地域のイノベーション創出に向け、セクターの壁を越えた密度の高いコミュニケーションを(カレッジマネジメント Vol.242 Oct.-Dec.2024)

 日本全体で人口減少が進むなかで、特に地方の人口流出が大きな課題となっている。総務省によると、2023年人口流入超過となったのは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、福岡県のわずか7都市に留まり、他の道府県は人口流出超過となっている(※1)。将来を見据えると、リクルートワークス研究所の調査では、2040年に労働力が日本全国で1100万人不足する「労働供給制約社会」が到来すると予測されている(※2)。地域によっては30%以上も労働力が不足するとのことである。

 こうしたなか、地方の魅力化、地域経済の活性化のためには基幹産業、産業クラスターの創出が重要な鍵となる。例えば、米国ピッツバーグはかつての鉄鋼業の衰退から、現在は産学官のイノベーションによって米国有数のテクノロジーハブへと転換を果たしている。大学を中心としたスタートアップ企業も次々と創出されている。日本においても、このような産学官そして金融も含めた産学官金の連携によるイノベーション創出が必要である。例えば、本特集で紹介した内閣府が推進する「地方大学・地域産業創生交付金」の採択地域では、交付金を活用しながら自治体、産業界、大学が一体となって、魅力ある新産業創出と若者の雇用機会の創出に取り組んでいる。

 産学官連携を成功させるためには、まず地域の産業構造構築に向けてのビジョンの構築・共有が大前提となる。その上で、産学官金の連携によって、イノベーションを創出するためには、各セクターや多様なプレイヤーをつなぎ、巻き込み、様々な壁やしがらみを越えて、具体的な取り組みを具体的に推進していく必要がある。そのためには、各セクターのトップ同士がビジョンを共有し、目指す方向性に対して強くコミットすることは当然だが、単にプラットフォームや仕組みを構築するだけでなく、産学官金の連携をコーディネートする「コーディネーター」の役割が重要になる。「コーディネーター」と一言に言っても、その役割は多様で、その実態はなかなか分かりづらい。そこで、新たな基幹産業の創出に向けて動いている自治体を取材するとともに、産学官連携を進めるための観点を整理し、コーディネーターにその役割と今後のあり方について話を伺った。

 取材やインタビューから分かってきたことは、①組織の壁や従来のしがらみにとらわれないよう、大学や自治体の外部に組織を創り、そこに産学官金が集いサポートしていく仕組みを作ること、②研究者個人ではなく、組織と組織との関係性を強化すること、③コーディネーターに組織の壁を越えて動けるような権限を与えること、④コーディネーターは、知識や経験がある者だけでなく、マーケット視点を持ち、地域の課題を自分事として考えられる熱い思いのある若い世代を育成していくこと、⑤自治体には、単なるオペレーションではなく、プロジェクトをまとめながら、新たなものを生み出す役割が求められていること、等である。

 日本は狭いようで広い。地域によって産業構造や資源、気候も大きく異なっている。当然、地域ごとにどのような基幹産業、産業クラスターを創出していくのかは異なる。他地域のグッドプラクティスを共有しながらも、地域の各セクターが“協創”して知恵を絞っていくことになる。一方で、本特集の取材では、様々なところで地方公共団体、産業界、大学それぞれのセクター間におけるコミュニケーション不足が、課題として挙げられていた。地域産業にどのようにイノベーションを起こしていくのか、産・官・金とどのようにコミュニケーションを取っていくのか、どのような資源が活かせるのか、『知の拠点』である大学にかかる期待は大きい。



  • 総務省 住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)
  • リクルートワークス研究所「未来予測2040」(2023年3月)

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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