外部の視点を得る機会を豊富に設け、個人探究を推進。生徒の自立の精神を育む/福井県立勝山高等学校

福井県立勝山高等学校


 2022年度、現行学習指導要領の実施とともに高等学校で始まった「総合的な探究の時間」。各校はどのようにカリキュラムを作り、生徒を伸ばしているのか。実践事例として福井県立勝山高等学校を紹介する。取り組みの詳細を青木慎恵校長と堂森峰春教諭、野坂智裕教諭に伺った。

POINT
  • 福井県勝山市にある1948年創立の県立高校。全日制普通科(定員:1学年3クラス81名)、同探究特進科(定員:1学年1クラス28名)からなる。
  • 「総合的な探究の時間」を3年間で6単位設けた探究特進科を設置する等、生徒の探究活動の充実に力を入れている。
  • 探究活動では、「自分を見つめ、社会との関係を考え、取り組むべき内容に必要な知識や経験を蓄え、自らの学びを発信して社会に還元する」というサイクルを重視。大学や企業、自治体と連携しながら生徒の個人探究を支援している。


福井県立勝山高等学校 校長 青木慎恵氏、探究特進科長 堂森峰春氏、探究企画部長 野坂智裕氏


探究活動に力を入れる「探究特進科」を設置

 福井県立勝山高等学校(福井県勝山市)は、2022年度に探究活動に力を入れる専門学科「探究特進科」を新設した。以来、普通科とともに「総合的な探究の時間」の充実を軸に学校の魅力化に取り組んでいる。

 新学科設置の背景には、現行の学習指導要領の施行に合わせて、探究を柱に教育活動を行う学科を設置し、普通科高校の魅力化を図るという福井県教育委員会の施策があったという。同校のある奥越地域には該当する学科を持つ高校がまだなかったこともあり、同校への設置が決まった。「併せて、当時の本校の課題として、2020年度からの私立高校授業料無償化の範囲拡大の影響等により、地域の中学生の福井市内高校への進学率が高まり、本校の受験者数の減少がありました。この状況を踏まえ、新学科の設置を起爆剤として、改めて学校の魅力化を図るという狙いもありました」と青木氏は振り返る。

 探究特進科のカリキュラム設計に当たっては、「せっかく専門学科を作るなら、普通科のカリキュラムからは振り切れた独自のカリキュラムを作ろうという考えで」(堂森氏)、授業内容の効率化等により普通科目をギリギリまで減らし、「総合的な探究の時間」を各学年週2時間、3年間で計6単位設定(当初は8単位)。併せて、生徒に時間を返すという考えから、それまで1日7時間×5日間の週35時間としていた授業時数を普通科・探究特進科ともに週31時間に削減。従来の7時間目を「KT(Katsuko Time)」と名づけ、「教科学習」「資格取得」「個人研究」「フィールドワーク」の4つのカテゴリーから生徒が各自で学びの計画を立てて学ぶ時間とした。

 指針としたのは、探究先進校として知られる京都市立堀川高等学校の最高目標「自立する18歳」だ。「本校の生徒も自立した学習者に育ってほしいという考えから、探究活動はグループではなく個人で行うこととし、また、KTも含めて生徒が自分で考え選択する場面を学校生活の中に多く設けることにしました」とカリキュラム設計を牽引した堂森氏は説明する。

他者の多様な考え・視点を知る機会を随所に設け、生徒の個人探究を支援

 同校が3年間の探究活動を通じて目指すのは、生徒の4つの「シンカ」だ。まず、自分は何をしたいのか、徹底的に「深化」させて考える。次に、自分がしたいことが社会にとってどのような意味を持ち、そのために何をすべきかと考えを「進化」させる。さらに、取り組むべき内容について新しい知識や経験を蓄え「新化」していく。そして、自身の学びを発信して社会に還元し、また新しい「伸化」に向かっていく。このサイクルを回すことができるよう、カリキュラムを設計した(図1)。


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図1 勝山高校の探究活動の3年間
図 図1 勝山高校の探究活動の3年間


 具体的には、まず、1年次を個人探究のテーマを決める期間とし、県内の各大学の教員による「リレー講座」や、地域の様々な企業を招いて仕事の魅力を語ってもらう「キャリアガイダンス」を「総合的な探究の時間」の中で実施。同時に、データ収集やファクトチェックの方法を学び、遠足等の行事を活用した身近な探究活動を通じて探究の方法やサイクルを身につけていく。

 そうして生徒が自身の興味・関心を深掘りしながら担任との面談を重ね、1年次の11月頃までにテーマを決定。その後は学校内外の様々な人々の助言を得ながら個人で探究活動を進め、集大成として、3年次7月に迎える成果発表の場「学びの祭典」でポスター発表を行う。

 「この間に、生徒の探究活動を促進させる機会をたびたび設けています」と話すのは、探究企画部長の野坂氏だ。具体的には、「ラウンドテーブルⅠ」(毎年10月実施)、「ラウンドテーブルⅡ」(毎年2月実施)、「学びの祭典」(毎年7月実施)、2年次秋の全教員による2年生への助言期間、各種研修旅行等である。

 「ラウンドテーブルⅠ」「ラウンドテーブルⅡ」は、いずれも1・2年生が学年をまたいで4〜5人のグループを作り、探究のテーマやゴールまでのアクションの共有と意見交換を行う機会だ。自身の探究について新たな気づきを得て生かしていくことを狙いとし、「Ⅰ」は生徒のみで行うが、「Ⅱ」には県内各大学の教員や地元企業の社員、勝山市職員等をアドバイザーとして招き、社会人の視点を得る。

