教科書に基づき回答する「AI先輩」により 通信制で学ぶ学生の授業理解と孤独感の解消を支援/武蔵野大学

武蔵野大学は、2025年10月よりOpenAI社のGPTsを活用した独自の学修支援システム「AI先輩」を通信教育部人間科学部人間科学科心理学専攻の3つの専門科目にトライアル導入している。テクノロジーと人的サポート、仲間とのつながりによって通信教育における孤独感の解消と学びの継続を実現するべく様々な取り組みを進めている同大学通信教育部において「AI先輩」はどのような役割を果たすのか。その狙いや効果について、武蔵野大学スマートインテリジェンスセンター(MUSIC)センター長の林 浩一氏に伺った。
通信制で学ぶ学生の学修パートナーとして
「AI先輩」は、学生の質問に答える同大学オリジナルの対話型AIだ。当該科目で使用する教科書や講義内容を学習したうえで、学生からの質問に対して教科書に記載のある内容は教科書に基づいて回答し、記載のない内容は「これは僕の考えだけど」と前置きをして補足する等、講義内容に即した情報とそれ以外を区別して助言を行う。2025年10月より心理学専攻の「心理学概論」(1年次)、「心と体の健康」(2~4年次)、「行動療法」(2~4年次)の3科目に導入し、2026年4月からは新バージョンにアップデートする。
狙いとしたのは、通信教育における孤独感の解消だ。「本学では、2024年のメタバース空間『縁(えん)バースキャンパス』の開設を始め、通信制の学生が修了を目指して1人で学ぶのではなく仲間や教員とつながり、学びを継続できるよう改革を進めています。AI先輩もその一環で、縁バース上にAI先輩と会話できるスペースを設けています」と林氏。また、競合が増えている通信制において他大学に対する優位性を築く狙いもあったという。
教員等ではなく「先輩」としたのは、「AIの仕組み上、間違った情報を教えることがあるため」と林氏は説明する。事実と異なる情報を生成してもっともらしく答える、いわゆるハルシネーションを起こすのが生成AIの特徴だが、その対策として、間違うこともある存在である「先輩」という設定と、学習データ以外の情報はAI独自の見解であることを前置きして出力する仕組みを構築したわけだ。
そして、トライアル導入先を心理学専攻としたのも、生成AI活用における課題をふまえてのことである。「AIの活用において、ハルシネーションとともに問題となるのが著作権です。心理学専攻には担当教員が自著を用いて授業を行う科目が一定数あり、著者の許諾を得たうえで教科書をAIの学習データにするという条件に合致していました。加えて、通信教育部の中で最も学生数が多いことや、心理学専攻の先生方が新たな試みにとりわけ肯定的であることも要因でした」と林氏は説明する。
孤独感の軽減、深い学びに寄与
トライアル導入に当たっては、事前に数日間、心理学専攻の卒業生による試用を実施。誤回答が起こることへの指摘がありつつも、「人に聞くハードルの高さを軽減できる」「興味や考えの深掘りに使える」等のフィードバックを得たことから、トライアル導入の意義があると判断して3科目に導入したという。使用した学生からも、「学修の仕方やレポートの考え方、文献の調べ方等のヒントを得られた」「教科書等の内容の詳細について尋ねた」等「役に立った」という声を得ているとのことだ。「ハルシネーションの問題はありますが、それ以上に『一人じゃない』と感じられるのは大きい。改善を重ねながらこのまま活用を進めていくことが重要だと判断しています」と林氏は評価する。
加えて、林氏がAI先輩の効果として指摘するのが「学びを深めることができる」という点だ。「教科書には理解すべき知識の概略がまとめられていますが、学生が一人で読んで学修する場面では、サマリーを読んでいるような感覚で理解が深まらないことがあります。そこでAI先輩に『これって具体的にはどういうこと?』『どんな事例がある?』等の質問をすることで、具体例を提示してもらえる。そうして理解が深まり、学修効果も高まると考えています」と林氏。「教育機関が正しく学習したAIを提供する必要があることは前提として、『科目の内容を教える』という観点で優れた位置づけとしてAI先輩は存在しうると考えます」と続ける。
会話ログを基に改善を進めていく
2026年4月からの新バージョンの改善点は大きく2点で、1つはUIだ(図)。「通信教育部の学生の幅広い年齢をふまえ、より親しみやすいイラストにするとともに、文字でのやりとりではあるけれども『通信教育部の先輩と話している』という感覚を得られるUIに改善し、よりフレンドリーな印象を持てるように改良します」と林氏。将来的には、履修目的等に応じて複数の見た目や性格のAI先輩を設けることも模索していくとのことだ。

そしてもう1つが、これまで十分ではなかった会話ログの記録と分析を進め、改善に生かしていくことだという。「例えば、どのような質問をすると正しく答えられないのか等を分析し、避けた方が良い質問を学生に例示していくことができれば」と林氏。今後の結果次第では、導入科目の拡大や、通学課程への導入等も視野に入れているという。「通信制は競争が激化しているので、今後、AI先輩と同様のサービスを導入する大学は増えてくると思います。その動きに先んじて、本学はさらにバージョンアップを進めていきたい。スピード勝負かなと思っています」と先を見据えている。
(文/浅田夕香)
