大学の教養科目16単位を取得する「APU・立命館コース」を高校に設置/岩田中学校・高等学校
私立岩田中学校・高等学校(大分県)は、2008年より高校に「APU・立命館コース」を設け、立命館アジア太平洋大学(以下「APU」)と7年間の高大一貫教育を行っている。大学と、その附属校ではない高校がコース設置という形で連携するというあまり見られないケースだ。その意義や協働の仕組み・工夫等について児玉洋司校長に伺った。
高大7年間の一貫教育でグローバルに活躍できるリーダーの育成を目指す
岩田中学校・高等学校は、1900年に開設された大分裁縫伝習所を起源とする中高一貫校である。多様性とリベラルアーツを重んじる方針のもと、1学年あたり約100名で教育を行っている。卒業生とのつながりを深く保っていることも特徴だ。
教育課程では、中3以降、医学科合格を目指す「医進クラス」と難関大学合格を目指す「進学クラス」に分かれ、高校から「APU・立命館コース」が加わる。同コースは30名を定員に国内外から入学者を募り、内部進学の希望者数名も含めてクラスを編成。主な内容として、高1・高2は週2時間、APUの学生の支援を受けながら行う探究学習(「エリアスタディ」「夢につながる経済学」)、高3はAPUへの週2日の通学による教養科目8科目16単位の履修等がある(図)。そして、学校法人立命館が指定する複数回の「学習到達度検証試験」の基準点をクリアし、校長推薦を得た生徒は、APU及び立命館大学文系学部のうち希望する学部に進学できるという仕組みだ。
互いの利点や姿勢の合致により連携が実現
同校がAPUと連携協定を結んだのは、立命館側からの打診がきっかけであったという。ちょうど、商社や大学等で国際的に活躍する卒業生からの情報により、国際的な視点やスキルの育成の重要性を認識し、その方法を模索していた同校にとってもメリットのある話であったことから、連携に至ったという。「本校は、『失敗を恐れない』という先代の理事長の考えのもと、ある分野においては県内の他校をリードしていくことが使命であるという気概を持って様々なことに挑戦しています。APU・立命館コースの設置もその一つです」と児玉氏は当時を振り返る。この「失敗を恐れずに挑戦する」という同校の姿勢と、「自由と清新」を建学の精神とする立命館の志向との一致が、コース設置を実現させたともいえよう。
コース運営に当たっては、学校法人立命館中高一貫部の担当チームが年間5~6回、同校を訪れ、課題や互いの要望、新規プログラム案等を洗い出して検討する意見交換会を実施。加えて、年1回、両法人の代表者や現場の代表教員等の関係者が集まって、1年間の振り返りと今後について議論する機会も設けているという。「当初、コースの具体的な内容を詰めていく際は、大学側がリードしてくださった面はあります。ただ、立場としてはお互い対等で、今は大学は高校の本音をしっかりと探り、私達も大学がどのような連携プログラムを実現したいのか積極的に聞いたうえで、高校としての要望を詳細に出す関係になっています。大学からは、『受け身にならずに高校からも積極的に要望やアイデアを出してほしい』というスタンスを感じます」と児玉氏は説明する。
他方で、性質の異なる組織の協働であるが故の苦労も少なからずあるという。例えば、高大連携専門の部署があり人が動くフローやスケジュールを細かく定める大学と、各教員が複数の校務をマルチに担い、1年間をおおまかに捉えて動く高校という、人員規模や時間感覚、物事の進め方には「違いを感じる」(児玉氏)とのことだ。また、プログラムやイベントによっては、担当教員に休日・時間外勤務の必要が生じたり、学校行事と重複したりする可能性もあるため、「担当教員用の就業カレンダーの整備や、プログラムにぶつからない日程での学校行事の設定等は、管理職が苦労しているところです」と児玉氏は話す。
これらの点をふまえて児玉氏は、「連携先を判断するうえで、現場の教員を知ることが重要ではないか」と示唆する。「協定の締結そのものは法人事務局同士で成り立ちますが、実際に運営していくのは現場の教員です。高校側の理事長や校長、教頭だけと話して連携を決め、トップダウンで動いてもらうのはうまくいかないパターンになりやすい。管理職の内諾を得たうえでコース主任や進路指導部長等、現場の鍵となる教員の話を聞き、連携の可否を判断することが重要ではないかと思います」と続ける。
高校としての育成方針と大学からの期待のバランス
APU・立命館コースで学ぶ生徒の特徴としては、「物事に主体的に取り組み、自己解決力を発揮していきたいと考える生徒や、他者とのコミュニケーションや異文化理解等への興味・関心が強い生徒が多い」と児玉氏は話す。そしてコースの卒業生からは、英語力の向上や海外研修も含めた多様な経験が可能な充実したプログラムである、という評価を得ているという。「グループで取り組む機会も多いコースなので、協働することが好きな生徒が多く、学びの中でその力がさらに成長していると感じます」と児玉氏。
一方、課題としては2点を挙げた。まず、「学力が高く、かつグローバル志向の生徒を私学としてどれだけ継続的に集めることができるか」という募集課題。そして、大学が入学者に求める水準と、高校側の育成方針や生徒の現状とのギャップだ。「大学名を冠したコースですから当然ではありますが、入学条件となる学習到達度試験をクリアするだけでなく、英語のプレースメントテストにおける水準や意欲の高さ等についても大学から大きな期待を頂いています。ただ本校としては、己の生涯をかけて学び、自身の幸福度を高く持てる子ども達を育てたいというのが一番の思いなので、学力も含めて3年間で仕上げるのを求められるのは時に悩ましくもあります」と児玉氏は述べる。それぞれの狙いや利害の調整を超えて、共通の人材育成像を掲げる意義と困難が同時に垣間見えた。
(文/浅田夕香)