【座談会】産官学連携コーディネーター 現状と課題、今後の展望

産官学の繋がりによって、地域の課題解決や新たな価値創出への期待が高まっている。
そこで各セクターを結び付ける人材の活躍は極めて重要となるが、
その役割の幅広さ故に、実態を認識することは難しい。
今回、「産官学連携コーディネーター」として活動する2名の方に、
そのミッションや求められる要件、今後に向けた課題等を語っていただいた。


山梨県立大学 学長補佐/ 地域人材養成センター長/国際政策学部教授 山梨大学 地域人材養成センター 特任教授 杉山 歩 氏、山形大学アントレプレナーシップ教育研究センター センター長 小野寺 忠司 氏(ファシリテーター)小林 浩 リクルート進学総研 所長・カレッジマネジメント編集長


産官学連携コーディネーターのミッションと組織

小林 本日は「産学官連携コーディネーター」とはどういった立場でどのようなミッションを担う方々なのかというところから、お話を伺いたいと思います。まず杉山先生から教えていただけますか。

杉山 私は地域人材養成センターのセンター長という立場で、「2040年のグランドデザイン答申」にもありますが、地域が真に求める人材を育てたいと考えています。COC+R(文部科学省・大学による地方創生人材教育プログラム構築事業)では、外部の方を多く招いて、45本の実践実技科目を作ったほか、今はSPARC(文部科学省・地域活性化人材育成事業)の採択を受け、地域の意見を集約しながらメイカーズ学科という山梨ならではの理工系の新学科を作っています。パブリックには大学の職務で動いているんですけど、それ以前から産官学連携ネットワークの「学」の代表という形で色んな場に顔を出していました。

 かつての文部科学省の事業では、地元就職率をあげるということがKPIにありましたので、そこを意識したイベントを作りましたが、そこに主体的に参加する学生は、やっぱり次のチャレンジのフィールドを探して出てってしまう。学生達が山梨で活躍するためには、山梨にチャレンジできる場を作ること、そして地元の企業や大人達に、どうすれば学生に選ばれる地域になるのかを教えていくことが、私のミッションだと思ってます。

小野寺 私は今、山形大学のアントレプレナーシップ教育研究センターでセンター長を務めています。民間でPCの企画や開発リーダー、役員等を経験し、2017年に国際事業化研究センターのセンター長として大学に呼ばれました。大学の知財を対外的にオープンにし、企業や金融機関までをつなげ、シーズから新しいイノベーションを生み出す仕事でしたが、より高い経済効果を生み出すことを目指して、山形県との連携を強化し、スタートアップやベンチャーを生み出すことを始めました。2年前にはアントレプレナーシップ教育研究センターを立ち上げ、地域性に合ったソーシャルイノベーションを作り出すこと、さらにはそれを担うソーシャルイノベーターをどう作り上げるかをミッションとすることになりました。

小林 「産官学連携コーディネーター」の役割について、明確に定義されているものはないようですが、一人のコーディネーターの範囲は非常に多岐にわたるように思えます。

小野寺 急スピードで進む人口減少と、低下する経済エコシステムの中で、一人のコーディネーターが大学の様々な役割を担えということが、そもそも無茶でナンセンスだと思います。テクノロジーで解決するものもあれば、仕組みとか法律を変えなければいけない場合もあります。

 ですから、産官学金の有識者が集まる「場」を作り、全体の視点から課題を解決する必要があります。

小林 解決すべき地域課題も複雑になるなか、大学のコーディネーターの役割も過去とは異なる複雑さがあるわけですね。

小野寺 私が立ち上げた山形県のソーシャルイノベーション創出モデル事業「Yamagata yori-i project」では、セクターを超えた力を結集し、データをもとに取り組む課題解決手法「コレクティブ・インパクト」の手法を導入しています。ソーシャルデータを見ながら、現在、yori-i projectに参加する企業は160社です。そういった産官学が参加する集団を作り、地域性を考えた課題解決をリードすることがコーディネーターの役割だと思っています。

小林 大学の組織の外に、別の組織を作るということになるのですかね。

小野寺 そうです。20代のコーディネーターが今6人います。そこでイノベーターを育成しながら社会課題を解決する仕組みを作っていく。その仕組みを色んな地域に転写し、そのコーディネーターがその地域のリーダーとなって活躍するというようなエコシステムを作り上げていくことがベストな方法だと考えています。


