「公私協力方式」で生まれ、広き地域とともに創り上げる/長崎国際大学

 長崎国際大学は、学校法人九州文化学園を母体とし、長崎県と佐世保市及び地元経済界の支援による「公私協力方式」によって生まれた大学である。

 2000年の開学当初は人間社会学部(国際観光学科・社会福祉学科)のみの単科大学であったが、2002年に健康管理学部(健康栄養学科)を、2006年には薬学部(薬学科)を開設し、現在では3学部4学科で構成されている。2004年以降、大学院研究科(人間社会学研究科・健康管理学研究科・薬学研究科)も順次開設し、約2000人の学生を有する地域最大の私立総合大学として、地域に貢献できる実践力を重視した教育研究を展開している。

 その成果は「地域に貢献する人材育成機関」としての評価につながり、現在では長崎県内屈指の私立大学としてのみならず、九州私立大学の準上位校としての地位を確立し、九州・沖縄地区からの学生を広く集めている(図表1参照)。

 とはいえ、長崎国際大学が順風満帆に成長し、地域から選ばれる大学となったわけではない。地方の新設私立大学ならではの課題や弱みを抱えながらも、いかなるビジョンを持ち、いかなる取り組みを行っているのだろうか。そのあたりについて、安部直樹理事長・学長、石橋俊弘入試・募集センター長にお話をうかがった。

図表1 学生の県別分布

地域に根ざす学校法人を母体とした「公私協力方式」による開学

 長崎国際大学は「県北に四年制私立大学を」という地元地域のニーズや要請をもとに、国の政策や県の重要課題でもあった「観光」と「福祉」の専門人材を育成する機関として、その地域のあるべき将来のために、行政・財界・学校が手を携えた「公私協力方式」によって開学に至った。

 母体である学校法人九州文化学園は、1945年の創立以来、佐世保市の発展と共に、地域に根ざした教育環境の整備と人材育成に力を入れ、時代のニーズに即した学校教育を行ってきた。しかし「公私協力方式」によるがために、大学を開学するにあたっては、知事や市長も含め、学園外の様々な人の協力を必要とした。「学長として適任な方を探すことが、まずは大変だった」と当時から九州文化学園理事長であった安部学長は振りかえる。また、開学当初から設置している国際観光学科、社会福祉学科はもちろん、健康栄養学科や薬学科も「地域社会で必要とされているか」という観点で開設したため、教員を学外よりイチから集める必要もあった。行政や財界関係者も納得するような学長を探し、それぞれの分野の研究教育の担い手としてふさわしい教員を集めるにあたっては、安部学長自らがキーマンに直接会い、時には断られることもあったが、粘り強く交渉を重ねたという。

学生募集のV字回復

 地域に根ざす学校法人を母体とし、地元地域のニーズや要請をもとに開設された大学とはいえ、志願者や入学者が順調に伸びていったわけではない。

 そもそも開学した2000年は、四年制大学の新設がブームとなっていた時期である。開学以降、学部増設を進めてきたが、志願者数の下降傾向をとどめることはできなかった(図表2参照)。一定の学生募集を見込んでいた薬学部も、開設した2006年から6年制教育となったこともあり、期待していた以上に学生を集めることはできなかったという。

図表2 志願者数の推移(留学生除く)

 2007年に日本高等教育評価機構の認証評価を受けた際には、「入学者数減少による厳しい財務状況」「管理運営体制の未成熟」等を理由に「保留」判定を受けた。2009年の再評価では「管理運営体制の再構築」等を理由に「適格」判定となったが、学生募集上の課題が十分に解決されたとはいえない状況であった。

 しかし2010年度を底として、志願者数はV 字回復をみせている。その大きな原動力となっているのは、それまで独立していた入試部門と募集部門を統合してできた入試・募集センターである。2010年に設置し、民間企業出身の石橋センター長が当初より指揮をとっている。マーケットの現状分析と入試や学生募集に関わる全ての検証及び見直しを行い、募集戦略をAO・推薦入試と一般・センター入試に区分し、現実的な戦術構築を推し進めている。

