私立大学等における新増設・改組の現状まとめ(入学定員の充足状況_2025年度)

リクルート進学総研
研究員 西村紗智


2025年度に新設された大学・学部・学科(以下、新学科等)の入学定員の充足状況について、リクルート進学総研「入試実態調査」のデータを使い、分析を行った(専門職大学を除く、分析単位は学科)。

ポイント
  • 2025年度に新設された学科(N=124)の入学定員充足率は94.9%、昨年より13.8p改善
  • 届出設置には、縮小・再編のための「縮小均衡」も含まれる
  • 「理・理工・工」系統の設置件数は52件と最多で、充足状況は101.1%
  • 学科の規模が大きく、定員を100%以上充足している学科の割合が高い

1)全体概況

22年ぶりの定員純減と充足率の改善

 2025年度は 18歳人口2.5%増、私大の入学者51.0万人(前年+1.6万人)、入学定員は1114人減。22年ぶりに私大の入学定員が減じる大学経営上のエポックメイキングな年となった。(リンク先:共済事業団 https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR7.pdf

 リクルートの入試実態調査においても私大の入学定員充足率は95.1%から95.9%に0.8ポイント改善しており、私大の充足率の改善により全体の入学定員充足率が上昇している。


表1 設置者別入学定員の充足率の推移
表1 設置者別入学定員の充足率の推移


 こうした背景をうけ私大の新設学科の定員充足状況は、前年81.1%(N=111)が、94.9%(N=124)に大幅に改善している。18歳人口の一時的な増加に加えて、理系や情報系の人気分野の新設が相次いだこと、新学部新学科の設置行為が既設学部学科の縮小再編を内包しているケースが多数含まれていることが影響していると推察される。充足状況は2021年度からの5カ年でみると最も高い年度となった。


表2 新設学科の初年度入学定員の平均充足率
表2 新設学科の初年度入学定員の平均充足率


2)設置形態、手続別

拡大意欲の一方で、戦略的な「縮小均衡」も散見

 2025年度には、私大で124の新学科が設置された。設置件数は4年連続で増加傾向にある。大学設置で2学科、学部設置で70学科、既設学部への学科設置で46学科が新設されている。また、学部等連携課程実施基本組織等の設置改組(以後、便宜的に「学環」と称す)が2件、通信教育課程新設改組が4件であった。

 「学部設置」による新学科設置と、既設学部への「新学科」の設置による充足率は昨年度5ポイント以上の差が生じたが、今年度は学部設置が95.4%(+12.7p)、学科設置で95.0%(+17.6p)と、いずれも改善され、ほぼ同等の充足状況となった。


表3 設置形態別_私立大学の新設学科の初年度入学定員の平均充足率
表3 設置形態別_私立大学の新設学科の初年度入学定員の平均充足率


 設置手続別の充足率は、認可で97.1%(+10.6p)、届出で94.4%(+14.8p)であった。

 認可申請は、既設学部等の学位の分野にはない新分野を設置する際の手続きであり、マーケットへの「新規参入」を企図して行われ、相応の準備期間と労力を要する。文系の大学が「理工農」の分野や、医療系の分野を設置する場合はこの手続きは必須となり、学生募集は「新規開拓」に注力することになる。

 一方で、届出は既設の学部学科が有する学問分野であることを条件に、手続き(審査)が簡略化され、既設の学部学科からの教員の異動も容易である。認可に比べて、設置のハードルは低い。既設分野の発展的な改組を前提に、既存のマーケットを残しつつ、発展部分を開拓できる方法であるが、近年は「縮小・再編」を目的とした改革において既設の複数学科をひとつに統合し、同時に定員を減じる計画にも用いられる手続き方法である。2025年度の新学科においても、縮小均衡を企図した改組が散見され、今後も増加傾向になるであろう。新規性を打ち出しにくいという課題があるものの、縮小による定員管理の適正化を急ぐ場合は今年度においては、有用であったとみられる。


表4 設置手続別_私立大学の新設学科の初年度入学定員の平均充足率
表4 設置手続別_私立大学の新設学科の初年度入学定員の平均充足率


3)学問系統別

理工系分野の高位安定と経済・経営系の高需要

 学問系統による傾向の違いは、分野と開設年度別のN数の収集状況のバラつきが大きく、データ分析は困難であったため、一定数以上収集できている分野のみ、3カ年で掲載する。2025年度は「理・理工・工」系統の新学科が突出して多く52件であり、定員充足状況は101.1%(+5.7p)であった。

