課題研究を中心とした探究的な学びにより、主体的に学び続けられる生徒を育てる/芝浦工業大学柏中学高等学校
- 千葉県柏市にある中高一貫校。生徒数は、中学校が1学年約200名、高等学校(普通科)が1学年約300名。芝浦工業大学の併設校として、毎年10%程度が内部推薦で同大学に進学している。
- 2004年度〜2008年度(第Ⅰ期)、2018年度〜2023年度(第Ⅱ期、1年間の経過措置)、2024年度〜2028年度(第Ⅲ期)の3期にわたりSSHの指定を受け、科学的な課題研究に取り組む科目を中心に生徒の問題発見力や問題解決力等を育む教育プログラムを開発してきた。
- SSH第Ⅲ期となる2024年度からは、課題研究の対象を一部の生徒から対象学年の全生徒に広げ、課題研究と通常教科を有機的に接続させたカリキュラムづくりに取り組んでいる。
芝浦工業大学柏中学高等学校は、千葉県柏市にある中高一貫校だ。SSHの指定を合計15年間にわたり受け、近年は生徒の研究成果が各種コンテストにて表彰を受けている。SSH事業を通じて生徒のどのような力を育成しているのか、校長の中根正義氏、SSH統括室部長の須田博貴氏に伺った。
自身の興味・関心に基づいたテーマや問いを探究できる生徒を育てる
芝浦工業大学柏中学高等学校がSSHの指定を受けたのは、2004年度からの5年間(第Ⅰ期3年、経過措置2年)と、2018年度〜2023年度(第Ⅱ期、1年間の経過措置)、2024年度〜2028年度(第Ⅲ期)だ。まずは、これまでの取り組みを概観する。
一般入試で問われる知識・技能だけでなく、自身の興味・関心に基づいたテーマや問いを探究する力を育むべくSSHに応募した同校。第Ⅰ期では、科学的な課題研究に取り組む科目を教育課程上に設け、高校1年次に10名程度を上限に数学、高校2年次に40名程度を上限に物理または化学の課題研究を行う仕組みを構築。加えて、芝浦工業大学(以下、芝浦工大)に内部進学する高校3年生を対象に、週1回、研究室見学や学部授業の先取りを行う仕組みも構築した。
第Ⅰ期終了後は、2年の経過措置期間中に芝浦工大からの支援を得つつ自走できるプログラムに整備。以後9年間、SSHの指定を受けずに課題研究の分野を生物や人文科学にも広げる等、改善を重ねながら取り組みを継続してきた。
その後、2018年度からの第Ⅱ期の指定に至ったのは、より多くの生徒が課題研究に取り組める体制をつくるためであったという。それまで対象としていた成績上位者約40名のクラスに加え、一般クラスの希望する生徒にも指導体制を拡充。近年は毎年、学年の3〜4割に当たる100〜120名が課題研究に取り組んできた。
第Ⅲ期に入った2024年度からは、「問題発見力」「問題解決力」「自律的活動力」「研究基礎力」の4つの育成を目指す資質・能力として「芝浦サイエンス(SS)コンピテンシー」と名付け(図1)、カリキュラム改善に取り組むとともに、2024年度の高校入学者から全員が課題研究に取り組む挑戦を始めている。
図1 SSコンピテンシー
高1・高2の2年間で、テーマ決めから研究、成果発表を行う
同校の課題研究の特徴として、生徒の主体的なテーマ設定と、研究内容の質の高さがある。例えば、近年の生徒の研究テーマとして、次のものが挙げられる。
「自己共振振り子の成立条件の解明」
「エタノール水溶液蒸留中の温度変化」
「ゲル法によるアラゴナイトの生成条件についての研究」
「初夏の気温を考慮したサクラの開花時期予測に関する生物統計学的考察」
「源氏物語補作『雲隠六帖』を夢から読み解く」
いずれも、「スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会」(主催:文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構)、「日本学生科学賞」(主催:読売新聞社)、「高校生・高専生科学技術チャレンジ」(主催:朝日新聞社、テレビ朝日)、「高校生国際シンポジウム」(主催:一般社団法人Glocal Academy)等で表彰を受けた研究だ。これら以外にも、国内外のコンクールや学会で成果を発表した生徒もいるという。
生徒が課題研究に取り組むのは高1・高2の2年間で、1年次に研究テーマの検討・決定からリサーチクエスチョンとそれに対する仮説の設定、研究手法の学習、研究計画立案を中心に行い、2年次に調査や実験を進め、年度末には結果をポスター等にまとめ、発表する。
前職で長年、教育分野の記者を務め、2022年に校長に着任した中根氏は、生徒の成果発表を初めて見た際「先行研究を調べるところから一定の成果を出すところまで、大学での研究と遜色のない内容とレベルの高さに驚いた」と話す。また、ポスターを見た芝浦工大の教員から「大学院レベルの研究だ」との評価を得た研究もあるという。もちろん、実験の作法等も丁寧に指導しており、卒業生から「大学で周りの学生が実験の作法を知らなくて驚いた」という声をしばしば聞くこともあるそうだ。