コメント 産官学連携コーディネーターとしてのミッションは

産官学連携コーディネーターに求められる資質・能力・スキルとは

小林 そういった若手のコーディネーターの方を起用するときに求める資質や能力やスキルは、どのようなことでしょうか。

小野寺 それは、モチベーションやマインドセット、つまり「この地域に対して関心があるかどうか」ですね。地域に対する強い思いを持っているかという点に尽きます。

小林 当事者意識があるか、ということですね。バックボーンとしては、大学にいらっしゃる若手の研究者やURAの方等、ですか。

小野寺 いえ、そうではありません。山形県で、自分自身で事業を起こしたり、コンソーシアムを作って活動しているような若者です。彼らの所属としては、私が提案して現在リーダーを務めている、やまがた産業支援機構という新しい組織体で、県からの委託を受けている形になります。

小林 杉山先生は、コーディネーターに求められる資質・能力についてはどのようにお考えですか。

杉山 私も「しがらみのない。若さ、熱量」だと思います。パッション、ミッション、プロフェッション、ボケーションの間にある、生きがいや情熱のような意識を持たなければいけないと考えています。

 山梨県の生産年齢人口のピークが1995年の59万人で2024年の今が47万人、2040年にはさらに13万人減少する。強烈ですよね。ですから、小野寺先生がおっしゃる通り、「自治体が」「産業界が」「大学が」と言っている場合ではありません。ですが、問題は、産業界も金融界も自治体もその危機を認識していないということなのです。私が今、SPARC事業でやっている「知/地のソーシャルキャピタル─学びの山梨モデル構築事業─」では、高校生や社会人も含め一貫した学びを提供し、地域を牽引する地域リーダー・産業中核人材を持続的に育成するシステム構築を行っています。

 私一人の力では限界もありますが、COC+や COC+Rで学び、山梨で働く人は、私が為すべきことを一番理解しているパートナー。彼らを核にしてコーディネートを進めているというのが現状です。

小林 コーディネーターに求められる資質や能力として共通している要件は、「若くて、壁を突破する熱量がある」ことだと思うのですが、今多くの企業でそういった人材のニーズは高いですよね。

小野寺 ええ。ただ、初めからそんな方はなかなかいないと思いますね。やる気があって、地域に対する愛情は持っていても、何をやっていいか分からず長続きしないという若者も実際には多い。ですからやはり動機づけは大事だと思います。周囲の人間がフォローして動機づけをしていけば、必然的に育っていくというのは実感しています。

小林 なるほど。ちなみにそういったコーディネーターの方は本業として携わっているのか、それとも副業として関わり報酬を得ているのでしょうか。

小野寺 どちらもいます。報酬は、どういう社会課題を解決し、どのようなエコシステムに作り上げたかという成果に対して県から支払われています。

 動機づけという点では、杉山先生のCOC+やCOC+Rの卒業生は、恐らく学ぶ間に動機づけされているということになりますね。

杉山 はい。COC+で活躍し、次のチャレンジのステージを求めて都内に行く人もありますが、結果として東京より山梨のほうが大きなチャレンジができると言って戻ってきた人もいて、現在、私の仕事をサポートするために山梨大学に転職をしてきたのもそのひとりです。


山形県ソーシャルイノベーション創出モデル事業

知(地)のソーシャルキャピタル~学びの山梨モデル~

産官学連携コーディネーターの大学における位置づけ

小林 ところで、大学における産官学連携コーディネーターの位置づけはまだ確立されていないのではないかと感じるのですが、そのあたりはどのようにお感じですか。ある程度の役割やポジションが決まっていなければ、いかにやる気のある人材でも、そのモチベーションを維持し続けることや定着することは難しいのではないかと思うのですが。

杉山 「研究」という領域であれば、プロボストの立場に就いて、一定の権限を持つケースがありますが、産学連携についても、そういった形になれば進めやすいと思います。小野寺先生や私は、あまり特定の役割や枠組みを気にせずに行動していますが、大学においてそういった動きをしている人は、ほぼほかにはありません。

小野寺 若手のコーディネーターがモチベーションを維持するために、コーディネーターからサブチーフ、チーフコーディネーターへと上がるキャリアアップのサポートは大事だと考えています。

 ソーシャルイノベーションを生み出すシステムをほかの地域に転写する取り組みにおいても、その地域の課題解決とエコシステム構築のリーダーになるというステップが見えるのは、彼らにとっても安心に繋がると思います。