 2024年度に最多39学科を設置した「文・人文・外国語」系統は、今年度18件であり充足状況は93.2%(+21.2p)であった。コンスタントに設置件数が多かった「保健衛生」系統については、8件に落ち着き91.7%(+5.4p)であった。最も充足状況が良いのは「経済・経営・商」系統であり、充足率111.2%(+28.7p)であった。志願者数、入学定員数共に最大のマーケットを基盤に、比較的充足しやすいことが窺われる。

 一方、過去3年間で、「理・理工・工」系統が最も高位安定していることが分かる。

なお、情報、データサイエンスなどの学科で、「理・工・農」及び「社会科学」のいずれの学位の分野も有する学科については、大学・高専機能強化支援事業を念頭に、便宜的に「理・理工・工」系統に分類している。


表5 学問系統別の入学定員の平均充足率
表5 学問系統別の入学定員の平均充足率


4)充足状況の分布

大規模学科による牽引

 新設学科の入学定員規模×充足率で分布を確認した。

 2025年度は入学定員100名以上の学科が全体の53%、2024年度は43%であった。2025年度のほうが100名以上の学科が増えたことが分かる。充足状況が100%を超えた割合は、2025年度が52%であり、2024年度は31%だった。

 つまり、2025年度の傾向として、学科の規模が大きく、定員を100%以上充足している学科の割合が最も高い(全体の34%)。一方で、2024年度は学科の規模が小さく定員充足100%未満の割合が45%と最も高く、対照的な結果となった。2025年度に全体の充足状況が改善した一因として、「規模の大きな学科の充足状況が良好」であることがあげられる。残念ながら、「規模を大きくすれば充足しやすい」かについては、弱い正の相関はあるものの、説明のつく相関は確認できなかった。


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グラフ1 入学定員規模と充足率の分布(2024、2025)
グラフ1 入学定員規模と充足率の分布(2024、2025)


5)まとめ

規模の拡大から、「縮小転換」のフェーズへ

 新学科の設置といえば、学科や定員を「増加」させて、規模の拡大や分野の拡張による新規開拓を伴うケースが主流であったが、2025年度は「スクラップ&ビルド」の「スクラップ」し、小さく「ビルド」しなおす「ダウンサイジング」の実態が顕在化した年となった。認可・届出による設置行為及び定員増の認可申請による新設分の定員の増加を把握することは可能だが、募集停止や定員減の減少分については明らかにすることは困難であり、全体の総数の増減から推測する域を出ないのではあるが、私大で15141人の入学定員が新増設された(新学科の定員総数及び既設学科の定員増の認可分の和から通信教育課程を除く)一方で、全体では1114人の入学定員が減じられており、大学改革は新増設の手段をもって募集停止や、定員の純減などの目的を達する縮小転換が多分に含まれていることが浮き彫りになった。


グラフ2 2025年度の私立大学入学定員の増減
表2 新設学科の初年度入学定員の平均充足率


 分野をまとめなおし、規模を小さくする「縮小均衡」には一時的な定員充足の効果はあっても、永続的な打ち手とはなりえない。18歳人口がいかに減ろうとも、一定のニーズが残存する分野を保持し、時代ごとのトレンドや地域ニーズの変化に合わせて可変を受け入れる組織体制へ転換することが必要となる。また、昨年のレポートの繰り返しになるが、新増設は単なる組織の延命作業(規模の調整)をこえた、マーケット全体を活性化することを目的に企図されるべきであろう。そのためには絶えず、「新規層の開拓」が不可欠である。例えば労働人口制約社会や、ジョブ型雇用を併用した雇用慣行といった「学外の変化(出口)」と、高校の学習指導要領の改訂に基づいた入試や教育課程の刷新という「学内で起こすべき変化」を包括的に捉えた構想が求められる。社会のニーズと養成する人材像を一体的に練り上げた、市場における「必然性」のある新学科こそが、地域社会からの期待を集め、大学業界全体の活性化を支える原動力となる。

 次回以降で、「異分野への進出」を打ち手とし、2025年度開設で成功を収めた2大学についてレポートする。