DXによる新たな価値創出[10]【寄稿】スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業による 理数系人材の育成について/文部科学省 初等中等教育局教育課程課 課長補佐 山本 悟


文部科学省初等中等教育局教育課程課課長補佐 山本 悟


事業概観

 SSH事業は平成14年度(2002年度)から開始し、これまで数度の枠組み、支援メニューの改正を経て現在に至る。現行制度は大きく「基礎枠」及び「文理融合基礎枠」の2つの類型があり、1期当たり5年間で指定を受ける(図1)。指定校は、新規性のある教育課程等の研究開発を実施する「開発型(原則Ⅰ期)」からスタートし、各期移行時の審査を経て、「実践型(Ⅱ期~Ⅳ期)」にかけて研究開発を段階ごとに発展させながら実践していく。Ⅳ期を終了した指定校については、科学技術人材育成におけるシステム上の課題を自ら設定し、当該課題に挑戦する意欲的な研究開発を実施する「先導的改革期」へ移行する途があり、卓越した研究開発を実施することで科学技術人材育成システムを先導することが期待されている。また、Ⅲ期目を終えている指定校については、全国的なモデルとしてこれまでの実践活動を展開・普及する「認定枠」へ移行する途もある。

 SSH指定校は、大学や民間企業、研究機関等と連携した課題研究の実施、フィールドワーク、海外の高校・大学等との連携等、先進的な理数教育の研究開発に必要な費用として、年間600万円~1200万円の財政支援を受けることができる。また、基礎枠、文理融合基礎枠及び認定枠の指定校は、それぞれの取組に加え、高大接続、広域連携、海外連携、革新共創に係る取組を実施し、支援の必要性が認められた場合、「科学技術人材育成重点枠」の指定校として、年間500万~3000万円の財政支援を追加で受けることができる。


図1 SSHの類型について


取組の成果

 成果としてまず挙げられるのは、優れた科学技術人材の輩出であろう。詳しくは「SSH卒業生活躍事例集※1」をご覧頂きたいが、非常に多くのSSH指定校の卒業者が、国内外の企業、研究所、大学等において第一線の研究に従事している。また、SSH事業においては、生徒を各種科学技術・理数系コンテストやコンクールへ出場させることを奨励しているが、国際科学オリンピック国内大会参加者の約3分の1、ISEF(課題研究型国際コンテスト)に出場した日本代表生徒の約5割がSSH指定校の生徒である(令和元年度時点)。さらに、SSHの取組は生徒の進路選択にも影響を与えており、理系分野の大学進学、修士・博士課程への進学希望が通常の高等学校の生徒より高くなっている。

 SSH事業は、先進的な科学技術人材育成に資する理数系の教育課程等の改善に資する実証的資料を得るとともに、その成果を他の高等学校等における理数系教育に波及させることも目的としている。SSH指定校において取り組まれてきた教育課程を基にして、平成30年3月に告示された現行の高等学校学習指導要領において教科「理数科」とその科目「理数探究基礎」及び「理数探究」が新設された。

近年の動向

 SSH事業の近年の動向について話を移したい。SSH指定校の数は、制度開始年度である平成14年の26校から開始し、平成25年度に200校を超え、令和6年度は225校。全都道府県に1以上存在するが、特に関西方面の府県において指定校が多い(図2)。225校の内訳は、Ⅰ期が33校、Ⅱ期が35校、Ⅲ期が83校、Ⅳ期が44校、先導的改革期が15校、認定枠が15校となっている。


図2 都道府県別指定校数(令和6年度)


