人材不足のサイバーセキュリティー分野で、国内外で活躍するリーダー育成を目指す/滋慶学園COMグループ ホワイトハッカー専攻

滋慶学園COMグループ


 サイバー攻撃の脅威が増し、防御、安全保障の重要性は高まる一方で、専門人材は不足している。そんな状況に対して、ホワイトハッカー専攻を設立し、サイバーセキュリティー人材の育成にいち早く取り組んできたのが滋慶学園COMグループだ。設立に至った背景、見えてきた教育成果、そして今後の展望を、東京デザインテクノロジーセンター専門学校の大山時世氏に伺った。


東京デザインテクノロジーセンター専門学校 大山時世氏


不足するサイバーセキュリティー人材
国内外で活躍するリーダー輩出を目指す

 滋慶学園COMグループでは、現在までに全国8校でホワイトハッカー専攻を展開する。お話を伺った大山氏の東京デザインテクノロジーセンター専門学校では、5年前にスーパーホワイトハッカー専攻が開設され、専門人材の育成に当たる。

 設立の背景には、「セキュリティー業界の圧倒的な人材不足がありました」と大山氏は話す。「右肩上がりで伸びるIT業界によって、私達の生活はもはやITとは切り離せません。IoTやAI等によって便利や快適を享受する一方で、サイバー攻撃の脅威も増しています。

 サイバーセキュリティーの重要性が高まるにつれ、専門人材の需要も高まっているにも拘わらず、供給は全く追いついていません。セキュリティー業界そのものの認知度、教育環境がまだ多くないといった課題に対し、本学園がそこを担えればという思いで設立に至りました」。(大山氏)

 大学も含め、ホワイトハッカーを育成する教育機関はまだ多くない。そもそも、ホワイトハッカーという職種自体も新しい。新分野参入の経緯については、「専門学校の新専攻の検討は、年間通じて行っています。5年後、10年後の社会を見据えると同時に、高校生の目を引くものであるという観点が大切。独自調査でも、アニメや映画の影響で、『ホワイトハッカーはかっこいい正義の味方』と高校生に認知されていると分かりました。将来性はもちろん、名称に引きがあり、かつ設立当時は他プレーヤーのいない新しい分野でした」と戦略を振り返る。

 目指すのは、国内外のセキュリティー業界、IT企業のセキュリティー部門でリーダーとなる人材の育成だ。

企業と共に作る実践教育
リーダーとしての素養も高める

 学園が標榜する「国内外で活躍するリーダー育成」を可能にする、教育の特色とは何なのか。

 「四年制で、基礎から専門技術に至るまでネットワークをしっかり学びます。卒業時は高度専門士が取得できるので、就職の際も大卒者に遜色ない。実力主義のIT業界において、卒業生のスキルには、企業からも高い評価を頂いています」と教育成果に自信を見せる。

 強さの秘訣は、産学連携教育だ。「国内外のセキュリティー業界の企業等に協力を頂き、現場のプロから実践的な教育を受けます。実際に手を動かして、プロと同じプロセスを経験しながら、最先端の知識と技術を修得します。現場で活躍するリーダー達からの刺激は大きく、学生達はモチベーション高く生き生きと学んでいます」。

 なかでも、企業から課題を与えられ、良いものであれば商品化される「企業プロジェクト」は、リーダーに必要な力を高めるのに有用だと大山氏は話す。

 「本学園が育成したいリーダーは、高いスキルを保持するだけでなく、他者と連携して高い成果を生み出すことができる人。故に、コミュニケーション力、人間力がリーダーシップに重要な素養だと捉え、カリキュラムの中で高める工夫をしています。

 チーム制作やグループ活動が多いのはそのため。プロジェクトマネジャーの役割を与え、通常であれば社会に出てから学ぶ、納期や予算、チーム管理の経験を在学中から積んでもらいます。実践を通じて、リーダーに必要なコミュニケーション力、人間力を培うことができています」。