 そして2年次7月の「学びの祭典」では、ポスター発表による中間報告を行い、伝え方と探究内容について外部の社会人の視点や助言を得る。さらに9〜11月には、全教員が1人につき4〜5人の2年生を担当して探究の深め方について対話を重ねる期間を設けている。また、2年次12月の研修旅行(修学旅行)や、1年次3月の希望者を対象とした東京研修等の際にも、同校OB・OG等を交えたラウンドテーブルや企業訪問、企業による研修、哲学対話等、「生徒が自分の頭で考える時間を設けている」(堂森氏)とのことだ。

 こうして多様な人々から意見や視点をもらう機会を豊富に設けていることが「探究活動への意欲の高まりや探究そのものの深まりに大きく寄与しているのではないか」と青木氏は話す。「異学年の生徒、外部の大人、担任ではない教員等、様々な人と話すことや、ほかの人が話す様子を見ることを通じて、ほかの人の視点や考えを自分に取り入れたり、刺激を得たりすることができていると感じます」(青木氏)

 併せて、堂森氏の発言にあったように、生徒が自分で考え、選択する場面を学校生活の中に多く設けている点も、自立した学習者を育てるための同校の工夫だ。「例えば国語科では、授業に使う問題集を2〜3種類例示し、その中から自分に合うものを生徒の判断で選んでもらっています。また、2年次の研修旅行では、生徒が自身の探究のテーマに沿って見学先を決め、アポイントを取って出かける日を1日設けています」(堂森氏)

育まれる自立の精神

 2025年3月には探究特進科の1期生が、26年3月には2期生が卒業を迎えた。生徒達の3年間での成長や変化について、堂森氏は「要因の検証はこれから」と前置きしつつ、「グラデュエーション・ポリシー(以下、GP)として設定している育成を目指す9つの力について、ルーブリックによる生徒の自己評価等を見ると、学年を追うごとにより高度な目標まで達成できています。とりわけ、探究特進科の生徒は『自立の精神を持って既存の枠を超えていく力』のポイントが伸びる傾向にあります」と話す(図2)。


図2 探究特進科2期生のアセスメント結果(一部)
図2 探究特進科2期生のアセスメント結果(一部)
アセスメントツール「Ai GROW」で測定した、同校のGPのうち特徴的な3項目を記載。
SN-1が1年次、SN-2が2年次、SN-3が3年次を示し、いずれも12月の測定値。
探究特進科では2年次から3年次の成長が大きく、また、全体の分布が狭い範囲に収束する傾向がある。


 この点について野坂氏は、「自立の精神を育てていくうえでは、各取り組みの目的を最初に生徒に丁寧に説明することがかなり重要だと分かったことが、教員側の学びの一つ」と話す。「総合的な探究の時間にしても、KTにしても、その目的や意義を1年次の最初にしっかりと時間をとって説明することで、生徒達は常にそれを意識しながら自ら考え、行動していくことができる。こうした仕掛けを教員側で綿密に作っていくことが重要ではないかと感じています」と続ける。

 また、教員が一丸となってより良い取り組みを追求していることも、生徒に良い影響を与えていると青木氏は話す。「各取り組みや行事に関して、『そもそもこれでいいんだろうか?』といった会話が教員間で自然と出てくる文化があります。例えば、リレー講座は大学の先生方の講義形式から本校の教員によるインタビュー形式に変更し、生徒が自分事として捉えられるよう、教員が意図的に話を引き出すようにしました。また、探究特進科では堂森先生を中心に担任間で各学年の取り組みやその意図を共有する時間を持って低学年の担任が先の学年の取り組みを見通せるようにする等、教員自身がより良い教育を実現できるよう探究している。それが良い形で生徒にも伝わっているのかなと感じています」(青木氏)

 一方で、「探究が学びの原点となって普通科目に波及していくというところにはまだ達していない」と堂森氏は話す。「例えば、『自分の探究には数学の知識が必要だから数学を頑張る』といったところには至っていません。今、教科の授業に探究的な視点や取り組みを入れていくことを試みていますが、そうしたアプローチをもう少し増やし、生徒の関心が普通教科にも広がったり、『勉強すると面白いな』と思える情報に触れたりする機会をできるだけたくさん設けていければと思っています」と続ける。

 さらに、野坂氏は別のアプローチも考えている。「本校が探究活動を通じて目指す4つのシンカ、即ち『自分を見つめ、社会との関係を考え、取り組むべき内容に必要な知識や経験を蓄え、自らの学びを発信して社会に還元する』というサイクルを回す力自体が、学力向上や部活動等にも生かせるものですから、この力をつけていくことと、探究活動を通じて生徒が感じた知識の不足を満たさせようという両面からのアプローチで生徒の学力を伸ばしていきたいと思います」(野坂氏)。

 2026年度からは「地域みらい留学」による生徒の受け入れや、地元の福井県立恐竜博物館、福井県立大学恐竜学部と連携した学校設定科目「ジオ探究」を開始、2027年度には勝山市内の3中学校の統合と併せて連携型中高一貫校への移行を予定している等、さらなる特色化と学びの深化を図っている同校。青木氏は、「恐竜等に関心を持って本校を選んでくれた県外出身の生徒と地元出身の生徒が共に学ぶことで、改めてこの地域の良さを知る等、さらに学びを深めていきたいですし、中高大の連携を通じて、本校で学んだ子ども達が将来に道筋をつけて旅立つための支援の核となる学校となり、過疎地域でのモデルとなれるよう取り組んでいきたいというのが学校としての展望です。他方で、子ども達にとって高校は人生の通過点ですから、本校で学んだことを持って堂々と自分の人生を歩んでもらうための支援をしっかりとしていければ」と意気込む。同校の今後に期待がふくらむ。


文/浅田夕香(2026/4/24)