女子のための経営学部が育む「リーダーシップ」と「経営×ICT×デザイン」/北海道武蔵女子大学

【DATA】北海道武蔵女子大学
学生数 82名(1年生のみ)、1学部(経営)


日本女子大学 生涯学習センター所長 髙梨博子 氏、リカレント教育課程主任 石黒亮輔 氏


地域の有力校が四大を開学

 かつて地域には、地元企業に安定した就職を誇る地域の1番校のような短大が存在した。北海道武蔵女子短期大学もまた然りで、1967年の開学から57年間培ってきたキャリア教育「礼節の武蔵」と、就職率はもとより就職の質への高い評価から「就職の武蔵」の定評を持つ。

 その短大が2024年4月、3学科(教養、英文、経済)のうち経済学科を四年制大学として発展的に改組し、北海道武蔵女子大学(経営学部)を開学した。吉地 望副学長は、「短大の募集が右肩下がりになるなかで、四大を作る話が実現に向けて加速化した」と開学の経緯を説明する。

 ここ10年でビジネス関連の進学需要が伸びる一方、北海道は女性の社会進出に関する指標で全国平均を大きく下回っていた。長期間かけて分野選びの検討を行う中で、女性の活躍に対する社会の要請が高まる今、4年間かけてより高度な教育を行う経営学部という方向性を定めた。

 出口の見通しでは、短大の就職実績が高く、採用を通じて日頃からコミュニケーションを取っている企業等(北洋銀行、ホクレン農業協同組合連合会、東京海上日動火災保険、日本アイ・ビー・エム デジタルサービス、札幌市役所)にヒアリング調査を実施。構想する人材像へのニーズの高さや、四大化で管理職も期待できることが確認できた。

全授業PBLによるリーダーシッププログラム

 こうして北海道初の「女子のための経営学部」が誕生した。育てたい人材像には特にこだわり、VUCA社会(予測が難しい環境)とSociety 5.0社会を生き抜く4つの力として、「想像力」「構想力」「実践力」「協働力」の育成を掲げた。教育の2本柱は「PBLによるリーダーシッププログラム」と「経営×ICT×デザイン」である。

 「予測不能でお手本がなくても、豊かな想像力と構想力をもって、自ら課題を発見・解決していく実践力を大事にしています。実践していくときには協働力が必要になりますが、これは座学では身につかないよねと。では全ての授業でPBLを通じたリーダーシップ開発をしよう、少人数制の本学なら可能だという話になりました。こういう大きな文脈の中でPBLによるリーダーシップは生まれたのです。」(吉地副学長)

 リーダーシッププログラムでは、1年前期から全科目必修のPBL授業を3段階で実施する(図表1)。


図表1 3段階のリーダーシッププログラム(PBL)


 「リーダーシップ開発演習Ⅰ」を担当する宮本 知加子准教授(心理学担当)は、「リーダーシップと聞くと従来の牽引型リーダーシップのイメージを持つ学生が多いが、今求められているのは、フラットな組織の中で、各メンバーが相手に影響を与えていく『権限を持たないリーダーシップ』だということを教え、推進している」と話す。リーダーシップ開発演習Ⅰは、入学したてのお互いを知らない状態で自己理解と他者理解を深める、協働の入口の役目を担う科目だ。

 「今まさにホクレン様とPBLを実施していて、1年生で経営的知識もまだないフレッシュな状態で課題解決に挑み、どのような役割が果たせたかを振り返りました。教え込むというより、体験しながらリーダーシップの概念を捉えなおします。」(宮本准教授)

 もう一つのキーワードが「経営×ICT×デザイン」だ。Society5.0社会のビジネスにおいてデザインとICTを使いこなす力は必須と考えた。「リーダーシップ開発演習Ⅱ」では、実際にプロダクトを作る徹底した体験教育により、デザイナーの意図を汲み取る力を学んだうえで、企業の課題解決に取り組むデザイン思考を理解する。

 AIとデザインが融合した生成AIの登場で、デザイナーでなくてもデザインの価値創造ができるようになった。デザイン思考でコスト削減や効率化を推進できる人材は、今後企業に貢献することになると吉地副学長は予測する。

高大接続で意欲を掘り起こす「アントレ入試」

 高いレベルのカリキュラムを乗り切る強い意欲と主体性のある学生を掘り起こそうと、総合型選抜「アントレ入試」を導入した。アントレとは、①アントレプレナーを目指すような強い意欲や主体性と、②アントレ(=between)の意から、高校と大学の教育を接続する入試という意味を持つ。

 オープンキャンパスでは、入試の書類審査に使う「探究学習報告書」「活動報告書」を教員と一緒に作成する「報告書作成ゼミ」を複数回開催している。高校の入試対策の負担を大学が引き受ける形で、教員一人に対し生徒4人で行う90分間のゼミナール形式は手厚い支援だ。

 定員5名に対し、初年度は20名が合格した(2025年度入試は定員を15名に変更)。「報告書作成ゼミには2回、3回と来てくれる生徒さんもいて、入学してからもとてもやりやすい雰囲気を作ってくれる」と高い効果を実感している。

 なお経営学部全体の定員80名に対して入学者は82名で、意欲も高く、授業のほとんどがPBLを含むアクティブラーニングという学びの違いに期待する雰囲気が醸成されているという。

女子大学であることのブランド

 共学化ではなく女子大学を選択した同大学。吉地副学長は「武蔵の礼節が本学の競争力であり、短大の評判が四大の期待感にも繋がっている。共学化は志願者を増やすかもしれないが、一番のブランドが毀損してしまう」と話す。

 さらに共学で男性リーダーの下、子ども時代の経験を再生産するよりは、性差を意識せずに学べる環境で、女性リーダーを創出する価値は大きいと続ける。宮本准教授も、開学のため1年前に男子が多い大学から女子短大に着任し、女子だけになったときのパワーに驚いたという。「女性同士で素直に認め合いながら自分も力を発揮したい、そういうアイデンティティを形成するのに女子大は恵まれた環境」と語る。

 「女性の活躍の場が社会の中心に据えられ、マイノリティがマジョリティになっていくと信じている。卒業後にジェンダーギャップで苦しんでも、大学で学んだリーダーシップで突破していける、そんな女子学生を育てていきたい」と吉地副学長。4年後の完成年度に期待が膨らむ。



(文/能地泰代)



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