学修履歴等をもとに学び方を示唆する「AI大学講師」で学生の意欲を高め学びの継続を支援/千葉工業大学

千葉工業大学は、2025年よりAI等を用いた教育・学習支援ツール「AI大学講師」の開発と活用を進めている。その狙いや詳細について、常任理事・大学事務局長の小川靖夫氏、教学センター津田沼教務担当の仲村啓介氏に伺った。
教員の正課の授業をサポートする「講師」として
「AI大学講師」は、データベースに蓄積された学生の学習活動の記録等をもとに一人ひとりに個別最適化された対話型指導を提供するというツールだ。「教員に代わるものではなく、教員が行う正課の授業をサポートし、教員がより創造的な教育活動を行うためのもの」(小川氏)として開発し、2025年5~7月の3カ月間、同大学変革センターが提供するプロジェクト実践型科目「総合科学特論(web3・AI概論)」で実証実験を行ったのち、同年後期より全学科共通開講の英語科目に導入された。現在は、他科目への展開も検討が進められているという。
開発の背景には、同大学が近年取り組んできた中途退学・留年の抑止という課題があったという。「本学のST比は約35と他の大学と比べると高めになっており、また15年ほど前から留年率と退学率の高さが課題となり、大学全体で改善に取り組んできました。取り組みからわずか3年間の間に成果をあげ、さらに近年では改善できてきたこと、そして、全体でできる取り組みはほぼやり尽くしたことから、さらなる支援として一人ひとりの学習状況を把握したうえでの個別支援が必要だと考え、開発を進めました」と小川氏は説明する。
併せて同大学には、学生・教職員の利便性向上や教学マネジメントのためのシステムを2022年ごろよりWeb3やAIを活用しながら構築してきた経緯がある。例えば、2022年に学修履歴証明書を、2023年には学位証明書をNFTとVC(Verifiable Credentials:検証可能なデジタル証明書)を組み合わせた形で発行可能にした。また、2025年にはTurnitin社のFeedback Studioを導入し学生の授業理解向上に活用している。
AI大学講師もこれらの取り組みの蓄積をもとにしたものだ。具体的な仕組みについては図を参照されたい。個人の学修・課外活動の履歴や授業ログ等、同大学が保有するデータや個々の学生が入力したデータをDOU社が提供する「キャリアパスポート」にVCを発行した形で記録・蓄積し、専用のAPIでカスタマイズされたChatGPTの機能「GPTs」に連携することで、GPTsがこれらのデータを参照しながらAI大学講師として個々の学生をサポートしていく。
なお、各データにVCを発行するのは、生成AIのハルシネーション対策のためだ。「VCで管理されたデータのみを参照し、回答を導き出すよう制御することでハルシネーションの抑制を図っています」と小川氏は説明する。
学生との個別の対話を通じて学び方を示唆
実証実験を行った「web3・AI概論」はサービス開発を実践する科目で、AI大学講師は課題に取り組む際の壁打ち相手等として機能。結果、学習内容の理解度や定着率、批判的思考力、問題解決力等の向上が見られ、途中で履修を止める学生も15%程度減少したという。「授業前日や週末、夜の利用率が高く、わからないことがあれば時間を気にせずAI大学講師を活用して積極的に学ぶ環境が作られていました」と小川氏は評価する。
後期より導入した英語科目では、個々の学生の語学レベルや課外活動、提出したレポート等の情報をもとに、必要な英語学習の提案や会話練習の際の話題の提案等を行っているという。「例えば『あなたは音楽が好きですよね、音楽について会話しましょう』とAI大学講師が提案すれば、学生のモチベーションも高まります。こうした形で学生に必要な学習をサポートしていきます」と小川氏。「教科書や論文をデータベース化するに当たっての著作権対応が課題」としつつ、AI大学講師の可能性を次のように話す。
「大人数の授業で個々の学生に応じて教員の説明を補足する形での個別最適化、対話を通じた思考力育成、多言語対応による国際化への対応等が可能になると考えています。加えて、指導の継続性も確保できるでしょう。AIに当該科目の授業内容やカリキュラムを学習させることで、教員が変わっても同じ内容でその科目の授業の継続が可能になると考えています」
全学で幅広い活用を計画
こうした可能性をふまえ、同大学では他科目への展開の検討を進めているという。「今、候補として挙がっているのは、PBL科目や演習・実験科目等です。教員からの活用方法の提案や教職員向けの研修で出てくるアイデア等を通じて有用なユースケースを見つけて育てていきたいと思っています」と仲村氏は話す。このほか、研究室配属後の研究テーマ決めや就職活動、履修科目の検討、奨学金の申請手続き等の支援等、教学マネジメントに限らない幅広い活用可能性を見いだしているとのことで、「AIキャリアアドバイザー」「AI職員」「AI教授」等も開発していく計画だ(図)。

「本学全体で人手不足は大きな課題です。その解消にAIを用いて取り組み、かつ、AIを使うのであれば全体的な指導ではなくAIができる個別指導をきちっとやっていける仕掛けを用意していく。この考えで取り組みを進めていきます」と小川氏。教学マネジメントにおいてはAIの活用による授業改善に期待を寄せる。「これまで教員が担ってきた学生への個別指導をAIが支援できるようになれば、教員は長年行ってきた教育内容を時代や学生の変化に応じた最新のものに見直す時間を作ることができます。そうして授業が改善されれば、それが学生に対するサービスにもサポートにもなる。教職員が協力して新しい発想でAIを活用しながら教育を変革し続け、社会にとって必要な人材を輩出していきたいと思います」。同大学の挑戦は続く。
(文/浅田夕香)
