学ぶと働くをつなぐ[44]設置者変更を経て、教育改革を推進。 観光学を通じて楽しむ力を養成/大阪観光大学


大阪観光大学



画像 大阪観光大学 学長 山田良治氏


観光は人生を左右する自由時間の使い方

 大阪観光大学は法人経営をめぐる不祥事により、2022年に設置者変更による経営層の交代が行われ、山田良治学長が就任した。国立大学で唯一の観光学部を持つ和歌山大学で学部長をしていた山田学長を中心に作成した、観光学体系とそれに基づく観光教育の方針をうたう「大学憲章2022」も発表された。

 そもそも「観光」とは何だろうか。山田学長は「日本では、労働に対する自由時間を、『余暇』すなわち『余った暇』と捉えがちですが、本来、自由時間に何をするかというのは人生を左右するくらい大事なこと。そういう自由時間を象徴し代表しているのが観光です」と説明する。

 学際領域ともいえる観光学は、「学」として一つの体系を確立するには至っていないという。「日本の四年制大学(専門職大学を除く)で唯一大学名に『観光』が入る本学が、理念として体系的に作り出すミッションを負っているというのが、この改革の骨格でもあります」。



大切にするのは「楽しむ力」の養成

 教育面では、基本的なコンセプトを「楽しむ力」の養成に置いているのが、改革の柱だ。グローバル化する市民生活における観光の役割と意義を重視する大阪観光大学の観光教育は、フィロソフィカルプラクティショナー(哲学的実践家)養成を基本とするヨーロッパ型に近い。「楽しむ力」というキーワードにも、「幸せを求め、人生を楽しむのは人間の本質」という哲学的背景がある。

 楽しむ力を育成するカリキュラムを象徴する科目に、1年生の後期に設定される「文化鑑賞創造実践」がある。指導教員が自分の好きなテーマで募集し、学生がそこに参加するものだ。例えばサイクリングが好きな教員は学生をサイクリングに連れ出し、音楽が好きな教員は合唱をする。狙いは、学びの原点として、自分は何を楽しいと感じるのかに目覚めるきっかけづくりだ。

 「例えば競馬が好きな人って、電車の中で競馬新聞一生懸命読んで赤線ひいています。ゲームだって、勉強が嫌いな子も一生懸命に攻略本を読んで考えたりします。あれが学習研究の原点なのだと思います」。競馬やゲームという専門を見つけるということではなく、競馬やゲーム攻略に熱中する人の、楽しいから学ぶ・学ぶこと自体が楽しいという「状態」を作り出したいのだという。

 また、「教員が楽しんでいなかったら、学生を楽しませるなんてできない」(山田学長)という考えから、学生だけではなくて教員も楽しんで取り組んでいるか、アンケート調査などで継続的に確認しているという。

観光は世界最大のサービス業、就職の裾野は広い

 学生のうち、中国、ベトナムなど10カ国ほどからの外国人留学生が約7割を占める。大阪観光大学にどういう期待を持って海外から入学してくるのだろうか。

 「観光というのは世界最大のサービス業ですから、日本に限らず世界中においてニーズは高く、観光学にも興味を持ってもらえています。ただ、学生募集において、一般的な興味を本学への進学という形に具体化することには少しハードルがあります」。そこで前面に出すのが日本文化だ。アニメをはじめ日本文化全般への関心は高い。それを楽しみながら、グローバルな環境で勉強ができる。まさに「学びを楽しめ」ということだ。

 また、海外からの学生への入学の動機づけにあたり、母国語と日本語の両方で対応できる職員をおいて、個別の働きかけを綿密にしている。「関心を持ってくれた学生と個別にコミュニケーションをとり、だんだん期待値を高めていくのが基本です」。この取り組みが、収容定員充足率100%以上という成果につながっている。

 日本人学生については、「高校までの“勉強”で成績が上がらなくても、実は非常にいい感性を持っている学生は必ずいる」と山田学長は言い、「在学中に大きく成長し、人が変わったように自信をつけて卒業していく例もあり、日本における従来型のエリート路線に必ずしも適合しない人達も来てほしい」と続けた。

 留学生の卒業後の進路の希望は、日本での就職が一番多い。大学としても卒業生が日本で活躍してくれることは望ましいので、そういう動機づけや日本企業に就職するための個別指導もサポートしているという。「幸い観光産業というのは非常に裾野が広く、選択肢は必ずしも狭い意味の観光業だけではありません。一人ひとりの問題関心を特定の企業なり地域に結びつけるように、小さい大学ならではの個別対応を頑張っています」。

楽しむ力の評価方法とその社会への浸透が課題

 全学的な改革から2年を経ての成果としては、教職員の意識改革は進みつつあり、楽しさを感じる学生も増えているという。楽しむ力を涵養することの効果は卒業生の輩出を待たねばならないなど、道半ばではあるが、いい方向に向かっていると山田学長は感じている。

 課題としては、「楽しむ力」の測定方法が挙がった。「例えば楽しむ力を評価軸として成績判定をどうするのか。教育課程上、もっと詰めるべき点です」

 今後の戦略的課題の一つは、観光学の体系を海外へ発信すること、もう一つは「楽しむ力」をもっと社会的に浸透させ、本学の理念をブランド化することだとしている。さらに、「観光をやっていれば楽しい」というレベルで終わらせるのではなく、日本の教育論そのものに対する問題提起のためのプロジェクトも発足させた。「観光学教育ということにとどまらず、大学の専門教育の評価基軸自体を見直す。我々なりの観点からこれまでの教育論をサーベイしていけば、従来の偏差値教育に対抗する概念を打ち出せる可能性があると考えています」。



(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)


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