【専門職】飼い主に寄り添い、病院・産業界との架け橋となる愛玩動物看護師を養成/ヤマザキ動物看護専門職短期大学
- 1967年の創立以来、専門学校、大学等を設け動物看護・ケアのスペシャリストの育成・研究に取り組んできた学校法人ヤマザキ学園により、2019年4月に東京都渋谷区に開学
- 動物トータルケア学科(3年制、定員80名)で構成
- 2024年3月に卒業した3期生は97名。就職希望者90名の就職率は98.9%で、就職先の内訳は、動物病院が83.1%、動物関連企業が12.4%、一般企業が4.5%であった。
動物医療と動物関連産業において産業界と飼い主と動物を繋ぐ役割を果たす動物看護のプロフェッショナルの養成を目的に、2019年4月に開学したヤマザキ動物看護専門職短期大学。2022年3月の1期生の卒業以降、3期生まで卒業生を輩出している。同専門職短大のこれまでの教育成果について、山川 伊津子学科長に伺った。
飼い主と病院・産業界との架け橋となり、業界で活躍できるリーダーを養成
ヤマザキ動物看護専門職短期大学の母体である学校法人ヤマザキ学園は、1967年の創立以来、コンパニオンアニマルを中心とした動物看護やグルーミング等、動物のスペシャリストを育成する教育で多くの人材を社会に輩出してきた。運営する大学・大学院は、動物看護学の科学的体系作りを目標に動物看護の教育・研究を行い、専門学校は、現場で即戦力となる人材の育成を担っている。
そして専門職短大は、理論と実践の両方に軸足を置くハイブリッド型の教育機関として、飼い主と病院・産業界との架け橋となり、また、産業界のニーズを捉え、業界で活躍できるリーダーとしての愛玩動物看護師を養成している。
養成する人材像として掲げるのは、「動物愛護の精神に則り、動物病院及び動物関連産業において実務家として社会に貢献する人材」「基本的な理論・技術を身に付け、常に強い向上心とフロンティア精神を持ち、実務力を備えた人材」「豊かな人間性とグローバルな視野を身に付け、実践的、応用的能力を備えた人材」の3つだ。加えて、コンパニオンアニマルの長寿命化や高度な動物医療への飼い主の期待等に対応し、訪問看護や在宅ケアも含めて生から死までをトータルにケアできる愛玩動物看護師を養成することも教育の特色の1つとしている。
動物病院にだけでなく、ペットショップ、訓練施設等幅広い領域に就職
こうした方針の下で教育を受け、卒業した学生の進路は多岐にわたる。2024年3月に卒業した3期生は97名で、就職希望者90名の就職率は98.9%であった。就職以外には、心理学を学んだうえでアニマルセラピー領域の研究をするべく4年制大学に編入した学生もいるという。また、昨年度、同専門職短大が設置している専攻科(1年制。3年制短期大学の動物看護等に関する学科の卒業者等が募集対象)に進んだのち、今年度、ヤマザキ動物看護大学大学院に進学した学生も数名いるとのことだ。
就職者について見ていくと、3期生の就職先の内訳は、動物病院が83.1%、動物関連企業が12.4%、一般企業が4.5%(図1)。動物病院に就職した学生の割合が1期生(77.3%)、2期生(75.0%)に比べて高く、その背景を山川氏は「国家資格『愛玩動物看護師』ができた影響が大きい」と分析する。愛玩動物看護師は、2022年5月に施行された愛玩動物看護師法に基づき設けられた国家資格で、2023年4月より第1回国家試験に合格し、免許登録した有資格者が各所で勤務している。「その様子を臨地実務実習で目にし、『資格を持って動物病院で働きたい』と考える学生が増えたのではないか」と山川氏は話す。
図1 3期生の就職先業種内訳
一方、動物関連企業に就職した1割強の学生の進路は、ペットショップ、ペットサロン、トレーニング施設、補助犬関連施設・団体、老犬ホーム、ペットフードメーカーなど幅広い。「愛玩動物看護師の活躍の場は動物病院だけではないことを知り、視野を広げられるよう、臨地実務実習で全員を動物病院と動物関連施設の両方に送り出しています。そこで多様な経験をした結果、動物関連施設のほうが向いていると判断した学生が一定数いるということです」と山川氏は説明する。動物関連施設での勤務を志向する学生に対しても、動物看護の知識や技術が求められることもあるため、愛玩動物看護師の国家資格取得は目指すよう伝えているという。
なお、3期生の愛玩動物看護師国家試験の合格率は80.9%で(合格者数72名)、試験全体における2024年卒業者の合格率(79.8%)を上回る結果であった。ただし山川氏は「もう少し上げていかなければならないと厳しく受け止めています」と評価する。同大学では、国家資格の設置を受けて2023年4月入学の5期生より対応するカリキュラムに変えたとのことで、「今年度か来年度あたりから合格率を100%近くまで上げていきたいところ」と山川氏は意気込む。
3カ年450時間の臨地実務実習により理論と実践を往還しながら進路を見極める
