持続可能な社会の創り手の育成を目指して3校が連携/「衣・食・住」専門学校コンソーシアムOSAKA

これまでにない枠組みで持続可能な社会を担う職業人育成を志す、「衣・食・住」専門学校コンソーシアムOSAKAの取り組みが画期的だ。「衣」の学校法人上田学園 上田安子服飾専門学校、「食」の学校法人村川学園 大阪調理製菓専門学校 ecole UMEDA、そして「住」の学校法人修成学園 修成建設専門学校という大阪の伝統校が分野を超えて連携する。設立から約1年が経過し、改めて設立に込めた思いと、見えてきた成果と課題、そして展望を、学校法人上田学園理事長 上田哲也氏、学校法人村川学園理事長 村川秀夫氏、学校法人修成学園理事長 山下裕貴氏に伺った。


学校法人上田学園理事長 上田哲也氏、学校法人村川学園理事長 村川秀夫氏、学校法人修成学園理事長 山下裕貴氏


コンセプト「衣食住」の背景にある職業教育への矜持

 「衣・食・住」専門学校コンソーシアムOSAKAは、人々のくらしの基盤である「衣・食・住」の視点を通して、持続可能な社会の創り手の育成を連携して推進することを目的に、2023年12月に設立された。設立以降、産・学・官の連携を構築・強化することで、中高生やコンソーシアム3校の学生達と社会をつなげ、夢のある「衣・食・住」の世界に羽ばたいていけるよう、多様な機会と場を提供している。

 設立に至った背景を、発起人である山下氏は振り返る。「少子化、大学進学率の上昇の影響で、専門学校の学生募集は厳しい状況。社会の視点で見れば、変化が激しく先行きが予測困難なVUCA。人工知能等により、なくなる仕事、新たに生まれる仕事があると言われています。一方、産業界は慢性的な人材不足で、職業人の輩出は喫緊の課題。このような環境の今こそ、専門学校の価値を再考するべきだと考え、以前から連携等で協働し、志を同じくする村川氏に声を掛けたのが始まりでした」。

 村川氏は、「職業教育の価値を今以上に社会に認知させる必要があるという課題感は、かねてより3理事長に共通してありました。15歳時点でプロフェッショナルの道とアカデミアの道、いずれかを選択する制度がある欧州諸国と違って、日本の教育システムでは真剣に進路について考える機会が希薄。その結果、『何となく』で大学進学を選択する高校生が多い。夢に向かって頑張る専門学校生やプロの職業人への敬意を抱くにつけ、職業教育の魅力を高校生に限らず早期から啓蒙していく必要性があると考えてきました。

 それを各分野、各校で訴求するのも大事だが、人間の営みのなかで最も重要な『衣食住』という横断的な枠組みでタッグを組めば、相乗効果がより高まるという期待から、連携を決断しました」と語った。

 上田氏は、「他校との連携という難易度の高い取り組みに最初は懐疑的であったが、『衣食住』という分かりやすいコンセプトに面白みを感じ、現場の賛同を得て参加を決めました」と回顧する。

 誰と何をするのかが成果を左右する連携。このコンセプトを発案した村川氏は、「専門学校は生活に必要な技術を身につける『実学教育』がドメイン。生活に必要なもの=『衣食住』そのものであり、専門学校の職業教育を体現する括りとしたかった」と話した。

職業教育の魅力を早期から啓蒙。教育連携に強み

 コンソーシアムは月に一度行われる「3校連絡会」によって運営されている。各学校の運営に支障をきたさないよう、持続可能な活動を目指す。3校のなかで特にリーダーは設けず、横並びで協議しながら事を進めているのが特徴だ。

 これまでに、『衣食住』の仕事に「ふれる」「まなぶ」「かんじる」のサイクルを循環させるための試みを意欲的に行ってきた。


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 中高生に対しては、『衣食住』の仕事とSDGsを遊びながら学べるボードゲーム「SDGsタウン物語」を開発。中高の探究授業で使ってもらうことを見据えた。世界の重要アジェンダであるSDGsを楽しく理解できると、体験した高校からは好評だ。

 また、『衣食住』の職業体験ができるイベント「ミラクル」の実施や、コンテスト開催等、早期から職業の魅力を訴求している。


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△ボードゲーム「SDGsタウン物語」


 対象は中高生にとどまらない。「コンソーシアム設立の狙いは、歴史と伝統、実績と特色のある職業教育を自負する学校同士が積極的に交流することで、教職員の指導力向上や在校生への場や機会提供にもある」(山下氏)との言葉通り、学内向けの取り組みも積極的に取り組んでいる。

