地域との連携と教員の指導力により、生徒の探究力を育成/新潟県立新潟南高等学校
- 新潟県新潟市にある公立高校。1学年あたりの定員は、普通科320名、普通科理数コース40名。
- 2003年度より22年間SSH事業を継続し、「科学技術系グローバル人材」の育成に取り組んでいる(経過措置期間も含む)。
- 以前からの地元企業・自治体等との連携の深化や、大学・研究所等との関係構築により、より高度な課題研究や、主体的・協働的に課題解決をできる人材の育成を目指す。
新潟県立新潟南高等学校(新潟県新潟市)は、2003年度にSSHの指定を受けて以来、経過措置期間も含めて現在まで事業を継続し、「科学技術系グローバル人材」の育成に取り組んできた。同校の取り組みについて、副校長の尾上博司氏に伺った。
理数系の課題研究の手法を普通科全体に展開し、全校体制を構築
まずは、新潟南高等学校のこれまでの取り組みを概観する。2003年度に同校がSSHの指定を受けて以降、2017年度までの3期15年間は、主に理数コースの生徒を対象とし、課題研究やロシア・中国・韓国の高校を招いての環境・エネルギーをテーマにした研究発表会、アメリカ研修等を実施。これらを通じて国際的な視野を持ち、将来の科学技術イノベーションを牽引する「科学技術系グローバル人材」の育成に取り組んできた。
2018〜2022年度の第Ⅳ期では、課題研究の手法を普通科全体に広げ、全生徒・教員が課題研究に取り組む体制を整備。加えて、課題研究を進めるうえで必要となる探究する力(探究力)を「課題発見力」「仮説設定力」「計画力」「実証力」「考察力」「表現力」の6つに定義し、それらの育成に取り組んできた。そして、経過措置期間である2023〜2024年度は、第Ⅳ期の取り組みを継続しながら、より高度な課題研究の実践を目指してデータ活用のスキルを高めるべく、理数コースを中心にデータサイエンスの学習を行っている。
コースに応じた課題研究・探究学習に取り組み、探究力を育成
こうした経緯や狙いの違いから、現在、同校では、理数コースと理数コース以外の普通科に分けてSSHのカリキュラムが作られている(下図)。
図 新潟南高等学校のSSHカリキュラム
理数コースでは、高度な課題研究により科学技術イノベーションを牽引する人材の育成を主眼に置き、生徒は3年間かけて課題研究に取り組む。具体的には、1年次の「江風(こうふう)SSⅠ」でデータの見方や代表的な分析手法を学ぶとともに、既知の事象に関する実験プロセスを辿る形で基本的な研究手法を身につける。そして、2年次の「江風SSⅡ」で自ら設定した理科・数学分野の課題を研究する。3年次の「江風SSⅢ」では、研究成果を日本語または英語で論文等にまとめ、各種コンテスト・発表会に出品する。その成果は、2024年のSSH生徒研究発表会で分数正多角形に関する研究が奨励賞を受賞する等、全国レベルのコンテスト等でも評価されている。
一方普通科では、身近な課題を見つけて主体的・能動的に課題を解決できる人材の育成を目指し、2年間、課題研究に取り組む。まず、1年次の「江風探究ユニット」でリサーチクエスチョンの立て方等、探究学習の基本的な進め方を学んだうえで、「新潟市の地域課題の解決」をテーマに課題の発見と仮説の設定・検証、成果発表までを行い、課題研究の土台となる探究力を身につける。そのうえで、2年次の「江風SSG」で自ら設定した課題を研究する。
その過程で同校が行っている工夫の一つが、江風探究ユニットで実施するゲスト講演会だ。新潟市役所や新潟日報等、6〜7つの地元企業・自治体を招いて新潟市の課題を話してもらうことにより、生徒達は、探究したい課題や、協力を請いたい連携先を見いだしていく。「生徒達は、地域の声を実際に聞くことでモチベーションが高まり、やらされ感なく、すすんで研究に取り組んでいきます。それは、探究学習の意義である疑問を持つ→仮説を立てる→調査・研究するという過程の中でトライアンドエラーを繰り返して学ぶことに繋がっていると思います」と尾上氏は話す。
(左)理数コースの課題研究の様子/(右)2024年度「江風SSG」の研究班の一つは、2024年度末開業予定で同校の最寄駅となるJR越後線「上所駅」を研究。JR東日本新潟支社と協働して「駅舎駅名標」「ベンチ」「乗車駅証明書発行機のカバー」をデザインした。
加えて、2年次に理数コース全員と普通科の希望する生徒が取り組むのが、「江風グローバル研修」だ。JICA職員からの指導を受けるとともに、台中市立文華高級中等学校の生徒と継続的な交流活動を行うというもので、3月に実施する課題研究の成果を互いに英語で披露するオンライン発表会をゴールとし、1年間、文華高級中等学校の生徒を同校に招いての交流や、SNSでグループを作っての日常的なコミュニケーション等を行っている。「生徒達には、互いの研究を共有することによる学びや成長が見られますし、英語力について課題意識や学ぶ意欲、あるいは自信を持つようになったり、文化や習慣の違いへの理解を深めていったりしています」と尾上氏は生徒への好影響を話す。「今後は、SDGsを始めとした理系分野の課題研究や探究活動を共同で行っていくことが目標です」と続ける。
文華高級中等学校との交流の様子
地域・大学・研究所との連携を強化し、より高度な研究を目指す
現在は先導的改革Ⅰ期目(第Ⅴ期)への応募を準備している最中で、第Ⅴ期では「地域との連携」と「課題研究の高度化」に力を入れていく予定だという。前者については、教職員の異動が伴う県立学校にあっても、生徒主体の探究活動を持続させるため、学校として状況を整理し、いくつかの組織・企業等と持続可能な連携を図っていけるよう調整していくとのことだ。「それぞれの組織が関わっている課題について生徒に伝えていただくこと、そして、生徒が興味を持った事象について関わってもらえるものがあれば生徒とマッチングさせていただくこと等に継続的に協力いただき、生徒と外部の方々が直接繋がって課題研究を進められる体制を作っていければ」と尾上氏は話す。
また、後者については、課題研究がコロナ禍前に比べて校内に閉じている状況であることから、地元の大学や研究所との繋がりを密にし、より高度な研究が可能な体制づくりを目指すという。「長年の蓄積や個々の教員の力により、教員による一定の指導ができている一方で、生徒が教員の管理のもとでしか動かない状況を生んでいることに課題を感じています。どんどん研究を進めたい生徒が飛び抜けていけるよう、外に開いていき、生徒に天井はまだまだ上にあることを感じてもらえれば」と尾上氏は意気込む。
「そのために、高等教育機関の方々には、ぜひ高校生の探究活動について知り、興味があれば一緒に手を携えて生徒を見てくださると助かります。そして、生徒達にいろんなトライアンドエラーを繰り返させてもらえればと思います」と、とりわけ、地元の大学・研究所への期待を寄せる尾上氏。課題研究手法の確立、国際化、探究学習との融合等、その時々の課題に向き合い、発展させてきた同校の今後に注目したい。
(文/浅田夕香)
【参考記事】
DXによる新たな価値創出[10]【寄稿】スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業による 理数系人材の育成について/文部科学省 初等中等教育局教育課程課 課長補佐 山本 悟