大学を強くする「大学経営改革」[108]学部長のリーダーシップと学部運営の変革~学長主導改革が置き忘れた課題を考える~ 吉武博通

吉武博通 学校法人東京家政学院理事長・筑波大学名誉教授

学長主導による改革の現在地を確認する

 近年、大学には「学長のリーダーシップ」が強く求められている。その考えや要請に沿うように多くの大学が学長主導による改革に取り組んでいる。

 それを政策面で促したのが、2014年2月に中央教育審議会大学分科会が示した「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」である。

 そのなかで、「法律上、学長には教育研究に関する最終的決定権と、所属する教職員に対する指揮監督権が与えられている。しかしながら、長年の慣行を踏襲した内部規則等によって各学部に権限が配分され、学長がリーダーシップを発揮しにくい構造となっている場合が少なくない」との認識が示されている。そのうえで、「学長のリーダーシップの確立」を掲げ、具体的な課題として、総括副学長等の設置、高度専門職の安定的な採用・育成、事務職員の高度化による教職協働の実現、IRの充実などの「学長補佐体制の強化」及び「人事・予算・組織再編等に関する学長のリーダーシップ」を挙げている。

 これを受けて、2015年4月に学校教育法の改正が施行された。最も大きな改正点は「教授会の役割の明確化」である。これにより、従来「重要な事項を審議する」とされていた教授会は「学長が決定を行うに当たり意見を述べるものとする」とされ、学長との関係における位置づけが明確に示される形となった。

 国が実施する様々な補助事業の審査においても、「学長のリーダーシップ発揮による改革の推進」は最も重視される評価基準の一つになっている。

 これらの動きが大学運営の実際にどのような変化をもたらしているのだろうか。客観的な方法による点検・評価が求められるが、様々な場で学長や副学長の生の声を聴いてきた者として、現在の状況を次のように認識している。

 国立大学は一部の大学を除き、学長が経営と教学の両方に責任を負う体制となっており、国立大学法人評価などを通して学長のリーダーシップがより強く求められている。加えて、財政面で厳しさを増していることもあり、人事や予算など学内資源配分で学長裁量の拡大が進んでいる。

 一方、私立大学や公立大学は大学の規模や歴史などによる違いも大きく、一括りに述べられないが、総じて学部の側に学部自治を守ろうとする意識が根強く、学長も学部の意向を尊重しながら慎重に改革を進めようとする傾向が強いように思われる。

 このように設置形態や大学ごとの状況による違いはあるものの、学長をはじめとする大学執行部からは「学部が反対する」「学部が動かない」との声を聞くことが多い。その逆に、「トップダウンで物事が決まる」「改革を押し付けられている」との学部サイドの戸惑いや反発の声も聞こえてくる。

 これらの状況を踏まえると、学校教育法改正から10年が経過した今日においても「学長主導による改革」は道半ばであり、「大学のガバナンス改革は、大学の目的である教育、研究及び社会貢献の機能を最大化するものでなければならない」との審議まとめの考えを成果に結びつけるためにも、新たな視点から改革のあり方を問い直す必要がある。

大学改革の成否は学部の変革にかかっている

 その視点こそ「学部」である。教育、研究、社会貢献の機能を最大化するために学部をいかに変革すべきかを検討し、実効ある運営を確立していかなければならない。

 教育社会学者で1974年から76年まで文部大臣を務めた永井道夫は、その著書『大学の可能性』(中央公論、1969年)で「大学は“教授会の自治”を守り、権力の介入を排するという。しかし、その立場をとることによって、よりすぐれた管理運営を行うことができるのか。これに対して大学側は明確な答えを示していません」と述べている。半世紀以上を経た今日において、大学は永井の問いにどう答えるのだろうか。

 まず行うべきは、2014年の審議まとめや15年の学校教育法改正の趣旨に則ったガバナンスの仕組みを徹底することである。学長と学部の間の責任・権限関係を明確化し、そのことを広く構成員に理解させる必要がある。学部やその構成員の意見を聴くことはマネジメントの問題として重視されなければならないが、責任・権限関係や意思決定の仕組みなどガバナンス上の課題とは峻別する必要がある。また、学部の教育研究に対して責任を負う立場にあり、学部教員の代表者である学部長の専決事項と学部教授会で審議・決定すべき事項の明確化も必要である。

