【寄稿】大学間連携と国際教育──欧州とアジアから連携のあり方を考察する/関西国際大学 副学長 芦沢真五

関西国際大学 副学長 芦沢真五


 わが国の高等教育政策において大学間連携の重要性が語られて久しい。2005年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において、コンソーシアム(共同事業体)形成支援の必要性が示唆され、教育再生会議の第2次報告書(2007)でも、「国公私立大学の連携」と地域連携を目標に、政府が大学間連携のための財政支援を行うという趣旨の内容が盛り込まれた。これが、大学間連携共同教育推進事業などに展開し、文部科学省による大学等連携推進法人の認定も行われてきた。

 政府も社会も大学間連携を強化しようとする動きが加速しており、産官学連携によりインターンシップ開発や留学生就職支援を展開する地域コンソーシアムが各地で動き始めている。こうした取り組みが成果をあげている一方で、大学間連携に懐疑的あるいは消極的な風潮が存在することも否定できない。背景には、大学間の競争環境の激化、大学再編を促す動きのなかで、一部の大学が市場から退場することが避けられない状況となっていることがある。個々の大学にとっては、大学間連携によって「得をする(Gain)」か「損をする(Loss)」のか、を天秤にかけて判断しなければならない状況が存在し、結果として連携に消極的になっているケースも少なくないのではないだろうか。

 本稿では、欧州やアジア・太平洋地域を中心に国際教育における連携事例、オンライン教育の協働の取り組みを紹介しつつ、大学間連携の課題について考察してみたい。

大学連携の本来の意義はどこにあるのか?

 日本における大学間連携は、ICT(Information and Communication Technology)などの特定のテーマに特化した連携機関も存在する一方、地域コンソーシアムに比較的力点が置かれていると言えるだろう。例えば「全国大学コンソーシアム協議会」という機関があるが、加盟している44機関全てが、地域型大学コンソーシアムである(機関数は2024年5月15日現在)。また、文部科学省が認証する「大学等連携推進法人」8法人のうち7法人が地域型連携である。

 地域型連携の意義を否定するものではないが、課題は学生募集の面で競合相手と連携することになるので、本音の部分での連携が発展しにくいという点である。「スープが冷める距離」での連携の可能性を考慮すべき(濱名2023)という指摘があるのはこのためである。大学連携の本来の意義は、①リソースシェア、②経験知の共有、③スタッフや学生の交流、など多面的に考慮されるべきで、多様な連携モデルを模索していくべきではないか。

 ちなみに、筆者の所属する関西国際大学は、地域連携、地域間連携、国際連携の3分野で主体的に大学間連携に取り組んでいる。国際連携では、東南アジアの有力大学とのコンソーシアムとしてAsian Cooperative Program(ACP)を推進するほか、「大学の世界展開力強化事業」による海外連携を進めている。また、大学間連携共同教育推進事業の助成を経て、他の4大学と「一般社団法人学修評価・教育開発協議会」を立ち上げ、文部科学大臣より"大学等連携推進法人"の認定を受けている。会員校が開設する科目を連携開設科目として自学の科目とみなして単位認定できる制度を活用するなど、連携大学との協働事業を進めている。また、「大学コンソーシアムひょうご神戸」に参加し、留学生の就職支援、インターンシップ開発のための地域企業との連携、高大連携などの取り組みにおいて地域の他大学と協力している。

 次節以降で、ヨーロッパ及びアジア太平洋地域における地域間連携、国際連携の事例を紹介し、考察を加える。

欧州における大学間連携
(European Universities Alliance)

 欧州における大学連合は基本的には、国家連合として機能しているEUが主導して運営されてきた。2018年5月22日に開催された欧州評議会教育委員会によって、「ヨーロッパ共通の価値観の促進」「高等教育機関の質、成果、魅力、国際競争力の飛躍的向上」などの方針が明確化された。この方向性のもとで、高等教育の国際化をさらに推進するための補助金予算が措置されてきた。「エラスムス+」(大学生の移動を促進するための欧州地域行動計画)のための予算は、2014年から2020年までの期間で147億ユーロであったが、2021年から2027年の「エラスムス+」は、予算が245.7億ユーロに増額された(European Council, March 2021)。この大幅な予算増額をみると、EUが高等教育の国際化、学生ならびに教育関係者のモビリティーをこれまで以上に重視していることが分かる。潤沢なEU予算を使った大学間連携が、欧州における高等教育のアイデンティティーを高めてきたと言える。

 2018年から始まった「エラスムス+」の公募により、欧州大学アライアンス(European Universities Alliance:以下アライアンス)という名称の大学連携プロジェクトが開始されている。申請の条件として、少なくとも3つの異なるエラスムス対象国から3大学以上で申請しなければならない(1カ国からの申請は受け付けない)。2024年にEU資金援助により新たに14のアライアンスが採択を受けているが、既存の50アライアンスと合わせると64の大学連携が存在する。「2024年半ばまでに少なくとも60の大学連合を形成する」というEUの戦略目標は計画通りに達成されたのである。これら64アライアンスには、EU加盟国全てを含む35カ国から560を超える様々なタイプの高等教育機関が参画している。また、大学以外にもボローニャ・プロセス参加国から非政府組織、企業、都市、地方自治体、その他の教育機関を含む約2200の関連パートナーを結集しており、ウクライナからも約35の高等教育機関が参加している※。


