女子を対象にした教育改革と入試改革を推進/大同大学 女子特別総合型選抜入試

大同大学

POINT
  • 1939年、大同製鋼株式会社(現・大同特殊鋼株式会社)を筆頭に中部地区の産業界を代表する31社の出資により設立した大同工業学校を起源とし、「産業と社会の要請に応える人材の養成」を建学の精神に掲げる大学。現在は工学部・建築学部・情報学部の3学部7学科を展開する総合大学(2024年7月現在)
  • 女子をターゲットにした入試を30年間実施し、併せて女子に親和性の高い学部・学科の設置も進め、女子比率を15%にまで押し上げた
  • 女子特別総合型選抜の2024年度の志願者は29名、入学者は17名


 大同大学は30年前から女子を対象にした入試区分を設置している。その趣旨等について、副学長(入試担当)の川福基裕氏、入試部長の井原禎貴氏、入試・広報室長の河村安徳氏にお話を伺った。

女子を増やすための取り組みを、入試だけではなく教育を含め改革してきた経緯

 大同大学の女子向け入試は30年の歴史ある入試である。導入当時は全国的に進学率が上昇し、女子の4年制大学進学も増加。1985年に制定された男女雇用機会均等法を旗印に女性の社会進出が進み始めた時代だ。バブル崩壊を経てインターネット普及という、時代の転換期でもあった。こうした情勢を踏まえ、また男子比率が高い状態は将来的に経営に影響すると懸念されたこともあり、女子入試が始まったというのが事の起こりのようだ。翻って現在もなおその入試を継続するのも、「少子化でますます難しくなる学生確保において、女子を想定ターゲットに入れて入試広報を組み立てるのは、特に女子比率の低い領域においては自然な流れと言えます」と川福氏は述べる。そのターゲットは女子に限らず、「女子、文系ニーズ等、マーケット自体を拡大していかないと行き詰まるのではないかという懸念は常にある」という。

 大同大学の起源は大同工業学校であり、2009年に大同大学と改称するまでは大同工業大学として歩んできた。理系男子以外の属性比率の低さは積年の課題であり、同時に可能性でもあろう。

 現在の女子学生比率は全体で15%程度と、ここ数年で漸増傾向にある。「2002年情報学部設置、2024年建築学部設置といった動きも影響しているかと思います」と河村氏は述べる。大学としてはこうした「女子人気の高い理工学分野」を狙った改組やその広報等、総合的に取り組んできた結果の数値と言えそうだ。ただし、女子総合型の志願状況は毎年概ね30名前後とあまり変わっておらず、課題だという。自然増で増えるフェーズではなく、まだまだ制度や仕組みで担保していく必要があるという認識だ。

一様的な集団では見られない化学反応への期待

 近年、建築・情報デザイン系の女子が増えたことで、大学全体の雰囲気も変わってきたという。「数的マイノリティである女子学生の中にも多様性が出てきたように思う」と井原氏は述べる。また、学業への取り組みや就職活動等について、概ね女子学生のほうがまじめで早い傾向があり、男子学生にも好影響を与えているそうだ。それらは、近年女子比率が向上し、授業のグループワークで必ず女子が1人はいる状態だったり、日常的な風景のなかに女子学生が普通にいる状態になったりしたことが大きいようだ。「議論を進めたり人の意見を引き出したりするのも上手な女子学生が多く、ディスカッションが盛り上がっている様子をよく見ます」と井原氏は言う。やはり「自分とは違う属性が入ること」による影響は大きい。一様的な集団では見られなかったような化学反応も見られるようになるようだ。

ポリシーとの整合、高校までに頑張ってきたことを選考の核に置いた総合型選抜

 女子特別入試が配置されている総合型選抜は、アドミッション・ポリシー(AP)を理解し、大同大学への入学を強く希望する受験生を対象とする区分だ。募集要項には選抜区分の意義として、「人物や意欲、適性、将来の成長性を体験授業・面接によって評価し、大学にふさわしい人物を発掘することが目的」とある。女子入試も当然この文脈にあり、丁寧にポリシーとのマッチングや志望動機を見極めるのが選考の軸となる。具体的には図表1にあるように、調査書60点、面接40点の配点で、面接の素材として小論文や活動報告書(所定書式:部活動、生徒会役員経験、表彰歴等)、志望理由書(所定書式:400文字以内)といった書類も必要になる。募集定員は「専門高校総合型選抜」と合わせて各学科で設定されており、計34名だ。他大学との併願は「可能」としている。