 また、海外での活躍も見据えて、世界的ITベンダー認定の実践的でハイレベルなカリキュラムを展開する。EC-Council(米国)の日本初認定アカデミア校であり、認定ホワイトハッカーの資格取得を目指せる。「高い目標ですが、在学中から視野を広げる教育機会を提供したい」。(大山氏)

 さらに、入学時に選択した専攻以外に、他の専攻の科目を履修できる「Wメジャーカリキュラム」でスキルの幅を広げる。「例えば、ホワイトハッカー専攻の学生が、ゲーム制作の授業を追加することで、デバッガーを目指すことができる等、将来の活躍の場も広がります」。(大山氏)

 マイクロソフトゼミに参加したスーパーホワイトハッカー専攻の学生達が、複合的な知識を活かして作ったアプリが評価され、マイクロソフト社からクラウドサービス「アジュール」を15万ドル分まで無償利用できる支援を受けるといった、好事例も生まれた。

 「サイバーセキュリティーを軸にしながら、興味や好奇心に合わせて他分野を学ぶことでシナジーが生まれた本件は、Wメジャーカリキュラムの意義を体現するものとして、他の学生の探究心を加速させていると感じます」。(大山氏)

98%が志望業界に就職
実力主義の業界でスキルが武器に

 充実した実践教育の結果、セキュリティー分野、IT分野を学んだ学生の業界就職率は97.8%(東京デザインテクノロジーセンター専門学校2024年度)を誇る。

 「日本全国に6法人80校の教育機関を展開する滋慶学園は、1976年の創設以来49年にわたり、産業界と連携して、25万人以上のプロを輩出してきました。そのスケールメリット、歴史ゆえに業界とのパイプは強く、学んだ分野への就職を可能にしています」。(大山氏)

 企業から見た、卒業生の入社後の評価も高い。

 「技術力の高さをかわれ、通常なら入社1、2年目では参加できない難易度の高いプロジェクトや、誰もが知る大規模プロジェクトに参加する等、即戦力として活躍しています。業界と共に、現場で求められる能力に対応したカリキュラムを作っているので、4年間みっちり学べば即戦力に育つのはある意味当然のこと。最新の業界ニーズに即応して、スピーディーに授業をアップデートできるのが、専門学校の強みです」。(大山氏)

 産学連携の教育成果の証左と言えよう。

 学生募集も好調だ。資料請求、来校者数は激増。全国8校で展開したことで、「ホワイトハッカーという仕事自体も知名度が高まっているのでは」と大山氏は手応えを示す。

 特にここ数年は、有名大学も検討した結果、本校に入学する学生も増えているという。

 「IT/セキュリティー業界は、学歴よりもスキルが重要視される実力主義。また、給与が高いことも高校生には魅力のようです。有名企業への就職や、就職後の卒業生の活躍等、本学園の実績が口コミで広がり、偏差値帯の高い高校からも進路の選択肢の一つとして検討され始めている兆しを感じます」。(大山氏)

倫理観、責任の所在に課題
プロ輩出こそが課題解決であり社会貢献

 入学、教育、就職、そして社会に出てからの活躍…。どのプロセスも好調で、好循環が生まれているホワイトハッカー専攻。一方、見えてきた課題はあるのだろうか。

 「ブラックハッカーからのサイバー攻撃を阻止し、コンピュータやネットワークを守る、という善良な目的のために教授している高い技術を、悪用されるリスクは0ではない。

 ホワイトハッカーとしての高い倫理観の涵養や、悪用やトラブルを未然に防ぐ対応策を、教育の中にどう落とし込んでいけるか。また、最悪の事態が起こった場合、責任の所在について今後検討していく必要があると考えます。

 また、セキュリティー業界の人材不足は依然として深刻です。業界が求める知識・技術のレベルに、応募者のレベルが及ばず、採用に至らないのが要因です。

 産業界が求める1段階、2段階上のレベルの人材を育て、日本、そして世界を股にかけるようなスペシャリストを輩出していくことが、業界の課題解決につながると同時に、職業人教育を通して社会に貢献するという、本学園の展望です」。(大山氏)


(文/武田尚子)