「農」と「テクノロジー」の融合で、持続可能な地域社会をデザインする人材を育成する/酪農学園大学 農食環境学群 農環境情報学類

【DATA】酪農学園大学
農食環境学群 農環境情報学類
入学定員:80名
北海道江別市

北海道江別市、札幌駅から電車で約15分という立地にありながら、東京ドーム約28個分という広大なキャンパスを有する酪農学園大学。1933年の学園創設以来、「健土健民」の思想を核として、日本の酪農と農業を支えてきた。 2026年4月、同大は農食環境学群に新たな学類となる「農環境情報学類」を設置した(図1)。1次産業が抱える深刻な課題に対し、「農×テクノロジー」の実装によって解を導こうとする同大の挑戦について、岩野英知学長に話を聞いた。

農業人口の激減と「スマート農業」への転換
新学類設置の背景には、日本の農業、特に酪農産業が直面する危機的な状況がある。「酪農従事者の数は、2019年には約180万人でしたが、2024年には約110万人まで減少しました。60歳以上が100万人弱を占める一方、40歳未満はわずか5万人程度しかいません。あと10年もすれば多くの生産者が引退し、産業そのものが成り立たなくなる恐れがあります」と岩野学長は危機感を募らせる。
若者に農業の魅力が伝わりきらない現状を打破するためには、従来の労働集約的なイメージを払拭し、革新的な農業の姿を提示する必要があった。「重労働や長時間労働が常態化している農業を、情報科学やロボット、AIを利用した『スマート農業』へと転換させなければなりません。農業を新しい魅力的な産業へと革新し、地域を支える人材を育成することこそが、農業系大学の責任であると考えました」。
「アグリデザイン」と「地域データサイエンス」
この新学類設置の検討は、岩野氏が学長に就任した2023年から本格化した。文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業(学部再編等による特定成長分野への転換等支援)」の活用も視野に入れ、1年の全学的な議論を経て、農業と情報の融合という新たな軸を打ち出し、申請に至った。
新設される農環境情報学類は、大きく「アグリデザイン領域」と「地域データサイエンス領域」の2つの分野で構成される(図2)。 最大の特徴は、パソコン上の計算にとどまらず、徹底して「現場」にこだわる点だ。「 例えば、本学では、ドローンを活用した情報処理で農業を新しくする実践が既に行われています。上空から画像データを撮影し、そのデータを分析し雑草が生えている場所を特定・計算し、その部分にだけピンポイントで農薬を散布するといった活用です」。ただ情報を処理するのではなく、現場の課題に対して情報をどう使うか、具体的な対応策を講じていくというのが学びの特徴だ。
アグリデザイン領域では、経済学をはじめ社会科学系の科目を学び、地域の農業経営や地域産業の振興をはかる人材を育成。地域データサイエンス領域では、センシング技術やロボット技術を駆使し、農業生産の効率化や省力化を通じて社会貢献する人材を育てる。低学年次は両領域を広く学び、専門課程でいずれかを深めていくカリキュラムとなっている。

完全自動化された次世代型酪農場での学び
実践的なカリキュラムの質を高めるのが、約25年ぶりに全面刷新される学内の酪農場だ(図3)。「新酪農場は、ヨーロッパのメーカーの最新鋭設備を導入し、搾乳から給餌、清掃に至るまで、ほぼ全ての工程をロボット化・自動化します。例えば、搾乳ロボットは乳量や乳質だけでなく、牛の体重や体調、発情兆候等のデータを瞬時に収集・分析します。学生はスマートフォンやタブレットを通じて、どこにいても牛の状態を管理できるようになります。最新の設備に触れながら、新しい酪農のスタイルを肌で感じてほしいと思います」。
また、他大学との連携も新たな試みだ。環境学部を設置した立教大学とは連携協定を結んだ。「本学が持つ北海道というフィールドを生かし、異なるバックグラウンドを持つ学生同士が刺激し合うことで、地域や社会の課題解決に対する新たな視点が生まれることを期待しています」。

「農業×工業」で拓く新たな進路と未来
卒業後の進路としては、家業を継いでスマート農業を実践する農業経営者のほか、環境やICT関連のコンサルタント、農業や食品に関連する企業や団体への就職が想定される。「例えば、大手農業機械メーカーであっても、その営業所等の現場レベルでは、人材の確保がかなり難しくなっているようです」。高度化する農業機械やシステムを現場で扱える、農業の知識とテクノロジーのスキルの両方を兼ね備えた人材へのニーズは、業界全体で高まっていると言えるだろう。
学生募集においては、普通科や農業高校だけでなく、工業高校や商業高校からの志願者にも期待を寄せている。 「実際、入試の面接等では、工業高校出身の生徒が『工業の技術を農業に生かしたい』と志望してくれるケースが出てきています。農業高校との連携はこれまでも強固でしたが、今後は工業や商業といった異分野から多様な学生を受け入れていきたいと考えています」。
そして岩野学長は、求める人物像についてこう力を込める。「教科の成績だけで人生の全ての答えが出るわけではありません。本当に元気があって、現場で社会の役に立ちたいというマインドさえあれば、本学で十分に育っていきます」。実学的な農業を通じて地域を支えたいという気概こそ、同大が育てたい人材なのだ。
また、若者の農業離れを食い止めるためには、大学教育の改革だけでなく、職業としての魅力を高めることが不可欠だ。「他の農業系大学全体で『新しい農業のあり方』を社会に提示していく必要があります。スマート農業の実装によって生産性や生活環境の向上を実現し、若者が将来に希望を持てる魅力的な産業へと変革すること。それこそが、私達が果たすべき社会的責任だと考えています」。
少子化による人口減少は避けられない未来だ。しかし、岩野学長はそれを悲観するだけではない。「担い手が減るということは、裏を返せば、これから残る少数の人材で大きな産業を支えていくということ。テクノロジーによって1人当たりの生産性を高めることができれば、そこには大きなチャンスが広がっています」。北海道、そして日本が抱える課題に対し、農業を革新することで貢献する。建学の精神を守りつつ、テクノロジーで新たな価値を創造する酪農学園大学の挑戦に期待したい。
(文/金剛寺 千鶴子)
【印刷用記事】
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