英語における自律学習者を増やすための大学間連携で 自校のみでは成し得ない教育を実現/神田外語大学


神田外語大学 事務局長補佐 長田厚樹氏


 神田外語大学は2008年頃から「大学間教育連携」と称した教育ソリューションの提供事業を行っている。こうした連携の目的や内容等について、事務局長補佐の長田厚樹氏にお話を伺った。

英語における自律学習を実現する
独自のソリューションを他校に提供

 同大学は「日本人が英語をどのように効果的に習得できるか」に長年取り組んでいる。また、2001年からは、「学生が自ら積極的に学ぶ自律学習」を支援するという考え方に基づく教育を行っており、2017年には「学習者オートノミー教育研究所」を発足している。ただ「教わる」のではなく、「自ら学ぶ」ことができるようになること。それが神田外語の目指す学習者の姿だ。それを実現するのが、英語教育の専門家組織ELI(English Language Institute)と、自律学習を支援するSALC(Self-Access Learning Center)等の教育環境である。

 こうした英語教育と自律的学習者支援のノウハウを一体化し、「教育ソリューション」という形で他の教育機関に提供している。「語学学習ではインプットとアウトプットを増やすことが重要です。だから、授業外でも場を整備し英語に触れる機会を増やすことと、そういうシーンを支援するELI/SALCの存在が大切です」と長田氏は話す。ELIが支援するのは、問題意識→課題発見→学習計画→探究→課題解決→自己評価→自己省察という一連の個別化だ。同大学は単なるネイティブスピーカーを提供するのではなく、相手先の学生の持続可能な自律型学習を支援し、神田外語で授業を受けたのと同等の成果を提供する。そのための環境整備や思想・スタンスに賛同する大学としか連携しない。「自ら学ぶ力は、自らの課題を発見し、解決方法を見いだすための能力。それは言語の習得にとどまらず、社会で活躍するために欠かせません。だから本学は、そうした考え方も含めて教育として提供します」と長田氏は説明する。

 大学間連携は2008年、広島文教女子大学(当時)の申し入れから手探りで始まったという。現在は、図に示すように綿密なヒアリングと視察等から相手大学に必要なプランを練る。神田外語で任期を終了したELIの教員が学内の大学間連携部署から出向する形式をとるが、自律学習環境の整備は相手側が行い、神田外語同等の教育サービスの提供にコミットする。4年後には神田外語のリソースが引き上げても自走運営できるようにするのが原則だ。提携先の大学には、立ち上げ支援の期間支援チームが毎月出向してカリキュラムの状況を確認し、必要に応じてチューニングを行ったという。なお、出向した教員は期間終了後もそのまま相手側の直接雇用に転換するケースが多い。事実上の移籍というわけだ。


図 大学間連携導入フロー


有効な連携には経営戦略上のコミットが必須

 長田氏によると、「英語に注力している」と言っていてもコマ数が絶対的に少なかったり、「コミュニケーション英語」を標榜していても大教室でTOEIC®の問題を淡々と解くだけの授業だったりと、語学教育は看板と現実のギャップが大きいケースも散見される印象だという。「非常勤の先生が担当して週1回、内容は先生にお任せ、という授業で英語力はつきません。専任教員による体系的なカリキュラムが必要で、コミュニケーションの機会を増やすためにも少人数でのクラス編成が重要です。そのために可動式什器を備えた小さいサイズの教室を作ってもらうところから要望することもあります。本学が提供する教育に合う環境整備ができなければ想定された教育は実現しませんから、折り合いがつかずお断りするケースももちろんあります」(長田氏)。

 お金と時間をかけないと成果は上がらない。だから相手大学の経営上、英語教育の優先順位が高くなければ組めないということなのであろう。「英語教育にこれだけ投資するくらいならこの研究に投資してほしい」といった話が出たり、既存の語学教育を担当する教員からよく思われなかったりすることもあったというが、「他分野の先生方の英語論文指導を行う等、現場に受け入れていただくための努力を惜しまないのはもちろんですが、そうした軋轢も経営とコミットしているからこそ乗り越えられると思います」と長田氏は述べる。


画像 キャンパスの様子


連携活動を支える教育哲学と、多様な属性への教育実績

 これまで英語教育に課題感を持つ様々な大学と連携してきたが、背景にあるのは「日本の英語教育を変えたい」と本気で考えていた前理事長佐野隆治氏の想いであるという。「英語が母国語でない日本人のために最もふさわしい英語教育の確立が、本学の使命です。そこで蓄積されたノウハウを他校にも提供し、日本の英語教育の質が向上していくことが、本学が希求する目的の1つでもあります」(長田氏)。だから惜しげもなくそのノウハウを提供するのだという。しかし提供されているのは神田外語の真髄とも言えるエッセンスばかり。理念の実現というだけで提供できるものだろうか。

 それについては、神田外語にとって大きなメリットがもう1つあるという。「英語が大好きな学生が大半の外国語大学では想定できない層への教育実績が増えること」だ。例えば工業系大学は概ね「英語が苦手」という学生が多数派の世界である。「本学では英語が好きで意欲も高い学生に教えている先生が、英語が苦手で意欲も低い学生に教える経験を得、新たな教材や教授法の開発が進み、それが本学の教育や研究に循環する。その効用は甚大で、本学に閉じていたのでは実現不可能な幅広い英語教育の開発につながります」。

 これは研究価値という意味だけではない。「少子化が今以上に進めば、将来的には本学で受け入れる入学生も今より多様化するフェーズが来るでしょう。そうした時の備えにもなるはずです」と長田氏は将来を見据える。また、「違う系統の大学と組むなかで、タコツボに入りがちな大学において、オープンに様々なカルチャーに触れて、学生サービスや会議等日常業務でも違いを知ることができ、視界を広げられるのはとても良い。教職員間交流における連携の意義は大きいと思います」と続ける。なお、現在は大学間連携から派生して高大接続の動きが活性化しているそうだ。

 最後に、連携しやすい大学の条件を伺うと、「最初の連携が遠方の広島だったのも良かったと思う」と長田氏は述べた。募集競合になり得ない距離感が後押しになったようだ。その後も地方大学や工業系等、募集競合関係になく、リソースが補完関係にある相手方との連携を進めてきた。これは連携において重要な示唆であるように思われる。



※連携例はHPに掲載 https://www.kandagaigo.ac.jp/aci/


(文/鹿島 梓)




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