交換留学形式で事務職員を他大学に派遣し、スキルアップや視野拡大を図る/東京電機大学


東京電機大学 総務部長 佐藤 龍氏


 東京電機大学は、埼玉県の東上線沿線(比企郡鳩山町)に埼玉鳩山キャンパス(理工学部)を擁し、同じく、埼玉県西部に位置する19の大学・短大と「埼玉東上地域大学教育プラットフォーム(TJUP)」という枠組みを設けている。TJUPでは共同研究等のほか、職員の人事交流に関しても会員大学の間に協定が結ばれており、東京電機大学は、女子栄養大学との間で、お互いに職員を派遣し合い、他大学の業務を経験するという取り組みを行っている。その詳細について、総務部長の佐藤 龍氏にお話を伺った。

外を知ることによる成長を期待して職員を派遣

 「TJUPは、文部科学省の平成30年度私立大学等改革総合支援【スタートアップ型】に基づいて、本学が旗振り役となって立ち上げました。地域の大学・短大に加えて、自治体や企業も参加し、大学教育を柱に共に地域活性化を図っていくためのプラットフォームです」。

 大学間での職員の交流も当初から構想にあり、TJUPがスタートした2018年から会員校の女子栄養大学と話し合いを進め、2019年度から事務職員の相互派遣が始まった。交換留学のようなかたちで、1人を送り出し、1人を受け入れるという仕組みだ。対象としているのは、概ね30歳前後までの若手・中堅職員。2023年度は実施していないが、2019~2020年度、2021~2022年度というタームでこれまでにトータルで2名を送り出し、2名を受け入れている。期間は1年でも構わないが、本人の希望や現場の状況等に応じて2年まで延長可能。実際には、1年目はそれぞれの大学の特徴を理解し、仕事を覚えることがメインになるため、これまでの2例とも2年間の派遣・受け入れとなっている。人事交流に当たっては、学校法人間で「埼玉東上地域大学教育プラットフォーム(TJUP)に係る女子栄養大学及び東京電機大学の人事交流について(覚書)」を締結。さらに、人事交流の該当者が決まる度に、交流内容、氏名、期間、就業場所、給与、社会保険等を定めた「女子栄養大学及び東京電機大学の人事交流に関する取決め書」を結んでいる。


埼玉東上地域大学教育プラットフォーム 人事交流制度


 「大学には様々な部門がありますが、大学間のカルチャーの違いがより大きいのは学生を相手にする部門なので、本学からは、学生を相手にする部門の経験がある職員を派遣し、同様に学生を相手にする部門で女子栄養大学の職員を受け入れてきました。派遣に当たって重視しているのは本人の希望。学内で希望を募りお互いに希望者がいれば実施するというスタンスです。お互いに職員数に余裕があるわけではないので、送り出すだけだと当該部門に負荷がかかってしまう。ですから、この交換留学のような形がスムーズに進めるポイントです。また、受け入れる以上は、“お客さん”ではなく“仲間”として受け入れることが大切だと考えています」。

 では、そもそもこのような人事交流を始めた理由は何なのだろうか。その大きな目的は大学職員のスキルアップや視野の拡大にあると佐藤氏は語る。

 「大学というのは狭い世界なので、職員は井の中の蛙になりやすい。その意味で、学外で経験を積むことが本人のキャリアにプラスになると考えたからです。それが大学全体のレベルアップにもつながっていくはずですから。また、大学同士はコンペティターではありますが、部分部分では仲良くできるところも多い。お互いにいいところを参考にして取り入れることもできるだろうという思いもありました」。

あえてカルチャーの違う大学を交流相手に選択

 女子栄養大学を連携先に選んだのは、東武東上線で2駅という地理的な近さ、学園祭等で学生同士の交流が以前から盛んだったこと、さらに理工系大学と栄養学系というカルチャーの違いが大きかったという。

 「本学の理工学部は男子学生が多い。女子栄養大学は女子のみですから、対学生という部分で大きな違いがあります。また、女子栄養大学の学生は栄養士の資格取得を目指していますから、その影響で学内のスケジュール感も違う。さらに女子栄養大学はオーナー系の大学ですが、本学はそうではなく、組織風土的な違いもあります。本学は教員主導で決める傾向がある等、教員との関係が違うところもあります。こういった違いがあるからこそ、お互いに新しい知見が得やすい関係なのです」。

 具体的な業務に関していうと、例えば、東京電機大学の職員が女子栄養大学の女子寮の運営や脱はんこのプロジェクトに携わったり、女子栄養大学の職員が、畑違いの理工学部のカリキュラム作成に関わったりしてきた。このような経験は、企画力・提案力の向上というかたちで目に見える成果にもつながっているという。なお、派遣を経験した職員による報告会も行われている。

 「もともと文部科学省の研修や大学基準協会にも職員を出しており、海外留学研修の制度等もあって、この取り組みもその一環です。今後は、TJUP以外の枠組み・協定による他大学との交流もさらに広げていきたいですし、例えば、自治体に派遣するというのも選択肢の1つですね」。

 佐藤氏は、この先、大学職員が外部で経験を重ねることによって知見を深め、入試の専門家、知財の専門家といったかたちで、フリーランスとして活躍する未来も十分考えられると語る。東京電機大学の取り組みはそういった未来への端緒となるのかもしれない。


(文/伊藤 敬太郎)




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