企業と一緒にリスキリングで女性のDX人材を育てる/日本女子大学

【DATA】日本女子大学
学生数6422名(学部6165名・大学院257名)
6学部(家政、文、理、人間社会、国際文化、建築デザイン)


日本女子大学 生涯学習センター所長 髙梨博子 氏、リカレント教育課程主任 石黒亮輔 氏


18年間の実績あるリカレント教育のパイオニア

 日本初の女性のための総合大学として1901年に誕生した日本女子大学。創立者成瀬仁蔵の生涯教育理念「幾歳になっても、青年のような旺な精神を以て(略)境遇を開いて行く」に呼応する形で、リカレント教育課程を開設したのは2007年だ。その後、リカレント教育課程を全学組織(学内委員会)に位置づけ、18年にわたる活動の中で、2022年度には学内組織と外部機関で意見交換する評価システムを整えた(図表1)


図表1 日本女子大学リカレント教育課程委員会組織図


 2007年の「再就職のためのキャリアアップコース」、2021年の「働く女性のためのライフロングキャリアコース」開講に続き、昨年10月には新たに「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース」(以下、DXコース)を開講、現在3つのコースを運営している。

 DXコース立ち上げの発端は、文科省「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業(2022年度)」の採択にある。事業では「産業界等のニーズ把握とプログラム開発の一体的な体制整備」が要件だったため、2023年度に企業や地方自治体等の協力を得て「DX推進事業実施委員会」も発足している。

「DX×女性活躍」でスキル・マインドを醸成

 DXコース開講の課題意識について、生涯学習センター所長の髙梨博子教授は、①リスキリングによるDX人材育成という社会ニーズへの対応と、②ジェンダーギャップ指数の解消の2本柱を挙げる。教育の特徴は「DX×女性活躍」をテーマに、デジタルスキルと管理職マインドを一緒に学ぶ点だ(図表2)。


図表2 DX人材育成コースの概要と科目一覧


 「DXを学ぶコースはほかにもあるが、女性がDXを駆使して職場でリーダーシップを取っていくために、スキル・マインドの両面で教育を行っているところはなかなかない。ここが女子大として本学が強調したい点だ。また私立女子大で唯一理学部を有する大学として、コース開設や科目の編成、授業など、あらゆる面で理学部の協力を得ている」と強みを語る。

 受講生のイメージは、働く女性の様々なレベルを想定した①A人材(DXの全体像を把握したいと考えるマネージャー職)、②B人材(チームリーダーなど将来の管理職候補)、③C人材(基本的なDXスキルがあり、キャリア意識の高い若手)と、働く女性の様々なレベルを想定。ミスマッチをなくすために、応募要件はITSSレベル1以上を前提とし、書類・面接で可否を判断する。修了レベルはITSSレベル2以上としている。

 DXコースの科目は、ビジネススキル、パーソナルスキル、デジタルスキルの3つの観点で構成されている(図表2)。選択必修の「DXシステム概論」はDXの基礎を学ぶ概論、「DX推進事例研究」は企業・団体の実務家によるオムニバス形式の授業で、現場でDXを進めるには何が大事なのかを受講生に考えてもらう科目だ。

 理学部教授でDXコースの主担当である石黒亮輔リカレント教育課程主任は、「本学は文科省『数理・データサイエンス・AI教育プログラム』において、全学でリテラシー(2021年度)、理学部で応用基礎(2023年度)の認定を受けている。2つの認定に深く関わった理学部教員が本コースの立ち上げに協力し、認定を受けるに当たっての知見を活かしたデジタル科目群になっている」と説明する。講師陣も、デジタル科目群には理学部専任教員が担当する授業もあり、ビジネススキルやパーソナルスキルはリカレント教育課程の知見を活用、事例研究は大学と連携する企業・団体の実務家が講師を務める。演習科目であるPythonでは、教員のほかに本学附属高校で情報科目を担当しているTAも配置していると太鼓判を押す。

委員会からニーズを吸い上げ科目改善

 昨年度の1回生は定員25名に対し、約100名が説明会に参加、申込者40名弱の中から選ばれた28名が受講した。ライブ授業が基本で、受講生同士の議論や演習科目の運営面から見ても適正な人数だったという。受講者の92.9%が正社員で、年齢層は30~50代(平均年齢42.5歳)だった。修了生からは「志高い同性と一緒に学び議論できた」「未来が変わる一歩を踏み出せた」と大満足の声が寄せられ、「女性同士で仕事について深く議論できる場を用意できたのがこのコースの特徴」と石黒主任は語る。

 石黒主任が外部機関から1時間の個別ヒアリングを行い、「ビジネススキルありきのデジタル技術なので、女性に両方を教えることは非常に意義がある」といった意見や、アンケート調査と統計解析演習は地方自治体からニーズが高いなどの評価を得た。「こうしたニーズを今年度の科目にかなり反映した」(石黒主任)といい、事例研究は選択科目から選択必修へ格上げした。また事業終了を機に科目も整理し、受講生に人気の「DX推進事例研究」「アンケート調査設計と分析」「Pythonで学ぶプログラミング」は、科目がより純化されたという。

女子大におけるリスキリングの価値

 「大学のリスキリングの大きなメリットは、企業外、異分野、他地域の人と一緒に受講できること」と石黒主任は語る。企業内教育の特にデジタル分野となると周りが男性ばかりで気が引けるという声もあり、女子大のDXコースは意義があると続ける。

 コース立ち上げ時の考えとして、中小企業や地方など、体力的に難しいところに教育を提供したいという思いがあった。「蓋を開けると、昨年度の受講生分布は東京圏の大企業の方も多かった。広報の課題かもしれないが、情報や教育が届かない女性に丁寧にアクセスしていきたいというのが今後考えているところ」と石黒主任は明かす。

 「人生100年時代。希望する女性が諦めずに道を開拓していける社会を女子大として目指していきたい」と髙梨所長。女性の生涯キャリアに伴走するパイオニアの今後に注目だ。



(文/能地泰代)



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