.9%(就職希望者1,108名)と安定した就職内定率の高さを誇っている。西日本を中心にOGネットワークも強く、求人数は例年5,000件を超えている(2011年度は求人件数5,634件)。就職先の業種は多岐にわたり、従業員500人以上の企業に進路を決めた学生も、一般企業就職者の約42%に及んでいる。

 多岐にわたる就職先の中でも、「教育・学習支援業」に就く学生が多く、全体のおよそ1/4を占めている(図表3)。女子の高等教育の先駆者的役割を持つ大学として、教育・保育系への就職に対する強みを伝統的に発揮しており、特に保育園、幼稚園、小学校における採用実績は安定して高い。発達教育学部では7割を超える学生がその道に進んでおり、国立大学(教員養成課程)の平均を超えるほどである。発達教育学部以外でも一定数の学生が教育・保育系の道に例年進んでおり、採用試験合格に照準を合わせた支援を行う教職支援センターをはじめとした、全学的なサポート体制の強さがうかがえる。

 全国から学生が集まる京都女子大学では、卒業後、再び全国各地に巣立つ学生も少なからずみられ、①東京を中心に全国型、②近畿圏に残留型、③地元にUターン型に就職先はおおよそ分かれるという。女子学生であるがゆえに、既に大学進学時点で地元に戻り就職することを希望する学生や親も少なくないそうだ。こうした実情をふまえ、進路・就職課では、全国約1,000社の企業訪問による求人開拓を行うとともに、学生募集とからませて、徳島県との間で就職に関する協定を結んでいる。さらに今後、長野県とも同様の協定を結ぶ予定だという。

併設校との連携・接続の強化

 京都女子大学に対する高校生の評価は高いものの、受験者数に目を向けると、この5年ほぼ横ばいであり、10,000~13,500人(併設校、指定校除く)を推移している。「短期大学部との併願者の減少や、都市部以外からの受験者数の減少が影響している」と学長はその要因を指摘する。短期大学部の学生募集を停止し、また、一部の都市部以外の多くの地方では18歳人口自体が減少している現状をふまえると、全国を視野にいれた学生募集を推し進めながらも、地元である近畿圏や、併設校である京都女子高等学校からの志願者を増やすことをより一層考えていかねばならないだろう。

 京都女子高等学校は言わずと知れた進学校であり、現在は、京都女子大学への募集枠の6割程度の受験者数にとどまっている。だが、京都女子大学への内部進学を目指し、国際教育に力を入れる「高大7年一貫コース」(ウィステリア科)が2009年度より設置されており、今後、併設校からの進学者が増えることが大いに期待される。このコースでは、高大連携講座として、京都女子大学の講義を先取りして一部受講し、認められれば入学後に正式な単位となる。現在は併設校からの入学者は全学生の1割程度にすぎないが、今後、こうした高大連携制度を積極的に活用した学生が増えることにより、単に併設校からの進学者の数が増えるというだけでなく、「京女」ブランドを支え育む新たな担い手が増えていくことも十分期待される。

 京都女子大学での取り組みやビジョンをうかがい、「女子大学」という個性を維持しながらも、「大学」としての特色を持ち、それらを広く示していくことが、今後の女子大学にはますます求められると感じた。

 建学の精神に関わることでもあり、共学化の議論は安易にできるものではなく、「『互いに切磋琢磨できる場である』女子大学として何ができるか」を追求していくと学長は語る。日本人自身が活躍する場として「グローバル化」を捉え、「京都」にある女子大学というメリットを生かし、「この大学にしかできないもの」を今後も作り出していきたいという。伝統ある「京女」ブランドを支え育む学生の姿とともに、次なる「京都女子大学にしかできないもの」にも期待したい。


(望月由起 お茶の水女子大学学生支援センター准教授)


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