図1 欧州の大学連携(アライアンス)の採択実績(2024年7月)


 ここで、64のアライアンスのなかから特徴的と思われる連携を紹介してみよう。

1.UNA Europa

 11大学が参加し、ヨーロッパが直面する課題に焦点を当て、文化的及び学術的協力を重視し、生涯学習の推進の観点から、マイクロクレデンシャルの発行、データサイエンスの学習歴証明の発行などを行っている。特に、8大学の連携によるヨーロッパ研究の共同学士号(The Una Europa Joint Bachelor of Arts in European Studies :BAES)、6大学による学際型共同学士号(Una Europa Joint Bachelor in Sustainability (BASUS) の取り組みを推進している。

2.EU-CONEXUS

 沿岸地域と都市地域の持続可能な開発(Smart Urban Coastal Sustainability:SmUCS)に特化した共同教育のために9大学が連携し、海洋バイオテクノロジーの共同修士号を発行するほか、持続可能性を教育と研究に統合する「Think Smart, Create Green」などのプロジェクトを推進している。また、マイクロクレデンシャルを共同発行している。

3.CHARM-EU (the Challenge-driven,Accessible,Research-based, Mobile European)

 CHARM-EUは、9大学の連合により挑戦的なテーマを設定し、研究ベースのモバイル型大学連携を目指し、多様な修士課程プログラム、オンライン短期教育コース、夏期及び冬期の集中プログラムなどを運営している。水資源、食品、健康などをテーマに学際的な研究と実践的な学習を組み合わせ、新時代に適応するスキル開発を目標としている。また、持続可能性とグローバル化を課題に関する共同修士プログラムを運営している。

4.NeurotechEU – The European University of Brain and Technology

 脳神経科学とテクノロジーに重点を置いた専門的な大学間連携であり、脳研究とその応用を推進することを目的としている。EU 6カ国の8大学を中心に運営しているが、欧州域外の大学との連携も促進している。

5.UNIVERSEH(European Space University for Earth and Humanity)

 宇宙科学技術を専門とし、欧州全域で教育と研究プログラムを実施している。連携する5大学において、宇宙探査に関連する先進的な研究と教育を推進し、対面学習、遠隔学習、ブレンド型学習を実践している。参加学生は UNIVERSEH Alliance のパートナー大学のいずれかに登録する必要があるが、複数の大学のコースを組み合わせて、多言語で学ぶ環境を提供している。

ヨーロッパ共同学位(European Degree)に向けた動き

 さらに驚くべきことは、EUはアライアンスに象徴される大学連携の究極的な目標の一つとして、欧州全域での共通の学位を構想していることである。2024年3月にヨーロッパ共同学位の策定に向けた設計図(Blueprint)が公開された。次世代に求められる能力スキル(OECDによるSkill Outlookなど)を展望し、文化的知性、批判的思考、問題解決のための力を備えた人材育成を、欧州全域で目指すとしている。域内で発展してきた大学間連携を基礎に、国境を超えた共同プログラムをさらに発展させ、学生の雇用可能性・雇用適性(Employability)を高めることが狙いである。欧州で実践されてきた大学間の共同学位(Joint Degree)を発展させ、これまで以上に多様な共同学位の発行を促進していこうとするものである。

<ヨーロッパ共同学位(European Degree)のアウトライン>

  • 国境を超えた高等教育(学士、修士、博士)レベルの修了を証する新しいタイプの学位(国、地域、または機関レベルで発行)
  • EU全域において自動的に認証される
  • 欧州域内の大学連携により共同かつボランタリーに発行される(組織の自主性、学問の自由、補完性を尊重)
  • 欧州レベルで合意された共通基準に基づく


図2 ヨーロッパ共同学位の設計図(Blueprint)


 現時点ではおおまかな方針を打ち出している段階であるが、2025年に共同学位のガイドライン策定のために政策研究会を立ち上げ、同時に質保証機関をまじえた年次フォーラムを開催していくことが決定している。欧州高等教育界において融合型共同学位を発行する計画は着実に進展しており、遠い将来のものとは言えない。

アジア太平洋地域の大学連携

 欧州に比べると、アジア太平洋における大学連携はステークホルダーが多様であるため、全体像を把握することが非常に困難である。ここでは、国際教育交流に焦点を当てて、いくつかの大学連携機構を紹介したい。

1.ASEAN University Network (AUN)

 ASEAN大学ネットワーク(AUN)は1995年に設立された。30のコアメンバーから成り立っている。地域協力によって優先分野における学習、研究、教育プログラムを促進している。

2.AIMS(ASEAN International Mobility for Students Programme)

