Fビレッジへの移転を通じて 新たな「まち」と共に医療人を育む/北海道医療大学
北海道の医療を支える国内有数の医療系総合大学、北海道医療大学。薬学、歯学から看護、リハビリ、心理まで、「多職種連携教育」を通じて超高齢社会や高度化する医療の場で活躍する多様な専門職を育成している。1974年の開学から50年、現在は札幌近郊の当別町と札幌市あいの里にキャンパスを構えるが、2028年4月、その歴史に大きな一歩を刻む。全ての学部機能を、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中核とする「北海道ボールパークFビレッジ」(北広島市)に全面移転するのである。
地方大学が抱える課題に対し、同大学はなぜ、未来を託す場所にFビレッジを選んだのか。その大胆な決断の背景にある緻密な戦略と、地域と共に描く未来像について、学校法人東日本学園の鈴木英二理事長に聞いた。
未来への危機感が生んだ、理事会の「机上訓練」
「移転の検討を始めたのは3年ほど前。全ての議論の根底には、やはり18歳人口の減少という、避けては通れない未来がありました」
鈴木理事長は、複合的な課題が移転検討の引き金になったと語る。
「本学が位置する当別町は、冬になるとJRが運休することも珍しくありません。国家試験や卒業を控えた1~3月という最も大事な時期に学生が大学に来られなくなったり、札幌に帰れなくなったりする事態が起きていました。また、開学から50年が経過し施設の老朽化も深刻でした」
このままでは大学の魅力を維持し、社会の期待に応え続けることが困難になる。その強い危機感から、理事会で将来のあらゆる可能性を探る「机上訓練」を行ったという。
「M&Aや公立大学への転換、そしてキャンパス移転。札幌市内等複数の候補地を検討のテーブルに載せ、あらゆる選択肢を本気でシミュレーションしたのです」
Fビレッジという未来への選択と、地域との誠実な対話
移転先として、なぜFビレッジだったのか。それは、単なる利便性の向上に留まらない、大学と地域の未来を共創するパートナーとしての魅力があったからだ。
「Fビレッジは単なるボールパークではなく、一つの『まち』を創るという壮大な構想です。そのなかで教育・研究機関は重要な役割を担う。われわれの目指す方向性と完全に一致しました。また、新千歳空港と札幌駅のほぼ中間に位置し、2028年にはキャンパス直結の新駅も開業予定です。札幌まで15分で空港にも近いというアクセスは、学生募集はもちろん、国際化を推進する上でも計り知れない価値があります」
しかし、その決断で課題となったのが、50年にわたり大学と共に歩んできた当別町との関係だった。「当然、町からは移転を考え直してほしいという切実な声を頂きました。われわれが伝えたのは、短期的な視点ではなく、このまま当別に留まることが、長い目で見て本当に地域のためになるのか、という問いです。大学が活力を失えば、いずれご迷惑をおかけすることになる。誠意を持ってわれわれの考えを説明し、対話を重ねました」
大学は、ただ去るのではない。跡地活用にも主体的に関わり、未来への責任を果たす姿勢を示した。その想いが地域を動かす。キャンパス裏の広大な森は新たなかたちで有効活用することを決定。地元の若手経営者達からは「自分達で町の未来を創ろう」とイベントが企画される等、前向きなエネルギーが生まれている。
「まち全体がキャンパス」へ。産学官が一体となり推進
2028年に誕生する新キャンパスは、これまでの大学の概念を覆す。地上10階建て規模の都市型キャンパスの中心には、学部間の壁を取り払う「共用棟」を設置。図書館や講義室を共有化し、学生や教員の日常的な交流を促すとともに、同大学の多職種連携をさらに推進する。
「目指すのは、大学が地域に溶け込み、『まち全体がキャンパス』となる姿です。学生はFビレッジというまちに出て、様々な人と交流し、学ぶ。すでに北広島市内の福祉施設や病院、歯科技工士専門学校との連携も進んでいます。学生が地域課題の解決に貢献し、地域が学生を育てる。そして、卒業した学生が地域に貢献する。そんな好循環を生み出したい」
大学がまちづくりに参加するという構想は、大学単独で進めるものではなく、北広島市、Fビレッジ、近隣の大学等により、テーマごとの「チーム」で具体化を進めている。今後は産学官のプラットフォームを形成することも検討しているという。
キャンパス移転による大学と地域の未来共創
この一大プロジェクトの推進力は、北海道医療大学に根付く「全学的な情報共有の文化」によるところが大きい。かつて50%台に低迷した歯学部の国家試験合格率を、教職員一丸の改革で90%以上に引き上げた成功体験。そのノウハウは全学で共有され、組織に浸透している。 FD・SD活動も活発で、入試結果などの情報を全教職員で共有し、常に危機感と当事者意識を持つ文化が醸成されている。
さらにこれからの地方大学の役割について、「大学が果たすべきは教育、研究、そして社会・地域貢献です。特にわれわれのような地方の私立大学にとっては、3番目の地域貢献がますます重要になってきます。地域に深く根ざして貢献し、そこに有為な人材を輩出していく、そうした大学であり続けたいのです」と鈴木理事長は語る。
地方大学の改革は、地域の未来そのものを映し出す。北海道医療大学のキャンパス構想は、単に場所を変えることを超えた、大学と地域が未来を共創するという新たなモデルとなりそうだ。
(文/金剛寺 千鶴子)
新キャンパスは北広島市・北海道ボールパークF ビレッジ内に開設予定
1キャンパスで多職種連携教育をさらに推進する