学生達の学び、そして進路選択に大きな影響を与えているのが、臨地実務実習である。同専門職短大においては、1年次に一般の飼い主も利用する校舎併設のグルーミングサロンと動物病院、2年次の夏休みに動物病院2施設、2年次の春休みに動物関連企業2施設(それぞれ別業種)、3年次の夏休みに動物病院2施設または動物関連企業等2施設(それぞれ別業種)で総計450時間、8施設で臨地実務実習を行う(図2)。山川氏は、「実習の現場に出す度に学生が成長して帰ってきて、視野の広がりが見られることに非常に手応えを感じています」と話す。
図2 臨地実務実習の流れ
「現場で愛玩動物看護師が多様な知識を持って飼い主さんに対応していることや、専門職として求められていることを知り、学内での学びだけでは得られない視野の広がりが見られます。そして、『こういうことが現場では求められているから、次はこれを学ばないといけない』と学びに向かう姿勢ができてくる。そうして実習と学内での学びを繰り返しながら将来像を描き、卒業して現場に出ていく学生が多く見られます」(山川氏)
学生からも、3年間で最も大きな経験は臨地実務実習だったという声は多く聞かれ、また、入学者選抜においても、入学希望者の多くが臨地実務実習にメリットを感じて入学を希望しているとのことだ。「入学者選抜の面接で『厳しいですよ』とお伝えしますが、皆さん『頑張ります』とおっしゃいますね」と山川氏。「愛玩動物看護師を養成する大学・専門学校の中で学生をこれだけ現場に出している学校はほかにはありませんし、私どもとしても伸ばしていきたいところです」と続ける。今後は、まだ連携できていない領域の動物関連施設にもアプローチし、より一層、学生の視野や選択肢を広げられるようにしていくとのことだ。また、動物病院についても、「より良い実習ができる動物病院をたくさん選んで送り出していきたい」と話す。
また、専門職大学・短期大学のもう1つの特徴である展開科目については、「学生達は多様な科目を通して隣接分野・領域に確実に関心を広げ、理解を深めています」と山川氏は所感を示す。動物看護の隣接分野として、超高齢社会において動物が果たす役割を考える際の1視点となる「ジェロントロジー(老年学)」、起業を視野に入れている学生等に向けた「起業論」、動物が社会の中で果たす役割を社会福祉の観点から考える「社会福祉学」等の科目が設けられており、山川氏は「今後、キャリアを形成していくなかで、展開科目での学びが活きてくるのではないか」と期待を寄せる。
国家資格取得と独自のカリキュラムとのバランスが課題
他方で、課題として山川氏が考えているのが、臨地実務実習や展開科目といった専門職短期大学ならではのカリキュラムと国家試験対策とのバランスである。「国家試験の受験資格となる31科目に加え、臨地実務実習や展開科目も学ぶという、やるべきことが非常に多い3年間でいかにして学生達を国家試験に合格させるかは、教える側にとってものすごく大きな課題です。特に3年次に就職活動と資格取得、そして臨地実務実習のバランスをどのようにとって卒業を目指すのかというところは、確実に合格者は出しつつも、まだ幾分、手探りな状況です。教員間で連携して、学生にとって一番良い方法を見つけていきたいと思っています」と話す。
加えて、国家資格取得を目指しながらも、同専門職短大が理想とする「技術と知識、そして、専門職としての倫理観を兼ね備え、産業界を引っ張っていけるリーダー」(山川氏)の養成には、一層力を入れていきたいとのことだ。「愛玩動物看護師の看護の対象は動物ですが、その後ろには必ず飼い主さんがいます。飼い主さんと動物のウェルビーイング、即ち、心と体の健康を支援していくのが愛玩動物看護師の働きです。この職業人としての根幹となる部分を教え、1つの専門分野にとどまらない学びにより、実際に現場に立ったときに技術と知識、そして倫理観を持って飼い主さんに寄り添える人材を養成していきたい。それが、専門学校との違いにもなってくると考えています」(山川氏)
「有資格者達が今後どのような活躍をしていくかで、愛玩動物看護師の社会での評価は決まっていきます。『国家資格を持った動物看護師さん達がいるから、獣医さんは助かるし、飼い主さんも安心できる』という評価が高まっていけば」と話す山川氏。卒業生のキャリアについても期待を寄せている。「動物看護の業界は、かつては統一の資格がなく、また従事者の多くが女性ということもあって、全体としては長く勤めることが難しい環境にありました。それが、2012年に統一した認定資格ができ、今回、国家資格化されたことで社会的な認知も確実に広がってきていますし、資格手当を出してくださる動物病院さんも多く見られるようになりました。卒業生の中からも、愛玩動物看護師としてキャリアを積み、子育てをしながらでも、また、途中で辞めたとしてもまた戻ってきて、リーダー的な存在になってくれる人材が育っていってほしいと強く思います」と力を込めた。
(文/浅田夕香)