 例えば、学科ごとの募集優先順位をつけ、定員充足率100%に向けてステップバイステップで取り組んでいる。「大学を象徴するような学科」「学生の成長実績をアピールできる学科」等から徐々に定員充足を果たすことにより、大学そのものへの関心が集まり、ほかの学科に対する関心や志願に波及しているという。既に、健康栄養学科、薬学科では入学定員充足率100%を果たし、2015年度には国際観光学科、2016年度には「全学科入学定員充足」を目指している。

 改善にあたっては、入試・募集センターと入試募集委員会が連携しPDCAサイクルで推進している。経営上層部に対しては、入試・募集センターが運営会議にて進捗報告を行い、全学教授会では入試募集委員長が進捗報告とともに活動協力を求めている。「中長期計画に示していないことでも、現実的課題に向き合い、イノベーションを重ねることが必要」と安部学長も後押しをする。歩留率への着目と対応策の検討・実施、学力上位学生への特待生制度の積極的活用、高校訪問の手法の見直しなど、改善項目はこの5年間で大小50項目を既に超えているという。

九州全域を地域と見据え、学生募集を重点化

 様々な改善を進める中で、学生募集重点エリアについても見直し、転換をしている。

 長崎国際大学のある佐世保市は、日本本土で最も西に位置する街であるとともに(地図参照)、東アジアという視点で見た時、そのほぼ中心に位置する場所でもある。その地で「国際」という名を冠した大学として、開学当初よりアジアを見渡した戦略を立て、韓国や中国等からの留学生の募集を強化してきたが、2010年度には定員充足率の70%を割り込み、過去最低の入学状況に陥った。加えて、留学生に対する入学後の教育負担や、アルバイトに従事せざるを得ないような彼らの経済状況にも頭を悩ませていたという。

 こうした状況をふまえ、国内、とりわけ、地域からの学生募集へと重点エリアを転換させる方向に舵を切り、2011年に策定した経営改善計画にもその方針を掲げた。

 特筆すべきは、地域として見据えているエリアが、地元長崎県のみならず、沖縄県を含めた九州全域であるという点である。2012年度入試に向け、エリア対策のトライアルとして沖縄県を重点強化し、2013年度入試に向けては、沖縄県専用のリーフレットや動画も制作した。そこには沖縄県出身の在学生や卒業生が実名・出身校名入りで数多く登場し、後輩にむけてのリアルで温かいメッセージを寄せている。2013年度入試からは、新規参入地域として山口県へも目を向け始めており、地域の広がりもみられる。

 学生募集重点エリアを拡大したことにより、それぞれの地の生徒・保護者・高校教員からのニーズに耳を傾け、それに必要な情報提供や対応がますます求められるようになった。地域の高校を訪問する際には、「大学側が伝えたい情報」よりも「高校側が知りたい情報、先生に役立つ情報」を職員が簡潔に提供している。

 2011年度入試以降は、入試日程に関しても「学事日程等大学側の都合」ではなく「受験生側の都合」を優先し、推薦入試の一部を国公立大学や競合大学の推薦合格発表後に志願できるようにした。

 また、成績優秀者を対象とした「特待生制度」に加え、地域の家庭の経済状況を考慮し、2013 年度入試以降、経済的事情により就学が困難な優秀な学生に対する「減免奨学生制度」を制度化した。さらに、長崎国際大学に在学期間が重複する兄弟姉妹に対しては「兄弟姉妹在学者奨学金制度」を導入し、各自の授業料1割相当を給付するなど、家庭レベルで地域から選ばれるような仕掛けも施している。

 さらに、18歳人口が減少していく中で、「進路多様校から進学校まで」と地域の中で募集ターゲットを広げ、志願者層も重層化している。特待生制度の評価もあり、九州各県を代表するような高校からの入学者も増え始めている。在学生を起点とする口コミの影響は大きく、入学につながることも期待しているという。