課題研究を通じて醸成される進路意識に期待
課題研究に携わる教員が大事にしていることとして、須田氏は「教員からテーマを与えることはせず、できるだけ生徒からテーマが出てくるよう教材で仕掛けていくこと」と話す。「自身の興味・関心はどこにあるのか?」「研究計画はどのように立てるといいのか?」等、プロセスごとに生徒が自ら考えられるワークシートを用意して支援。「本人の現在の知識・学力でできるテーマなのか?」「すぐに終わってしまわないテーマか?」等の観点で個別に助言も行っているという。
加えて、すべての実験台に局所排気装置を設けた化学実験室や、電子顕微鏡や分光光度計等、実験機器・設備も充実させている。さらに近年は、教員採用においても「通常教科の授業で生徒を刺激できるかどうかだけでなく、課題研究を指導できるかどうかという観点でも応募者を見ている」(須田氏)とのことだ。
こうした取り組みにより、コンテスト等での受賞や、総合型選抜等で評価を受けて大学に合格する生徒が出てきているが、「個人的には、それらを目標にした指導・支援はしないようにしています」と須田氏は話す。「課題研究を通じて学びたい学部・学科や研究したい分野を考えられるようになり、そのうえで大学受験に入っていってくれればというのが私の思いです。そうなれば、偏差値基準ではない本当に行きたい大学が出てきますし、受験勉強に対するモチベーションも高まるはずです」と須田氏。進路指導においても、担任が目標とする大学を示唆するのではなく、何度も面談を重ねて興味・関心をヒアリングし、本人の意思を引き出しているそうだ。
生徒の進路となる高等教育機関に対する望みとして、中根氏は「大学と中等教育機関の双方が、これまでの固定観念をとっぱらって互いをよく知っていく必要がある」と話す。
「高大連携というと、大学は『模擬講義だけやってればいいんでしょ』、高校は『いかにして指定校推薦の枠を取るか?』と考えがちです。でも、そこはまったく本質ではありません。本校の生徒の中には学部・大学院レベルの研究を行っている者もいますし、中等教育における学びの質自体が変化してきているのですから、そこに大学の知的財産をどのように落とし込むかという観点から、大学の皆さんには高大連携を考えていただきたい。大学のカリキュラムについても、どのような生徒を中等教育から入学させ、4年ないし6年間をどのように学んでもらうのかという発想で考えてほしいと思います」(中根氏)
生徒の主体性を一層育むべく、中高の接続を強化していく
2024年度から第Ⅲ期に入った同校は、(1)課題研究(探究活動)を軸とする正課のカリキュラムの改善と実践、(2)大学や研究機関・企業との効果的な連携・接続による正課内外の教育プログラムの開発と実践、(3)生徒の資質・能力の伸長を検証する方法の開発と実践、という3つの目標を持って取り組みを進めている(図2)。
図2 SSH第Ⅲ期の概要
(1)の一環として課題研究の対象を学年全員に広げるに当たっては、指導の質がばらつかないよう、中学の総合的な学習の時間も含めた課題研究のカリキュラムをデザインする「探究科」を設置し、5教科の若手教員がカリキュラム作成に当たることで質を担保。実際の指導にも、探究科と理科、そして当該学年の教員が当たる体制を構築した。
また、(1)の具体的取り組みとして、中学の総合的な学習の時間が高校の課題研究の準備の時間になるように変えていく、中1段階からどの教科でもSSコンピテンシーの育成を意識した授業構成や生徒への働きかけをしていく等、中高の接続を意識した教育にも取り組んでいる。「通常教科のなかでも探究的に学べるよう教員が工夫し、主体的に学習に取り組む態度を生徒達が養えるようにしていきます」と須田氏は話す。
加えて、大学等との連携も一層強化していくとのことで(2)の目標を据えたという。「地元の千葉大学等はもちろん、地域の課題に取り組む等、本校の課題研究に通ずる取り組みをしている各地の公立大学等、特色ある大学と繋がることで、互いに良い影響を与え合える関係を作っていきたい」と中根氏。「子ども達の主体性を育み、生涯にわたって学び続けられる子ども達を育てていくことを主眼に、各取り組みを進めていきます」と先を見据えている。
(文/浅田夕香)
【参考記事】
DXによる新たな価値創出[10]【寄稿】スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業による 理数系人材の育成について/文部科学省 初等中等教育局教育課程課 課長補佐 山本 悟