強固な人的ネットワークが支える 国公私立 三位一体の大学連携/やまぐち共創大学コンソーシアム
大学間の連携推進法人というスキームでは、国公私立の枠を超えた協力体制はまだまだ少ない。そうしたなか、2022年に設立された「やまぐち共創大学コンソーシアム」は、国立の山口大学、公立の山口県立大学、私立の山口学芸大学の3大学が参画する、全国でも数少ない国公私立大連携のコンソーシアムだ。23年には大学等連携推進法人の認可を経て一般社団法人となり、地域の課題解決に向けた人材育成の連携を実現している。その連携の形、組織運営のヒントをコンソーシアムの副代表理事を務める岡 正朗氏に伺った。
国公私の壁を越えた人的ネットワーク
やまぐち共創大学コンソーシアムの設立は、山口県地域に密着した教育と人材育成という背景から生まれた連携だ。もともと山口大学においてCOC+事業等で山口県立大学や地域との協働を進めてきたが、その活動のさらなる発展のため、公立・私立といった設置区分にとらわれず、地域に密着した大学との協力を模索。ちょうど大学改革を多方面から進めていこうとしていた山口大学、山口県立大学、山口学芸大学の3大学でコンソーシアムが発足した。その連携を支えたのが大学間の人的交流だ。特に山口大学から退職した教職員が、山口県立大学や山口学芸大学に再就職するケースが多く、3大学間にはもともと強い人的ネットワークが存在していた。これが、連携の基盤となった、と岡氏は語る。
「山口市に立地する3大学は地理的にも近く、教員や事務職員の交流も活発でした。そのため、連携の障壁は少なかったといえます」。
岡氏自身も山口大学学長を経て、現在山口県立大学の理事長を務め、まさにコンソーシアムの要となる存在だ。コンソーシアム自体、22年9月に文部科学省から採択された後、翌23年4月には一般社団法人として迅速に立ち上がっているが、これも各大学のトップ同士の強固な信頼関係によるものだ。
「大学間での連携をスムーズに進めるためには、何よりもトップ同士の人間関係が重要です。お互いの信頼があるからこそ、スピーディーな意思決定が可能でした。これは他の地域の大学連携にも参考になるはずです」。
トップから職員に至るまでの人的交流は、地域に貢献する人材を育てるという理念の共有にもつながり、単位互換といった複雑な連携を可能にしたといえる。
3大学の強みを活かしたカリキュラム
やまぐち共創大学コンソーシアムでは、文部科学省が進める「地域活性化人材育成事業~SPARC~」の採択を受け、DX推進に貢献できる文系人材(文系DX人材)の育成、企業・自治体等と連携した課題解決型学習(PBL)の実施、リカレント教育やリスキリング教育の推進等に取り組んでいる。もともと山口大学と山口県立大学はCOC+等での連携があったが、そこに幼児教育に強い山口学芸大学が加わることで、3大学の強みや特色を活かした充実したカリキュラムを作ることが可能になった。
そのなかでも特に力を入れているのは文系DX人材の育成だ。現在、この取り組みの一環として、25年度から本格的に実施されるカリキュラムが整備されている。既に24年度には試行段階として、9科目の連携科目が実施されており、各大学が担当する講義をオンラインで共有。例えば、山口県立大学が「地域学」を担当し、山口大学が「データサイエンス」や「知的財産教育」を提供するといった形で、3大学がそれぞれの強みを活かした授業が展開されている。
さらに、共通LMS(学習管理システム)の導入が進められており、26年度からの本格稼働も予定されている。「これにより、3大学の学生が一つのシステム上で学び合うことができ、授業の効率化と質の向上が期待されます」。
柔軟な姿勢が大学相互の信頼関係を生む
しかし、国公私立という異なる設置形態の大学が単位互換や授業の組み立てを協働する難しさは、大学経営の現場にいる人であれば想像できるだろう。特に、各大学の運営方針や学年暦、授業時間の調整等、教育カリキュラムの統一には大きなハードルがあった、と岡氏も語る。
「この連携の成功の背景には、各大学の柔軟な姿勢がありました。特に、山口大学が山口県立大学に合わせて学年暦や授業時間を調整したことが、3大学の協力関係を強化する要因となりました。大きい大学だからといって自分達のやり方を押し通すのではなく、他の大学に合わせることで、相互の信頼関係が生まれました」。
また、教職員のさらなる交流も進められており、山口大学から派遣された職員が山口県立大学で新たなプロジェクトを推進する等、大学運営のノウハウ共有も積極的に進めているという。「交流を進めることで、異なる環境での経験が教職員の成長に繋がり、それが大学全体の活性化に寄与している。これはそれぞれの学校にとっても良い影響となっています」。
小さなモデルの成功を広げていく
現在、3大学の連携体制をさらに強化し、取り組みの質を向上させることを優先しているが、将来的には、他の県内外の大学や高等専門学校との連携拡大も視野に入れている。「もともと山口県には、県内の全大学・高等専門学校を県主導でまとめる『大学リーグ山口』という組織があります。しかし連携は大学間の調整が非常に難しい。まずは3大学という小さな形でモデルケースを成功させ、それを山口県全体、さらには他地域へと広げていければと考えています」。
また、DXを活用した大学運営の効率化や共同研究の推進等、新たなプロジェクトの立ち上げも視野に入れ、地域社会への貢献をさらに強化していく方針も掲げる。「今後はリカレント教育や社会人向けの教育プログラムにも力を入れ、地域全体の人材育成に貢献していきたい」。
山口共創大学コンソーシアムの国公私立の枠を超えた協力体制は、人的ネットワークの重要性、地域活性化における大学連携のステップとして注目すべきプロジェクトであることは間違いない。
(文/木原昌子)