小林 キャリアステップを上がるうえで、どのようなことが評価につながるのでしょうか。

小野寺 データを踏まえて、地域課題をどう解決し、経済システムを作り上げたかを見ます。具体的には、年間ベース3件の課題解決型の事業を創出することです。

小林 評価の仕組みやそれに応じたキャリアステップが見えてくると、後に続くコーディネーターの育成につながりますよね。

 山梨も、色々問題はあるにせよ、産官学連携は日本の中では進んでいると感じます。その要因や背景としてはどのようなことがあるのでしょうか。

杉山 本来は地方の大学はこれからの地域を支える人材を作るのが役割だと思いますが、山梨では人口が減少し地方経済も衰退するなか、教育も就職も東京中心、偏差値中心のパドックレースが行われているままです。それでも、これを続けていたらもう地方は持たないということに早く気づくことができるのは地方だからこそのはずです。それこそ明治維新で、薩長や土佐が江戸幕府に頼っている危機に気づいたように、です。

組織と組織をつなげるにはどうすべきか

小林 産学連携というとき、特定の教授と個社の共同研究というのはよくあったと思います。けれども社会課題となると、組織と組織をつながなければ解決できないものが多いのではないかと思います。組織と組織をつなぐ秘訣についてはどうお考えでしょうか。

小野寺 組織と組織をつなげるのはかなり難しく、企業が新しい事業を始めるときに、企業内部にプロジェクトを作っても成功しません。先ほども言ったように、やはり外に組織を作って、その組織を大学、自治体、金融、企業がサポートするという体制を作り育てていくという方法が良いと考えています。そうでないと、コーディネートも組織の壁と壁の間に挟まり、部署やセクションの役割意識に阻まれてうまくいきません。

小林 そう考えると、産官学のプラットフォーム的な外部機関がその役割を果たせればと思うのですが、全国のプラットフォームの全てがうまく機能しているわけではないように思えます。

杉山 プラットフォームの中には、肩書きだけの充て職の方が集まっているケースも多いのです。そういうプラットフォームは、大学に対する期待も明確化していないので、ありきたりな意見しか出てこない場になっているのだと思います。

小野寺 地域の課題を自分事として受け止められている人が集まる場になっていなければ意味がないですね。また自治体も単にオペレーションをするのではなく、プロジェクトをまとめながら、新しいものを生み出す能力、課題解決能力が求められると思います。


コメント 産官学連携コーディネーターの組織体制に必要なこと

産官学連携コーディネーターが活躍するために必要なこと

小林 今後、課題が多い地域において、どうすればコーディネーターが活躍していけるのかについて、お考えをお聞かせください。

小野寺 私は、ソーシャルイノベートの仕組みを作りながら、コーディネーターとなる若者を育成することが、我々世代の責任だと思っています。

 今、バーチャルリアリティ研究所っていうものを予算化しスタートしようとしています。XRのテクノロジーを使い地域課題を解決しようという取り組みで、様々な企業や世界のトップクラスのテクノロジーリーダーが参加し、併せて教育も行います。場所を選ばずに高い教育を受けながら、特定の地域の課題解決の仕事ができるのです。こういったチャンスに面白みを感じ、地域に関心を持った人材を輩出できるようにサポートしていきたいと思います。

杉山 私は、産業界を育てていくということだと考えています。山梨では、半導体産業が非常にすそ野が広いので、半導体産業を盛り上げるために、現在仕掛けを行っています。もう一つ、山梨県にはファナックがありますが、同社の製品を教育機関として導入し、ロボティクスを学べるようにして今後様々な産業、企業で働くうえで活用できる学びにしたいと考えています。

 今後の地方の人口減少社会において、取るべき道は3つだと思います。1つ目は、ロボティクス化や AI化による無人化への取り組み。2つ目は、「百姓になる」、つまり昔のお百姓さんの語源ですが一つのことのプロフェッショナルではなくて、たくさんのことができる人間になるということ。3つ目は、自分達が欲しい人材は自分達で育てるということ。そのために、企業にも教育にも入ってもらうということだと思います。

小林 今伺ったことを実現するために、大学の経営層が行うべきことは何でしょうか。

杉山 私はやはり組織の壁を越えセクションを横断できるようなポジション、組織を作ることだと思います。そして若手に期待して権限を持たせるべきだと思います。

小野寺 権限の付与もそうですし、教育すること、育成の仕組みを作ることが大事だと思います。期待されると今の若者はできると思っています。


画像 座談会の様子


(文/金剛寺 千鶴子)




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