【寄稿】大学生のAI活用

株式会社イマーゴ
執行役員 / コンサルティング部長
乗添 凌太郎
コンサルタント。定量定性データを組み合せたユーザー心理分析を得意としている。
大手通信事業者/ 自動車メーカーとのプロジェクトにおいて、調査・分析・体験設計を統括している。

リサーチャー
竹下優花
大学生が利用する生成AIサービス
生成系AIは登場当初の想定を遥かに上回るスピードで生活に浸透し始めている。若年層を中心に、仕事でも、勉強でも、日常生活でもAIを使うことは当たり前の光景だ。
ChatGPTの登場から3年、これほどまで社会に浸透することを、果たして想像できていただろうか。
この生成系AIの急速な普及を牽引しているのは、大学生を含む若年層だ。2025年5月から7月にかけて(株)imagoが実施した大学生対象のAI利用実態調査では、AI利用が著しく拡大している実態が明らかになった。
調査によると、大学生全体の97.6%(2025年7月時点)が、何らかの用途でAIを利用している(図1)。

利用しているAIはChatGPTが圧倒的に多く95.6%。少し離れてGeminiが30.3%だ。他方で、将来的にはGeminiがシェアを拡大する可能性も高いと考えられる。中高生へのインタビューを行うと、大学生と比較してGeminiを利用している割合が相対的に高い傾向が見られた。背景には、学習現場におけるGoogleの高い浸透度がある。 小学生の段階からGoogleアカウントを保有しているケースが多く、学校で利用するデバイスやサービスもGoogle基盤で統一されていることが少なくない。その結果、生成AIを使う際にも、追加の登録や環境構築を必要とせず、自然な延長線上でGeminiを利用する状況が生まれている。このように、初等・中等教育段階からの利用環境を踏まえると、今後、学習用途を中心にGeminiの利用が拡大していく可能性は十分にあるだろう。
Microsoft CopilotもGeminiと利用率では大差はないが、インタビューでの言及は少なかった。大学生はパワーポイントやエクセル、ワード等Microsoft製品の利用が多く、そのサポートでCopilotを利用しているが、メインのAIとしての利用が少ないと推測できる。
学習、就活、日常生活 全てにおいて不可欠な存在へ
AIの利用目的として最も多く挙げられたのは「レポートや課題のサポート」で、全体の89.0%にのぼった(図2)。大学での学習現場における具体的な学生のAIの利用方法については後述する。

学習シーンでの利用に加え、雑談や健康相談、旅行プランの作成等、日常シーンでの利用も増えてきている。インタビューでは、AIにずっと恋愛相談をしている人、AIを恋人にする人等、ユニークな事例も見られた。昨年末には過去の自身の対話データを元に利用者の性格や傾向分析をAIに行ってもらう遊びが流行する事例も観測されており、AIはツールを超えて若者の中で新たなコンテンツになりつつある。
大学生のAI利用として見逃していけないのが就活における活用の進化だ。アンケートでは就活関連の選択肢は18.4%にとどまっているが、対象が大学生の全学年であり、その中で現在就活を行っている学生が3~4割程度と考えるとこの数字は極めて高い。ソフトバンクやロート製薬をはじめ一部の企業では、AIの影響でエントリーシートを廃止している。大半の学生がエントリーシートにAIを使った結果、内容やクオリティが均質化し、結果、選考材料としての意味を失ってしまったのだ。ほかにも就職したい企業の探索や、自己分析のための壁打ち、さらには面接対策にAIを使う事例も少なくない。PLAN-Bマーケティングパートナーズが行った調査によると、就活生の6割がAIがきっかけで知らなかった企業を知ったと答えており、就活におけるAI利用はもはや一般的と言えるだろう。
大学生にとってAIは、学習だけでなく就活や生活の面でも欠かせない存在になりつつある。インタビューをしていて印象的だったのは、AIに関する話を友人の話のようにする人が多かった点だ。「AIに頼むと~」「〇〇してくれる」「この前AIと話していたら」といったような発言が目立った。彼らはAIをもはや道具ではなく、何か存在のようにみなしている。大学生にとってAIは、パートナーのような存在になりつつあると言えるだろう。
大学生も中高生も自発的にユースケースを発見
大学生のAIの利用拡大において、特に注目すべき点がある。
それは多くの学生が自発的に活用方法やユースケースを見つけていることである。一般的に新しいサービスやプロダクトが普及する時、流行感度の高い層の利用が先行し、そこで確立されたユースケースが社会へと伝播する。しかしAIの場合は違ったプロセスを辿っている。「これもAIを使えばうまくいくかも」「とりあえずAIを使ってみよう」「もしかしたらこんなAIの使い方ができるかも」といった形で、大学や教員側が把握していないところで、半ば無意識のうちにAIの活用の幅を広げているのだ。
このようなAI利用の拡大は大学生に限ったものではなく、より低い年代へと波及し始めている。現役大学生を対象とした調査では、「高校時代から既にAIを利用していた」という人も3割を超えている(図3)。特に、調査当時の大学1~2年生に限ると、約半数が「高校生の時」にAIの利用を開始していた。

