全学生参加の体系的なプログラム「女性地域リーダー養成プログラム」/京都女子大学
【DATA】京都女子大学
学生数6121名(学部6033名・大学院88名)
7学部(文、発達教育、心理共生、家政、現代社会、法、データサイエンス)
体系的な地域連携プログラムを構築
京都女子大学は、全学生が参加する体系的なプログラム「女性地域リーダー養成プログラム(副専攻)」を2017年に構築し、地域連携による京都市の課題解決に取り組んできた。
きっかけは、学内の地域活動の全容を本部で掌握し、学生の危機管理体制と競争的資金獲得に資する組織的な体制を整えようと考えたことだった。竹安栄子学長は「ちょうど企業の方々からも何か一緒にできないかと申し出を頂いていた頃で、京都市からも『学まち連携大学促進事業』を提案され、様々な条件が重なった」と経緯を振り返る。
同事業の要件は、大学の正規科目として連携志向型教育課程を構築するというものだった。竹安学長も長年地域社会学を専門に教えてきて、単発的な連携活動では一過性の自己満足に終わってしまうと感じてきた。「卒業後に一市民として社会にどう貢献していくべきか、その自覚を培うことが地域連携の目的。それを教えるには色んなツールを使って学ぶ機会を与えられる、体系的なプログラムにする必要があった」と語る。
2015年に同事業を推進する組織「地域連携研究センター」を設立し、竹安教授(当時)がセンター長に就任した。2016年度から共通領域の中の教養科目として、野村證券、朝日新聞社等による寄附講義4科目を先行スタート。同年10月に事業の採択を受け、翌2017年度から全学の体系的プログラム「女性地域リーダー養成プログラム」として本格始動した。
京都市や企業が科目全般で強力にバックアップ
プログラムは、入門科目「連携活動入門」、展開科目「地域連携講座」「産学連携講座」、学部学科で提供する発展科目、PBL型の演習科目からなる(図表1)。既存の寄附講義は産学連携講座に組み替え、2019年度生から共通領域副専攻プログラムとなった。
カリキュラムの特徴について、入門科目「連携活動入門」を自ら受け持つ竹安学長は、「本学の学生の特徴として、関心はあっても最初の一歩をなかなか踏み出せないところがある。『連携活動事始め』とあるように、一度は学外に出て、社会の担い手である市民から学生が期待される存在だということに気づかせることが目的」と語る。
「地域連携講座」では、女性管理職によるロールモデル講義など、地域や企業の実務家による講義とフィールドワークを体験する。現センター長の中山玲子副学長が担当する「地域連携講座B2」では、「全15回中14回はゲストスピーカーを招き、京都市をフィールドに社会が多様な要素で成り立っていることを学んでいる」(中山副学長)。
「産学連携講座」は今年で9年目を迎え、2023年から「産学連携講座A1」にデータサイエンス学部講師による新科目が加わった。「野村證券などは企業の社会的貢献として全国で約100以上の講座を実施している。最近は投資詐欺が増え、学生に正しい知識を知ってほしいという高い理念で開講時から続けていただいている」(竹安学長)。
企業との関係性がリカレント教育課程に発展
プログラムの受講者数を見ると、例えば今年度の入門科目の登録者数は100名を超え、活動先の用意に苦労するほど盛況だ。市民に感謝されることで「また行きたい」と次にステップアップする効果を生んでいる。
産学連携講座は受講希望者が毎年400名を超えるので、抽選で100〜150名程度に絞る。学生だけではない。授業に取り組む姿勢やレポートの内容が優秀で刺激になると、講師からの評判もすこぶる良いという。
企業と構築した関係性が活かされ、2018年度からは「女性のためのリカレント教育課程」もスタートした。今年度は①ブラッシュアップコース、②女性のための実践・リーダー育成コース、③マネジメント入門コースの3コースが開講。①ブラッシュアップコースの今年4月時点の就業率を見ると、受講者の87.5%が無職から、修了後は75.0%が就労者と、雇用創出を後押ししているのがわかる。
ジェンダースタディーズプログラムの可能性
現在「第2 次グランドビジョン」(2020-2029)が進行中で、2025年度には「ジェンダースタディーズプログラム(副専攻)」の開講を予定している。運営組織のジェンダー教育研究所を2022年10月に立ち上げた。
「日本の女性の就業を考えたときに、子育て支援制度はしっかりしているが、一番の問題は女性の内面化しているジェンダー、つまり妻や母としての性別役割、分業意識が壁になり、成果が出ていないと分析している。」(竹安学長)
女性議員率10%というアジアでも最低水準の数値を例にとり、アファーマティブアクション(積極的格差是正)をしなかった日本が世界から取り残されてしまったと危惧する。そして女子大こそが教育におけるアファーマティブアクションであり、学生達が自分を縛っていた女らしさの呪縛から解かれて、自分の能力をのびのびと発揮する、女子大学の教育の特徴というのは、まさにそこにあると強調する。
「日本だからこそ女子大学は必要だと私は捉えています。その点を我々はこれまできちんと自覚、言語化しないで来たところがある。少人数でアットホームというようなレベルではなく、きちんと理論的に言語化して、意識的に教育していこうというのが、ジェンダースタディーズプログラムを立ち上げた理由の一つです。」(竹安学長)
学内の教員にもそれをビジョンとして浸透させていく。でなければ、女子大学の存在理由はないと言い切る。「日本社会を救うのは女子大学です。まじめに女性の教育をやっています」と笑顔を見せた。
(文/能地泰代)