長期ビジョンにダイバーシティの推進を掲げ、 目標達成に独自奨学金を活用/芝浦工業大学
【DATA】芝浦工業大学
学生数9600名(学部7794名・大学院1806名)
4学部(工、システム理工、デザイン工、建築)
競合大学をベンチマークに学費を設定
芝浦工業大学(以下、SIT)は、2022年度に「理工系女子支援奨学金」を導入、2025年度に「芝浦工業大学『朝日に輝く奨学金』」の改定など、女子学生と地方出身者をターゲットに独自奨学金を強化している。学費と独自奨学金の全体方針について、財務部長の石原 学氏と入試・広報部長の杉山修氏にお話を伺った。
石原氏によると「現在、大学全体の収入金額は約220億円あるが、そのうち学費が170億円ぐらい、その他が補助金等になっている」という。収入に占める学費の割合は約76.7%なので、私立大学の平均約78%※1とほぼ同レベルの状況にある。
一方、学費の設定方法はベンチマークとする競合大学との比較で決定している。石原氏は「初年度納付金額と4年間の納付金額を、偏差値上位の理工系競合校や首都圏私立総合大学の理工系学部と比較して決めている。今はちょうど良い位置取りかもしれない」と現状を教えてくれた。さらに「近年、競合校の学費が上がってきている傾向にあるが、物価上昇による学生側の経済的負担は間違いなく増しているので、学費の値上げは慎重に検討しなければいけない」と語る。
ダイバーシティ推進、女子と地方学生を支援
こうしたなか、2022年から「理工系女子支援奨学金」を導入し、①「公募制推薦入学者選抜(女子)」の入学者と、②一般入試で成績優秀な入学者を対象に、二本立ての制度設計で奨学金を給付する(図表1)。
杉山氏は「今、日本における工学系学科の女子学生比率は平均2割に満たない状況にある」と指摘する。SITではイノベーションを起こすためには男性だけでなく女性ならではの観点も必要だと考え、2016年に策定した長期ビジョンに「ダイバーシティ推進先進校」を掲げ、女子学生比率30%を数値目標に設定し、女子を対象に入試施策を行ってきた。
2018年度入試から工学部の一部学科にいわゆる女子枠入試を設ける「公募制推薦入学者選抜(女子)」を開始し、2023年度に設けた「(総合型)理工系女子特別入学者選抜」はこれを全学へ拡大したものだ。「理工系女子支援奨学金」は、「SITが女子学生の確保に積極的であるというメッセージ的な役割や、ほかの競合大学にも合格した際、本学に来てもらう入学のモチベーションを喚起する役割を担っている」(杉山氏)という。
一方、2025年度に「芝浦工業大学『朝日に輝く奨学金』」を改定した(図表1)。2023年度の開始時から指定校推薦入試(各都道府県1名以上)での入学者としていた対象を、一般入試の前期日程か共通テスト利用方式における成績上位者300名に変更し、給付金額も50万円から110万円に増額した。「本学の授業料が160万円弱なので、110万円の給付で国立大学並みの50万円になるように金額を設定した」と杉山氏。給付対象を変えた理由については「指定校推薦入試による入学者を対象とした場合、それまで本学を意識していなかった受験者層の関心を呼び起こすには至らず、せっかくの奨学金が十分に機能していなかった」と振り返る。
また私立理工系大学で唯一のSGU採択校として一定数の留学生がいるが、国内のダイバーシティという意味でも、女子学生と同様に国内各地から本学に来てもらいたいと杉山氏は話す。
女子学生比率が過去最高、目標達成は目前に
当初100名からスタートした「理工系女子支援奨学金」の選抜人数は、2024年度に145名、2025年度に180名と右肩上がりに伸びている。2025年度の学部入学者の女子比率は27.8%と過去最高で、目標の30%も目前だ(図表2)。
入試や奨学金に加え、女子に特化したイベントの効果も大きい。夏休みのサマーインターンシップでは、女子高生が1週間研究室に滞在し研究活動を体験する。女子向けOCでは、女子学生が女子高生をアテンドし、普段の生活や授業の取り方等を直接説明するスタイルが評判だ。「保護者世代には『女子が理工系?』といったバイアスがまだ根強く残っている。本学の女子学生のそのバイアスを打ち破る姿を見て、志願者や入学者が増えている」(杉山氏)。
「朝日に輝く奨学金」では、今年は成績基準に達した上位300名に通知を送った。東京の私立大学は首都圏出身者で占められ、SITも例外ではない。在学生に占める関東一都六県以外の出身者の割合は18%台で、これを25%まで上げたいとしている。東京での生活費も課題であり、「来年度以降の宿題として寮への優先入寮等の改善も考えたい」(杉山氏)としている。
目標達成できた奨学金は新しいものに循環
杉山氏は「この理工系女子支援奨学金は黎明期の一つのきっかけみたいなもので、奨学金がなくても来てもらえるようにするのが最終目標。未来永劫続けるべきものではない」とし、「女子比率3割を早期に定着させたい。芝浦を見てごらん、奨学金がなくても3割が女子だよと、女子が理工系で学ぶことを当たり前にしたい」と続ける。
石原氏も、「学生一人当たりの収支を見た場合、奨学金の給付金額次第ではコスト割れする可能性がある。奨学金の目標達成状況や収支面のバランスを見ることが大事。目標達成できた奨学金があるならば、新しいものに入れ替え、循環を検討していくのが好ましい」と話す。
また学費については、「少し上げると競合校との位置取りが変わってしまうこともある。しかし教育投資においては大宮キャンパス再整備プロジェクトが進行中で、物価高や人件費の上昇もある。どこかで学費を上げないといけない時が来る」(石原氏)と、将来の可能性も示唆した。
(文/能地泰代)