 出願書類のうち、調査書と活動報告書で高校時代に注力してきたことを、志望理由書でこれからやりたいことを、それぞれ明らかにするのが目的だ。調査書評価の配点が大きいのは、もともとは推薦入試として展開してきたものを国の進める入学者選抜改革のタイミングで総合型に組み入れたという経緯があるそうだ。「本学としては11月から始まる学校推薦型よりも早いタイミングの区分に組み替えることで、早期に志願者を確保することを狙っています」と河村氏はその意図を述べる。


図表1 選考方法・内容


論理的思考力で大学教育への適性を問う小論文

 なお、面接で掘り下げられる「小論文」における特筆すべき点として、非常にテーマ感がタフだということが言える。図表2に過去のテーマを列挙したが、いずれも明確な正解のベクトルがなく、高度な思考力を問うていることが分かる。こういう設問の意図、どういうところに気を付けているのだろうか。

 「時事ネタ、学問関連テーマを原則としつつ、全然書けないような難しすぎるのは困るし、高校段階である程度書けて、論に差異が生まれる、つまり評価ができるあたりを狙っています」と河村氏は話す。川福氏は、「抽象的な内容であっても、問われている内容に対して自分なりの解釈を、理由を交えて構成できるかどうか。その論理性を見極めたいと思っています。これは大学に入ってからの学問の素養も問うているのです」。抽象的に問われた内容を論理立てて持論に具象化できるか。オープンキャンパスでは見る側(面接官)視点における小論文の注意点紹介も行っており、そうしたメニューに予め参加して準備してくるまじめな志願者が多いという。

 また、昨今高校は新課程導入を契機に探究学習に力を入れている。「高校の探究活動で培われた能力をいかに大学入試で評価できるかというのは大事な点です。高校段階で必要な探究教育と、大学教育との接続を入試でできなければ、入試が探究推進のボトルネックになりかねない。そうした意味でも、本学は女子対象を含め、総合型選抜を丁寧に行っていきたい」と河村氏は述べる。

 こうした入試展開の結果、大同大学を志願したい女子は受験の機会が増加しており、「高校まで頑張ってきたのでその実績で早く進路を決めたい」というニーズにも沿う形で展開できているようだ。


図表2 過去の小論文テーマ


卒業後の就労イメージのチューニングとロールモデル創出が課題

 今後について聞くと、「もっと女子比率を上げていきたい」と河村氏は述べる。「世の中の男女比率が概ね半々なのに比べると、本学の比率はまだまだ低い状態です。このずれをできる限りなくしていくべく、引き続き取り組んでいきたい」。

 また、それに向けて環境面の整備も重要だという。「本学のキャンパスは多くが大同工業大学時代の建物なので、女性向けのスペースが少なく、全体的に環境整備が必要な状態です」と河村氏は話す。

 また、教職員、特に教員の女性比率が極めて低いのも課題と捉えている。「実際に研究者として活躍する女性のロールモデルが少ない状態で、受け入れ側が一様的なのに多様な人材を呼ぼうとしてもなかなか難しいものがあります」と井原氏は言う。女性教員確保と合わせて、現在捕捉しきれていない卒業生の状況把握にも取り組んでいきたいという。実際にどのような場で活躍しているのか、「理系×女性」という産業界の現場を見せることで、安心して進路選択できるのではないかと考えるからだ。

 「理系で進学・卒業しても機械の現場は油まみれ、電気の現場は高電圧等、いわゆる昔ながらの現場に送り込まれるのではと考える保護者の方が未だに多いのです。数が少ないからロールモデルも少ない。ロールモデルが少ないから数も少ない。このあたりは鶏と卵の関係です。われわれは現在の卒業後の活躍状況を正しく伝えたうえで、学びたい意欲を持つ女子学生を受け入れたい。女性の活躍の場は理工系にもちゃんとあるのだということを社会に認識していただくべく、この入試をはじめとする様々な女子向け広報を引き続き強化していきます」(井原氏)。



文/カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2024/07/10)