 東南アジア教育大臣機構・高等教育開発センター(SEAMEO-RIHED)によって組織されている。2010年の発足以来、10カ国87大学が参加し、6000人を超える学生が学生交流に参加している。

3.Asian Universities Alliance (AUA)

 2016年に中国の清華大学が中心となって発足した連携機構である。アジア各国の旗艦大学15校が参加し、学生交流だけでなく、研究協力、教職員交流などをテーマにしている。

4.Pacific Rim Universities (APRU)

 北米西海岸を含むアジア太平洋地域のトップ大学による連携組織で1997年に発足。現在の参加校数は61で、日本からも5大学が加入している。学長会議、教員レベルの交流、社会課題を取り上げた学生会議などを推進している。

5. University Mobility in Asia and the Pacific (UMAP)

 1991年にオーストラリア政府が提唱し、アジア版エラスムスを構想して、スタートした。22カ国及び地域から約250の大学が参加している。二大学間の協定がなくても、UMAP参加大学間で交換留学を行うことができることが特徴である。このほか多様な短期交流プログラム、奨学金の提供などを行っている。

 こうしたアジア太平洋の大学連携の特徴は、主として選ばれた大学によって構成されていることであろう。各国のトップ大学、旗艦大学を集めたネットワーク内で学生交流を推進することで、参加大学のブランド力や知名度を国際的に高めていく、という意図が背景にはあると考えられる。AIMSに関する最近の質的調査においても、「大学のプロフィールや知名度を高める効果」が大学関係者にとって重視されていることが指摘されている(Umemiya et al.2024)。

 アジアの多くのコンソーシアムが選ばれた旗艦大学を対象としているのに対し、UMAPは例外的に参加大学に要件を設けていない。大学として公式な認可を受けている機関であれば、大学の規模、歴史、学術分野に拘わらず、参加することが可能である。筆者はUMAPの国際事務局次長を5年間(2016年から2020年)にわたり担当した経験があるが、日本の大学の一部に「選抜される」エリート型コンソーシアムを極端に重視する傾向があることに驚かされた。こうした大学は、形式的にUMAPに加入していても、実際の学生交流ではUMAPを一切活用しなかったのである。東南アジアの主要大学が、エリート型コンソーシアムとUMAPのような「開かれたコンソーシアム」を上手に使い分けて、両方の良さを活用しようとする傾向がみられたことと対象的であった。大学のブランドを意識することはもちろん重要だが、多様な交流チャンネルを持つことは、学生にとってプラスにこそなれ、マイナスにはならないはずである。ブランドを極端に重視するあまり、教育交流(学生の留学先)の選択肢を狭めてしまうのは望ましくない。

 アジアの大学連携は、学生交流の面では欧州のエラスムスに匹敵するレベルの数的実績を上げてはいないが、競合と連携の相互作用で一定の成果を上げてきた。今後は参加国も増大すると思われるので、さらなる活性化を期待したい。

おわりに

 日本における大学連携は、主として地域型連携に重点が置かれていることは既にみた通りである。一方、ヨーロッパでは地域間連携、国際連携に重点が置かれており、アジア地域でも活発に国際連携が推進されている。日本の大学が直面する課題としては、今まで以上に多様な大学連携を模索する必要があり、地域連携に加えて、テーマ別コンソーシアムや地域間連携が拡大していくことが望ましい。

 また、これまで国際連携の分野では日本の大学は受動的な参加をしているケースが目立つ。日本の大学が主導権を持つような大学連携モデルが増えていくことを期待したい。

 本稿の執筆に当たり、OECD教育スキル局高等教育政策チームアナリストの加藤静香氏に助言を頂いた。ここに謝意を表したい。




※採択を受けた64アライアンスは以下のサイトから確認できる。
https://education.ec.europa.eu/education-levels/higher-education/european-universities-initiative/map#stripe_title-5996

<参考文献>
濱名 篤, 新しい時代における大学の連携・協働, 名古屋高等教育研究 23 P.43-56, 2023年
European Council, "The new Erasmus+ programme for 2021-2027 has launched!" (March 2021)
European Commision, Erasumus + Programme Guide,2024
https://erasmus-plus.ec.europa.eu/document/erasmus-programme-guide-2024-version-1
European Commision, The European Universities Alliances in action,2024
https://education.ec.europa.eu/education-levels/higher-education/europeanuniversities-initiative/about
European Commision, Blueprint for a European Degree,2024
https://education.ec.europa.eu/sites/default/files/2024-03/European_Degree_factsheet_EN_final.pdf
Umemiya, N., Sugimura, M., Kosaikanont, R., Nordin, N.M. and Ahmad, A.L.(2024),
"Impact of a consortium-based student mobility programme: The case of AIMS (Asian International Mobility for students)",
Journal of International Cooperation in Education, Vol.26 No.1, pp.49-66.
https://doi.org/10.1108/JICE-08-2023-0020

【印刷用記事】
【寄稿】大学間連携と国際教育──欧州とアジアから連携のあり方を考察する/関西国際大学 副学長 芦沢真五