入試は社会へのメッセージ[16]大学教育との接続を踏まえ、受験対策の外にある入試を作る「総合型選抜(とんがりAO)」/東京電機大学 工学部

東京電機大学(以下、電大)工学部は2026年度入試より「総合型選抜(とんがりAO)」を導入した。その狙いや背景等について、工学部長の吉田俊哉教授にお話を伺った。
意欲や個性にとんがった人材を見出すための「対策しづらい」入試
「近年年内入試が活況ですが、高校生活での活動をアピールするにしても、活動自体をやらされていると感じることが増えました。もちろん高校生自身は一所懸命やっているのですが、その活動の軸となるべき意欲や個性が、ともすれば抑制されていると感じることすらあります」と吉田氏は話す。主体性等を育む活動は増えている一方で、本当に自分の意思と意欲をもとにした活動は相対的に減っているのではないか。そうした実感値は、受験生にも在学生にも当てはまることだという。「本学は技術者育成の大学であり、昔から自分の『好き』『情熱』ありきで、そのために自己流で技術を使いこなしてしまうようなオタクな人材が多かった。そうしたとんがった人材に比べると、最近の学生は随分丸くなりました。工学という学問は、いくら基礎学力が高くても、自分の意思や意欲がそこになければ応用が利きませんし、我々は本学の特性にかなう生徒に会いたいのです」。大学の根幹である工学で活躍できる人材が確保できなければ、大学としての活力が損なわれる。ゆえに、そうした人材を確保することは、大学経営上の意義も大きい。
2年ほど前から教職協働の場でこうした課題意識のもと議論を重ねたという。「本学の今後を皆で考える場で、もっとこうしたらどうか、と話し合えたのは非常に楽しく有意義なことでした」と吉田氏は検討経緯を振り返る。入試導入の1年前には学部に議論の場を移し、詳細を詰めていったという。

工学領域で必要な感性やセンスは情熱に支えられて育つ
「とんがりAO」とは他にないネーミングだが、募集要項によると本入試の「求める人物像」は、「少なくとも1つの分野・事柄に情熱を持って取り組める素養を持ち、将来その素養を生かして各学科に関連する分野を第1志望としている受験生」とある。
「本学は都内理工系ポジショニングの中で一定数の志願者は集まっていますが、受験対策を一所懸命やってきた受験生ほど、入試への対応力は上がる一方、入試で問われない能力は削られて丸くなってしまう。自己PRも先生の指導が入れば入るだけ理想的・標準的になり、どの受験生でも似た文章になる傾向があり、個性や面白さが見えなくなってしまうのです」。だから、こうした傾向と対策の外にある入試を設計したかったという。「本入試は自分の趣味の領域を語ってもらうので、一般的な添削が利きません。本学は、文章の良し悪しよりも、本人が起点の情熱が知りたいのです」と吉田氏は続ける。
こうした人材は何か不得意な科目があっても自らの情熱を実現するために努力をし、周囲にも良い影響を与えてくれるという経験則があった。また、本人起点の情熱は、ゴールに対する感性を育てるという。「情熱を持って関心ごとに向き合っていると、しっかり計算して初めて答えが分かるのではなくて、見た瞬間、ああこれはこういう感じだろう、と、完成形に至るイメージが湧くようになります。その領域において感覚が育っており、解決策について大体の目星がつくこと。計算や理論で最後に確かめることで、そうした感覚が理論で支えられ、強固な専門性になっていく。工学にはそういう感覚がとても大事です」。対象に対する愛が強く、たくさん手を動かしたり考えたりしている人でなければ、こうした感覚は身につかないという。「お医者さんに罹って、散々検査した挙げ句『風邪です』と言われても戸惑いますね。たぶん風邪だ、という見立てがあって、必要な検査でその事実を探り当てるわけです。それと同じアプローチです」と吉田氏は説明する。知識を道具に課題解決できる人が一部でもいれば周りにも刺激や良い影響を与える。そうした起爆剤となる人材が10人に1人でもいれば、全体の雰囲気が変わってくる。
なお、高校の探究学習との親和性についてはどう位置づけたのか。「探究学習も、やらされと自分でやっているの二極化しているように思う」と吉田氏は話す。「成果だけ見ると素晴らしいものでも、作業としては頑張っているが本人が興味を持っていなそうなことが圧倒的に多い。要は愛着や情熱が足りないのです」。その見極めのポイントになるのが、募集要項に記載されている「雑談的な語りで少なくとも30分以上は話ができるほどの知識量があること」との文だ。「本当に好きなことは、人は話し出したら止まりません。逆にやらされたテーマは一問一答的な会話で終わってします。自分から出てきたテーマかどうかは、少し話せばすぐ分かるものです」。
「とんがり要件」を軸に経緯や内容を徹底的に言語化
評価方法は図表に示す通りの2段階選考である。特に二次選考の面接・口頭試問に重きを置いており、「その受け答えから基礎的な知識・技能、主体性を持って学ぶ力を測り、自身が取り組んだ得意分野についてのプレゼンテーションと質疑応答から、表現力や工学的(または理学的)なセンスを測ったうえで、多面的・総合的に合否を判定」すると募集要項にはある。
ここで3点注目したい。まず、出願要件として課している「学習成績の状況で『数学3.3以上かつ外国語3.3以上』」という値である。吉田氏によると、主体性・意欲に徹底的に選抜を振るために基礎学力担保として置いているものであるが、同時に学部内で合意形成するために学力担保は必要だった。ただし学力によって本入試の趣旨である「とんがり」が狭められないようにする水準を議論し、この値で置いたとのことだ。
次に、本入試の肝である「とんがり要件」だ。これは、「本学工学部が本当に出会いたい“とがった個性や経験”を持つ受験生像を具体的に示したものです」と吉田氏は述べる。入試のプレスリリースにも、「受験生の皆さんには個のパワーを炸裂させてほしい、夢や情熱を大いに語ってほしい」とある。
前ページ図表に示す通り、20種類の「とんがり」が予め示され、受験生は自身がこのどれに該当するかを選んで出願する。要件通りでない場合でも、対象は読み替えて構わない。
「とんがり要件」は趣旨に賛同した教員でキーワード出しを行い、50ほどあった素案から入試設計の趣旨とアドミッション・ポリシーとの整合も踏まえ、選出したという。「本学部のアドミッション・ポリシーを究極にとがらせ、具体的にするととんがり要件になるように調整しました」と吉田氏は述べる。
最後に、「とんがり報告書」の存在である。大学HPに掲載されている「とんがり報告書(解答・書き方のポイント、記入例)」には、「とんがり報告書はあなたの自己紹介書」と示し、「この報告書は、あなたの得意なことや、取り組んできた内容を具体的に記述することで、あなたに初めて会う面接委員に、あなたの特徴を紹介する『自己紹介書』の役割を果たします」と説明している。
記載内容は、「自分のとんがりはとんがり要件のどれに当てはまるのか」「そのとんがりに興味を持ったきっかけ、理由、思い入れ、熱意等」、「とんがりの内容」、「志望学科の学びとどう結びつくのか」の4点。自らのとんがりについて、経緯・内容・大学の学びの接続を言語化する内容だ。その意図について吉田氏は、「自分のやりたいことに筋が通っているかを問います。言葉を使わないと深い考えはできないので、相手に伝わるように言語化してもらいます」と説明する。

