【TOP INTERVIEW】地域密着でグリーン・デジタル研究教育の 最先端拠点を目指す/長崎総合科学大学 学長 黒川 不二雄氏


長崎総合科学大学 学長 黒川 不二雄氏

長崎総合科学大学 学長 黒川 不二雄(くろかわ ふじお)
山口県生まれ
1976年 福岡工業大学工学部卒業
1977年 福岡工業大学工学部助手
1984年 長崎大学工学部助手
2007年 長崎大学工学部准教授
2010年 長崎大学工学部教授
2011年 長崎大学大学院工学研究科教授
2015年 長崎大学大学院研究科グリーンシステム創成科学専攻長
2016年 長崎大学大学院研究科電気・情報科学部門長
2017年 長崎総合科学大学大学院新技術創成研究所特命教授
イサハヤ電子株式会社 社外取締役
長崎総合科学大学大学院新技術創成研究所 学術教授(特命教授)
2023年 長崎総合科学大学学長


日本で屈指の船舶工学を持つ理工系私立総合大学

 長崎総合科学大学は、長崎市に2つのキャンパスを有し、工、総合情報の2学部、大学院、学生数約800人を擁する、県内唯一の理工系私立総合大学です。

 造船のまち長崎において、川南造船所が1942年に職業学校として設立した財団法人川南高等造船学校が本学の起源です。専門学校、短期大学を経て、1965年に長崎造船大学を開学しました。その後、1978年に長崎総合科学大学へ名称変更しています。

 建学の精神に「自立自彊」「実学実践」「創意創新」「宇内和親」を掲げ、「少人数教育体制によるモノづくりのプロを育てる」ことを教育の基本としています。小規模ながらあらゆる理工系分野をフルレンジで揃えつつ、日本で屈指の船舶工学を持つユニークな大学です。

コース制と新教育プログラムで将来の進路が拡がる

 2014年度より導入したコース制は、本学の教育の特徴の一つです。工学科に「船舶工学」「機械工学」「建築学」「電気電子工学」「医療工学」の5コース、総合情報学科に「知能情報」「マネジメント工学」「生命環境工学」の3コースと、計8コースを設けています。

 1年次から学科内の全コースの大まかな内容を学ぶことで、一つの専門だけでなく、関連分野まで幅広い知識を身につけた人材を育成するのが目的です。学科の垣根を取ることに一番の重点を置き、例えばロボットを共通に扱う「機械工学コース」と「知能情報コース」の学生が一緒に学ぶことで、お互いの知識や強みを共有できるようにしました。

 この特徴をより深化させたのが、2020年度からスタートした新教育プログラムです。学科・コースを横断する11のプログラム(海洋工学、ロボット工学、IoTシステム、臨床工学、医用工学、AIシステム、経営情報システム、地域ビジネス、スポーツマネジメント、衛生工学、省エネルギー工学)を配置し、将来の進路に必要な学びを単位互換で選択できる仕組みです。

 また本学では2年次からキャリア教育を行い、将来の自分の姿が見える形で、企業の方と一緒にプログラムを作っているのも特徴です。こうした成果から就職内定率は全体平均で98.5%(2024年3月卒、就職者数128人)、6コースで同100%と、希望の進路に就職できる環境にあります。卒業生には造船所社長も多く、最近は機械・電気系から一般企業へ行く学生も増え、マネジメント工学からは証券会社社長も輩出しています。

先端グリーン・デジタル理工学部(仮称)を設置構想中

 私は2023年4月に学長に就任しました。造船のブランドが傾いても縮小ではなく学びのメニューを減らさなかった先人の選択を尊重しながら、これをどう生かそうかと考えたときに、メニューや下地の多さはむしろメリットになりました。

 本学には最先端の研究集団が存在します。グリーン(GX)では文科省「緑の知の拠点事業」採択により、太陽電池等の再生可能エネルギーを電力変換する装置と研究実績を持っています。デジタル(DX)では、今後注目される3D半導体や、「ALICE国際共同体」の日本代表を担う素粒子物理計測等、半導体の研究に強みを持ちます。『Newton』(2021年5月号)の「理工系」研究力ランキングで全国33位にランクされたのも、こうした論文の実績が評価されたものです。

 この研究を、大学として学部教育と連動させ、企業との共同研究で社会実装したいと考えていた時、文科省「大学・高専機能強化支援事業」を知り、2027年度設置構想中の新学部「先端グリーン・デジタル理工学部」(仮称)で事業の採択を受けました。同事業の10年計画で長崎県の理工農系進学者が毎年750人増加することから、2029年に先端情報学部(仮称)、2031年に先端工学部を構想し、大学全体で635名の定員増を計画しています。

 新学部では強みのGXとDXを結集し、太陽電池等から効率的に電力変換し、AIデータセンターやスマートハウスに電力供給するGXとDXの融合技術を教育研究します。新校舎には再生可能エネルギー装置を入れた「サスティナブル・スマート・キャンパス」を建設予定です。

 AIの進化により、データセンターには通常のデータセンターの約3倍の消費電力がかかると言われています。GXとDXは表裏一体であり、効率的な電力供給は脱炭素の重要なテーマです。三菱総合研究所の試算では、2035年までにグリーン関連で270万人の雇用が創出されると推測しています。

最先端GDXの研究教育拠点へ

 今後はGXとDXを融合した“GDX”という新しい学問分野を創出し、地域や企業と連携して「グリーン・デジタル研究教育拠点」(以下、GDX拠点)を形成しようとしています。

 新学部の上に大学院も作る構想で、2023年度には大学院の実質無償化を実現しました。これはGDX拠点形成に向けて、附属高校から博士課程まで、シームレスな一貫教育による高度技術者の育成に取り組むためです。

 附属高校については、企業からニーズの高い機械や電気・電子を目指す高校生が少なく、高校現場における情報の遅れを感じています。そこでエンジニアコースを作り、2024年度にDXハイスクールの採択を受け、進学希望者も増加しています。

 さらにGDX拠点としてキャンパスの中に企業との共同研究講座を多数設置する計画を進めています。同じ方向性を持つ先進的企業のニチコン(株)とは、2024年10月に「未来志向グリーンエネルギー変換ニチコン共同研究講座」を開設しました。また(株)NTTドコモとの共同研究が、脱炭素に向けた技術開発として、2024年度「環境省R&D事業」に採択されています。

 本学のキャッチフレーズ「ひとつ先の風景へ」には、学生のすぐ目の前で将来の自分の姿を見せてあげたいという思いを込めています。その第一歩として、それらの企業と共に地域と密着したGDX拠点の実現を目指していきます。


(文/能地泰代 撮影/草野 清一郎)



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