 ユニバーサル段階にある大学において、多様化する学生に対するきめ細かな対応がこれまでにも増して求められている。教育の質が問われ、わが国全体の研究力の低下が指摘されるなか、教員が教育研究活動に専念できる環境の整備も不可欠である。課題解決の速度を上げ、管理運営に係る負担を軽減するためにも、学部運営を根本的に見直していく必要がある。

 さらに大きな課題は、学部機能を社会的要請や学問の動向に即して持続的に向上させることである。そのためには、教員の採用、個々の教育研究能力向上の促進、教員間や教員・職員間の協働による組織的な教育の展開が重要な要素となる。

 学長が改革の方針を定めても、全学的に教学マネジメントの仕組みを整えたとしても、実際に教育研究活動を担うのは学部であり、そこに所属する教員である。大学改革の成否は学部の変革にかかっているといって過言ではない。学部長にはその変革を主導する意思と能力が求められている。

学部は一様ではなく自主的な変革の尊重も必要

 ここで留意しなければならないことは、学部は一様ではないという点である。

 例えば、国立大学の場合、旧制高校、師範学校、専門学校、医科大学などの学校を包括する形で一つの大学が設置され、改組や学部新設などを経て今日に至るケースが少なくない。そのために学部ごとにキャンパスが異なり、遠隔地にあることも多い。

 大規模な私立大学では、中小規模の大学一校に匹敵する学生定員や予算額を有し、本部や他学部と離れた場所に立地するケースもある。このような学部に対しては、より大きな責任と権限を付与し、自律的な運営に委ねたほうが良い場合もあり得る。

 また、大学院重点化により、教員の所属を含めて大学院研究科を部局として運営している大学も、国立大学を中心に多い。

 学長を中心とする大学執行部と学部の関係、学部運営のあり方などを考えるにあたり、これらの実情を十分に踏まえる必要がある。

 もう一つ留意すべきは、自主的な変革に取り組んだり、優れた学部運営を実践したりしている学部も決して少なくないという点である。

 国や社会は、ともすると大学自身の努力や工夫に目を向けることなく、変革されなければならない存在として大学に改革を迫りがちである。同じことは学内における大学執行部と学部の関係にもあり、変革に後ろ向き、または抵抗する存在として、学部を捉えがちな面がある。

 国公私立大学の経営や評価に携わってきた筆者の経験の域を出ないが、同じ大学においても学部間で課題認識の共有の度合い、改革方針の明確さ、組織としてのまとまりなどに関して、かなりの差やばらつきがあることを感じている。

 学部の実情を見極め、学部が進める自主的な変革を尊重したうえで、ある時はその努力や工夫を後押しし、ある時は具体的な指摘や助言をもって改革を促す。学長や大学執行部が学部に向き合うに当たってはこのようなメリハリも必要ではなかろうか。

「調整型」から「戦略遂行型」への転換

 これらのことを踏まえたうえで、大学改革の成否の鍵を握る学部変革の課題について考えてみたい。

 最大の課題は、学部長の役割の「調整型」から「戦略遂行型」への転換である(下記概念図参照)。


調整型学部長から戦略遂行型学部長への転換(概念図)

 これまでの学部長は、本部の方針を学部に伝え、学部の意向に沿って本部に働きかけ、本部と学部の間の調整を行うとともに、学部内においても学科間の調整や学部としての意見集約など、調整役としての役割を果たしてきた。

 これらの機能は今後も必要であるが、社会ニーズや教育環境の変化が急速に進む時代において、学部自らがより主体的に変革を進めていかなければならない。また、大学全体の改革に対しても、既得権を守るという姿勢から脱却して、教育研究現場や専門分野の立場から建設的な提言を行うことも重要となってくる。

 そのためにも学部長には変革を主導する強いリーダーシップが求められる。多様化する学生、社会的要請、学問の動向などに幅広く目を配り、変化に対応して教育研究機能を進化させることで、学部を発展させる戦略を練り上げる力であり、構成員を巻き込み、着実な実行を通して成果に結びつける推進力である。

戦略的な学部運営を支えるシステムの整備

 学部長がリーダーシップを発揮するに当たり、その戦略的な学部運営を支えるシステムの整備は不可欠である。

 学部の規模にもよるが、1名ないし複数名の副学部長の配置は必須である。また、教授に限定することなく中堅・若手教員を学部長補佐に充てることも、次代を担う教員の考えを学部運営に活かすという点で有効である。副学部長や学部長補佐等への登用は、将来の学部長候補人材の育成にもつながる。