とんがった精鋭が集まった初年度入試
本入試に、高校からは「面白い入試だしあの生徒に受けさせてみたい」といった声が多かった一方、「恐らく対策という点では高校の先生方が最もやりづらい入試だったと思います」と吉田氏は振り返る。それこそが入試設計上の狙いではあるものの、逆風になっては困るが、そうはならなかったとみる。初年度選抜では34名が出願し、書類選考を通過した26名がプレゼンテーションと面接に臨み、15名が合格した。
この結果について、吉田氏は「そんなにとんがった人ばかり来るわけではないので、普通のAOとして考えればOKかなという判断が多くなってしまうことを危惧していましたが、蓋をあけるとちゃんととんがった志願者が集まってくれました。合格された15名は、当初の狙い通りの質が担保された人材と言えます。難易度で大学を見られてしまうと、こうした人材は集まりません」と笑顔を見せる。面接を担当した教員からも、「寝食を忘れてものづくりに取り組む姿勢がある」「独自の視点を持つ考察力を持っている」等の声が挙がったという。違う軸で勝負し、一定の成果が出たことに手応えを感じているようだ。
とんがりAOは「丸くない人材が欲しい」という電大から社会へのメッセージ
一方で、一部の「とんがり要件」については受験生の理解が難しく、改善の余地が指摘された。「平易なキーワードで構成しないと分からない人もいますが、本学としては注釈をつけなくても要件を理解できる学生を求めているので、そのあたりの精査が難しいところです。また、今回誰も選ばなかったとんがり要件もありましたが、それを『こうしたら選びやすくなるのでは』と再検討してしまうと、せっかくの個性が見出しづらくなる可能性もある。最も怖いのは『とんがり』が形骸化することで、この入試自体が丸くならないように、内容はとんがる方向に精査しながら続けていきたい」と吉田氏は話す。初年度は広報においても「とんがった角を持つ鬼」のビジュアルを用いる等、内容を含めたインパクトが狙えたが、2年目に同じ手が使えるとは限らない。個性ある人材との接点強化のため、とんがり要件の精査と合わせて、こうした打ち出し方も検討していくという。
とんがりAOが担う役割は、単なる入試制度というだけではない。「本学が求める人材をとんがりAOという入試に規定することで、総合型以外の区分の受験生にもアピールする役割もあります」と吉田氏は補足する。ゆえに、本入試は導入から入試結果までを対外的に都度リリースし、周知を図っている。本連載のタイトルでもあるが、入試は社会へのメッセージである。どのような入試を実施しているかは、その大学が何を大事にしているかの表明そのものなのだ。
(文/鹿島 梓)
【印刷用記事】
入試は社会へのメッセージ[16]大学教育との接続を踏まえ、受験対策の外にある入試を作る「総合型選抜(とんがりAO)」/東京電機大学 工学部