実際に中高生にAIの利用方法を聞くと、数学の宿題をスマートフォンで撮影して解説を求めたり、短歌の課題に取り組む際に発想のヒントを得たり、自分が書いた作文を「先生の視点」で評価させたりと、その使い方は多岐にわたる。単なる検索ツールとしてではなく、思考や表現を支援する存在としてAIを活用する姿が見られ、大学生と同様に、教育現場における自発的なAI利用が着実に浸透し始めていることがうかがえる。大学生は既にAIをパートナーのように扱い始めている。中高生あるいは小学生からAIを使う子ども達はよりその傾向が強くなるだろう。
学びにおける大学生のAI活用
では、大学生はどのようにAIを学びに活用しているのか。大学生の学習におけるAIのユースケースとして代表的な活用例は大きく3つに分類できる。
①難解な説明や文章を噛み砕いて理解したいとき
専門書や論文、お世辞にもわかりやすいとは言えない教科書を読んでいて理解につまずく体験は今も昔も変わらない。そんな時、AIは文章を入力するだけで即座に解説を提示してくれる。加えてAIは難解なことを根気強く、ユーザーが分かるまで、いくらでも繰り返し教えてくれる。
「分からない」と感じたときの心理的な負担感はAI登場前後で大きく変わっている。
②アイデアや思考/文章等の壁打ち相手としてのAI
従来、壁打ちは他者との対話を前提としてきた。今の大学生はこの営みをAIと行っている。大学生にとってAIもまた、「他者」のように振る舞う存在である。AIであれば、思いついた瞬間に壁打ちが可能であり、納得がいくまで対話し続けられる点はAIならではの特徴である。
③体系的な知識がない分野を学ぶときのパートナーとしてのAI
自分の頭で体系的に理解できていない領域では、「分からないところが分からない」といった状態に陥りやすい。前提知識の不足により疑問点の言語化すら一苦労になってしまう。このような状況でもAIならば分からないことを明らかにするところから一緒に考え、一から教えてくれる。
これらのユースケースが定着している背景には、AIが時間や回数、心理的負担といった制約をほとんど受けずに利用できる点がある。大学生対象のインタビューにおいても、「なぜAIを利用するのか」という質問に対し、「いつでも聞けるから」「いくらでも聞けるから」「なんでも答えてくれるから」といった回答が数多く見られた。すなわち、AIの普及によって、「人に聞かなくても学習が回る」状態が生まれつつある。
思えばこれまで学習は人に大きく依存していた。良い先生に出会えるか、友人に気軽に聞けるか、本人の社交性等様々な要素が学びに影響していた。一方AIの登場により、それらのある種運のような要素に影響されずに一定のクオリティの学習ができるようになった。しかし、AIが与える影響は、必ずしもポジティブなものばかりではない。われわれが特に懸念しているのは学習者の「深い学び」がAIによって阻害されることである。AIを使う大学生自身の口から、「頭を使わなくなった」「考える力が落ちる」と実感するとの意見が実際に多数聞かれた。
深く思考するプロセスを失うリスク
AI登場以前は、理解に至るまでに時間と試行錯誤を要する場面が少なくなく、この経験で得られるものもまた重要な学びであった。様々な資料や文献を行き来しながら考えを整理したり、文章表現を何度も書き直したりする過程の中で自然と深い学びが行われていた。しかし現在はAIによって疑問は即座に解消され、文章は瞬時に整えられる。その結果、「一人でじっくり考え続ける時間」は大幅に短縮されている。
より深刻なシナリオとして、考える行為そのものが放棄される可能性がある。中高生にインタビューをすると「AIのほうが人間より頭がいいから」という発言が度々聞かれた。そう話した彼らはAIが自分より優位であると無意識で感じているのだ。この価値観は思考を放棄してしまう深刻なリスクをはらんでいる。この価値観を小学生や中学生といった早い時期に持ってしまうと、自ら考えることを放棄してしまうかもしれない。AIの言うことに従って生きる。そんなジョージオーウェルの1984に描かれたような世界がいよいよ現実味を帯び始めている。
ここまで見てきたように、AIは学習を個人で進めやすくする一方で、学生が自ら考え続ける過程を省略させ、深い学びを阻害するリスクをはらんでいる。行き過ぎれば、学生が自ら考えることを放棄し、AIに委ねてしまう可能性もある。
ここで改めて、学習の中で「自ら考える」という行為の重要性に立ち返りたい。
パスカルは人間を「考える葦」と表現した。思考することによって人は尊厳を持つのだと。AIは歴史上初めて登場した人間の思考を補完・代替する道具と言えるだろう。
経済学をほとんど学んだ経験のない東京大学の学生が、生成AIを活用し、フィールドトップの学術誌に挑戦し得る水準へ独学で到達したという話がある。このようにAIは、使い方次第で個人の到達点を大きく引き上げる。
一方で、使い方を誤れば、試行錯誤や内省といった「考える過程」そのものが省略され、自ら考える力が弱まってしまう可能性もある。
「道具は使い手の資質を映す」という言葉がこれほど当てはまる技術は、過去に例を見ないだろう。
これからの教育において重要なのは、AIに代替されない思考力を守ることではない。個人の能力を拡張する方向で、AIを使いこなす資質をいかに養うかである。
AIは思考の質を高めるだけでなく、学習や制作の過程で人が担える作業の量を拡張する側面もある。情報収集や整理、下書きといった工程を補助させることで、人は限られた時間の中でも、より多くの挑戦や修正を重ねることができる。
こうした支援がうまく機能すれば、これまで環境や時間の制約によって埋もれてきた才能が、AIを通じて引き出され、大きな成果へとつながる可能性もあるだろう。