 これらの補佐体制とともに重要なのが職員による支援機能の充実である。近年、職員の効率的配置を目的として、学部事務を集約する動きがあり、学部長を支える事務機能の脆弱化も懸念されている。庶務的業務を中心とする従来型の「事務」にとどまる限り、集約化やデジタル化による効率化は不可避である。その一方で、内部質保証などの教学マネジメント、教育研究に係るデータ分析、多様化する学生への対応、研究支援など、戦略遂行型の学部長を支える機能を強化していく必要がある。

 キャンパスの立地にもよるが、これらのスタッフを全て学部に所属させる必要はない。例えば、IRやURAなど高度な専門性を必要とするスタッフについては、本部や全学組織に一元化したうえで、担当する学部を明確にし、学部にも席を設けるなどして学部長を支える方法が考えられる。これらのスタッフの人事評価に、学部長の評価を加味することで実効性を担保することもできる。

 副学部長、学部長補佐、高度専門職、企画・教学系スタッフなどで構成される戦略チームを編成し、学部長と学科長の率直な対話の場を設けることで、戦略的な学部運営の基盤もさらに強固なものになるだろう。

 大切なことは、このような学部運営システムの整備に学長や大学執行部がコミットし、支援することである。これらを通して、学部との信頼関係も高まるはずである。

学部長に期待する役割と求める要件の明確化

 学部長の役割を調整型から戦略遂行型に転換させるに当たり、学部長の選任と学部を率いるにふさわしい人材の育成は極めて重要な課題である。

 学部長については、学部教授会における投票によって選出され、理事長または学長が任命するケースが依然として多いと思われる。このほかに、学部教授会が複数名の候補者を選出して理事長または学長が決定、学部長選考会議による選出、学長による指名などの方式がある。

 それぞれに長短はあり、どの方式が優れていると言い切れるものでもないが、学部運営の巧拙が大学経営に影響を与える以上、経営に最終責任を負う理事会における審議や理事長による任命は極めて重いと考えるべきであろう。

 そして、何よりも重要なことは、法人や大学として学部長に何を期待するか、その役割と求める人材要件を明確にすることである。持ち回りのポストといった認識で学部長を選ぶことは許されない。仮にそのような意識が残っているとすれば、自大学やわが国の高等教育が置かれた状況に対する危機感があまりに薄いといわざるを得ない。

 2年任期の大学が多いと思われるが、計画した施策を実施し、軌道に乗せるまでの2期4年や3期6年は一人の学部長が務める形が望まれる。

学部長人材の育成こそ大学の未来を拓く鍵

 学部長人材を計画的に育成するという発想もますます重要になってくる。

 前述の通り副学部長や学部長補佐は将来の学部長任命を睨んだキャリアパスになり得る。学長による学長補佐等への登用を通して、全学的視点から大学運営を学ぶ機会を与えることも有効である。既にこのような取り組みを行っている大学も多いだろうが、学部運営を担う人材育成の機会として、これらのポジションをより積極的に活用していく必要がある。

 学部長職務を担うための知識やスキルを身につけるとともに、これからの学部運営を主導するにふさわしいマインドセットを養うための体系的な教育プログラムの開発も重要である。

 海外では、教育や学術の分野で主導的な役割を果たすためのリーダーシッププログラムを設ける大学や学会もある。わが国においては、トップ向けのセミナー、職員を対象とする研修などが大学団体等により行われているが、学部長や将来の学部長候補人材を対象にした教育機会はあまり見当たらず、実施されていたとしても広く知られているわけではない。

 「選挙で選ばれる学部長を予め育成することなど現実的ではない」との見方もあるだろう。しかしながら、仮に選挙で選ばれたとしても4月の就任までに時間はある。この期間に必要最小限であったとしても学修機会を設けるだけで、学部長職務の円滑なスタートの後押しになるし、その後の能力開発にもつながるだろう。

 ここまで学部長に焦点を当てて論じてきたが、研究グループを率いるPI(Principal Investigator)、さらには学科長など、研究活動や教育活動を主導し、それらを組織的に展開する能力を養うことは、個々の大学のみならず、わが国の高等教育や学術研究の水準を持続的に向上させるために必須の課題である。

 学長主導だけでは大学は変わらない。より良い教育研究現場をつくりあげていくために何が必要か。本稿がそれを考える契機となることを期待したい。





【参考文献】
吉武博通「大学における戦略の創出と実行について考える」『カレッジマネジメント』No.231,Jan.–Mar.2022



【印刷用記事】
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