地域社会に貢献する人材育成

 いわゆる2018年問題を前に「全学科定員充足」の状況を作り出し、安定的に維持していくためには、「入学した学生を育て、目指す資格を取得させ、地域社会に送り出していく成果」が極めて重要な課題になると安部学長は考えている。

 長崎国際大学では、開学当初より「地域社会に貢献する人材育成部門」として地域から必要とされる大学となることを目指してきた。対人サービスの各専門分野の人材育成、薬剤師や管理栄養士等各種資格取得の促進とともに、3学部4学科が連携し、社会人基礎力と専門分野を身につけ、他職種や地域社会を理解し、チームで協働できる社会人の育成に力を入れている。学年間のコミュニケーションの醸成、効果的学習時間の確保を目的にLA(ラーニングアシスタント)制度にも積極的に取り組んでいる。「地域力を生む自律的職業人育成プロジェクト」が平成24年度「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」(文部科学省)に採択され、大学間連携共同教育推進事業においても平成24年度「留学生との共修・協働による長崎発グローバル人材基盤形成事業」が採択されたことで、より一層こうした取り組みを強化している。

 一方で、教職員の能力開発にも余念がない。体系的なFD・SDを展開することはもとより、教職員の学位取得も支援している。また、安部学長のリーダーシップの下、平成26年度からは教職員双方での人事考課制度の導入も始まっている。様々な取り組みは学生に有益であると同時に、地域の産業界とともに人材を育成するパートナーとしての長崎国際大学への期待や評価にもつながるだろう。

地域における存在感の強化

 学生募集や人材育成に限らず、教育・研究・社会貢献においても、長崎国際大学では地域を重視し、そこでの存在感を強めている。

 地元長崎県及び佐世保市における各種連携事業もさることながら、平成25年度からは平戸市とも多面的な連携事業が展開されている。地元自治体に留まることなく、より広域に歩を進める長崎国際大学のスタンスがここにも垣間見える。

 また、スポーツ活動による地域活性化にも力を入れている。ナショナルチームメンバーを輩出するアーチェリー部を始めとした全国レベルの強化指定部の活動を支援するとともに、2015年度より、全日本大学選手権等トップレベルの大会出場を目指す硬式野球部を創設する。長崎県内の高校硬式野球部男子登録者はサッカーに次いで多いにも拘わらず、硬式野球部が活動している県内私立大学はなかった。オープンキャンパスで実施した野球部創部説明会には80名もの参加があり、5月にはキャンパス横に野球場が竣工予定という。

 茶道教育を通じたホスピタリティの涵養も大学の大きな魅力となっている。安部学長も教鞭をとる茶道文化の授業は、単なる礼儀作法の習得といった枠組みではなく、九州文化学園が理念とする「全人教育」を具現化するツールとなっている。学生達は教室の授業だけでなく、施設を訪問しての呈茶、近隣住民との茶会の開催等、地域貢献活動を行っている。

 長崎国際大学は、地域から愛され、地域社会に貢献できる人材の育成を目指していることを、様々な場面で明確に示している。「地域が『元気であること』を目指し、そのためにも大学が地域の中で『元気な大学』であること。イノベーションを重ね、いつも何かをしているような大学でありたい」という安部学長の思いを、石橋センター長を始めとした教職員がPDCAサイクルに基づき迅速に目に見えるカタチにしてきた結果、“地域から選ばれる大学”としての実績につながっているのではなかろうか。

 ここで重要なのは、「大学側の目線・都合」ではなく、「地域の方々の目線・都合」に重きをおき、そのために有益な取り組みを適材適所で行っていることであろう。それは、地域とともに大学を創り上げていくことにほかならない。こうした大学が地域から選ばれるのは、当然のことなのかもしれない。


(望月由起 お茶の水女子大学 学生・キャリア支援センター准教授)


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