 オンデマンドでの教職員研修や、イベント「ミラクル」の運営では3校の在校生が協働し、互いに刺激を受け合った。

 在校生・教職員が専門分野を越境して協働体験ができる「CAFÉ DESIGN WORKSHOP」では、「理想のカフェをデザインしよう」をテーマに、修成がカフェの模型を作って内装を考えるワークショップを実施した。その内容をもとに村川がメニュー考案に関わる講習会を計画する、といった具合に教育連携を行う。実際、社会に出て求められるのは、専門技術に閉じない分野横断での価値提供だ。山下氏は、「そうした経験を、教育連携を通じて機会提供できているのがコンソーシアムの強み。募集広報もスコープだが、本質の教育の質向上こそが重要」だと強調する。


写真 ワークショップの様子
△10月に実施されたワークショップの様子


 自校経営もありながらこれほどの活動が実現したのは、「未来の職業教育の価値を高めていきたい、という同じ想いが3校にあったからこそ。スピード感ある意思決定ができた」と山下氏は語った。

教職員、学生の広がる視野。教育の質向上に寄与

 こうした取り組みによって、教職員や学生に前向きな変化が起こっていると3理事長は口を揃える。上田氏は、「実技が多い専門学校という共通点はあっても、いざ現場で協働してみると学校ごとに教職員の捉え方が大きく違うのは発見だった。専門性の深さに自負はあったが、横の世界に触れる機会を得たことで、教職員の視野が広がっている。現場での良い化学反応によって教員の質が高まり学生に還元できれば、より高い技能を持ったプロを輩出することにつながるだろう」と述べる。

 村川氏もまた、「料理や菓子作りは美的感覚が必要。多角的な知識や教養によって料理が研ぎ澄まされていてく。服飾や建築といった他の専門分野を持つ学生同士の交流によって引き出しが増え、自らの専門スキルが高まっていくことをさらに期待したい」と話す。

 山下氏は、「連携以前は、つい自校内で物事を考える傾向があったが、他校と協働できる選択肢を得られたことで、発想も大きく変化できた。これからのコンソーシアムの教育連携が、職業教育の付加価値を高めるきっかけとなることに大きく期待したい。教育の質向上にも資するのではないか」と語った。

 広報観点での刺激も大きかったと話すのは上田氏だ。「これまで接点のなかったファッション分野以外の他分野を志望する高校生に触れ、ターゲット像の違いを目の当たりにし、広報戦略の参考になった。また、他校のイベントを実際に見ることで、現場職員が有用な知見を得ている」。

 横断的な価値創出のみならず、募集における裾野の拡大、異なる観点の提供、他校交流から受ける刺激等、単独では得られない成果が多く、連携のメリットは大きいようだ。他方、参加者の満足度は高かったものの、中学生のイベント集客や、ボードゲームの利活用の促進には改善の余地があるとし、次年度以降対策を講じる。

単独では成し得ない価値創出をさらに強化

 設立から1年を迎え、見えてきた成果と課題。最後に、今後の展望について3理事長に伺った。

 上田氏は、「行政から連携のお声掛けをいただくことが増えたが、1校ではリソースの兼ね合いで対応が難しいことがままある。また、産官学連携が珍しくない今、ただ連携するだけでは意味がなく、教育の質向上に有効なものへと昇華する必要がある。産官学連携によって、在学生や中高生に機会提供していきたいと志すコンソーシアムで、3校で協力・分担するなど、教育連携で在学生にとって意義のある行政連携の実現を目指したい」と期待感を示した。

 村川氏は、まずは今取り組んでいる活動をやりきり、継続していきたいとしたうえで、「生活基盤である『衣食住』分野において未来を担う職業人達の育成は、地域課題を解決するものであり、さらには地域創生にも寄与する。専門学校とは、地域課題解決につながるスキルを教授する教育機関なのだという認知を高め、価値向上に努めていきたい」と意欲を見せた。

 山下氏は、「学生募集はもちろん大事だが、コンソーシアムの活動がまわりまわって結実すればよいという感覚。それよりも、教育の質向上や、活動自体の特徴をより出していくことが重要だ。

 『衣食住』という分かりやすい旗印で活動していると、行政から興味を持たれることが増えた。結果、学生への新しい実習や挑戦の機会提供等学びの場が広がり、教育の質向上につながっている。競合や大学との差別化といった意味でも、1校ではできない教育連携をより強めていきたい」と語った。

 2年目以降のさらなる発展に注目したい。


(文/武田尚子)