SSH指定校の実践事例

 具体のイメージを持っていただくために、特色あるSSH活動の事例を紹介したい。鹿児島県立国分高等学校は、鹿児島県霧島市にあるⅡ期2年目のSSH指定校である。国分高校においては、“自走する科学系イノベーター”の育成に向けて、「自己調整学習」の視点を指導や探究活動に導入している。課題に対して粘り強く自ら調整しながら活動する自律的学習者を育てるために、教員間で自己調整学習について共通認識を持ち、探究活動や授業の指導方法の研究を行いながら、「自己観察」、「自己判断」、「自己反応」の過程を意識したカリキュラム・マネジメントを推進している。普通科と理数科の3年間のカリキュラムを概ね同一にした文理混合でのSSHの全校体制をとっており、理数科の全生徒が所属する「サイエンス部」と普通科の生徒の多くが所属する「自主ゼミ」の相互作用により、科学コンテスト、オリンピック等の大会で多くの入賞者を輩出する等成果を上げている。また、霧島ジオパーク、屋久島、奄美大島といった、火山・希少生物が近くで観察できる恵まれた自然環境や、高度技術関連企業や研究所が集まる立地を生かしながら、生徒が質の高い課題研究を主体的に実践している。さらに、鹿児島大学理学部との間で単位先行取得制度を創設し、高大接続を推進するとともに、マレーシアや他県の高校生、JICA研修員との英語による課題研究の交流の実施等、国際性の涵養にも力を入れている。

日本の科学技術人材育成をめぐる状況

 SSH事業は先進的な理数系教育により創造性豊かな科学技術人材を育成するものであるが、わが国が現在抱える課題から、その必要性が一層高まりつつある。

 まず、初等中等教育段階における理数系教科の学習到達度についてであるが、わが国は諸外国の中でトップレベルの水準を維持している一方で、意欲・関心の観点では、理数系の学習が「楽しい」と感じる児童生徒の割合は、諸外国との比較では低くなっている。国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)においては、小学校は58カ国・地域中、算数は5位、理科は4位であり、中学校は39か国・地域中、数学は4位、理科は3位であった。OECD生徒の学習到達度調査(PISA2022)においては、義務教育修了段階の15歳の生徒に関して、OECD加盟国(37か国)中、科学的リテラシー及び数学的リテラシー共に1位であった。一方で、TIMSS2019において算数・数学、理科の勉強が「楽しい」と答えた小中学校児童生徒の割合は、小学校の理科を除き、国際平均を下回る。また、PISA2015の生徒の質問調査では、「科学の楽しさ」、「探究を基にした理科の授業に関する生徒の認識」に係る指標は、共にOECD平均を下回る。

 次に、科学技術人材育成をめぐる重大な課題として、理工系分野の大学入学者数が減少傾向にあることが挙げられる。2000年以降、大学の入学者数全体は横ばいで推移しているのに対し、理工系学科への入学者割合は減少傾向にある。諸外国との比較においても、大学の自然科学(理系)分野の学問を専攻する学生の割合について、米国38%、韓国42%、ドイツ42%、英国45%に対して、日本は35%に留まる。近年、多くの諸外国が大学の理工系学生数を増やす中、日本では微減している。

 最後に、自然科学(理系)分野に限定されないが、人口100万人当たりの博士号取得者数についての日本の遅れがある。米国や韓国は2000年度には日本と同程度であったが、現在では日本の倍以上の値となっている。

 即ち日本は、初等中等教育段階では国際的にもトップレベルの理数系分野のリテラシーを維持しているものの、意欲・関心等の学習面の動機付けが不十分であること等も影響し、高等教育段階の理数系人材育成につなげることができていない。こうしたことから、特に後期中等教育から高等教育段階における理数系の教育を、社会の趨勢に合わせてより発展・充実させていくことが求められている。

理系人材の育成に向けた施策

 上記の課題を踏まえ、文部科学省においては、デジタル・グリーン等の成長分野をけん引する高度専門人材の育成に向けて、意欲ある大学・高専が成長分野への学部転換等の改革を行う際の支援基金を創設し、大学の学部再編等、高度情報専門人材の確保を促進している。そして、大学教育段階で、デジタル・理数分野への学部転換が進む中、高等学校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化に向けて、令和5年度補正予算により、高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)をスタートさせる。本事業は、情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的・探究的な学びを強化する高等学校等に対して、そのために必要な環境整備の経費を、1000万円を上限に、高等学校全体の約2割に当たる1000校程度を対象に支援を行うものである。(なお、DXハイスクールとSSHは、SSH事業が将来のイノベーションの創出を担い、国際的に活躍し得るトップレベルの科学技術人材を育成することを目的とし、理数系教育に係る先行研究を高等学校全体の約5%を対象に実施するものであるため、目的と対象が異なることに留意が必要である)。

新たな枠組みの創出

 現在各方面から、SSH校と他校との交流機会、取組や成果の共有等、国や管理機関による支援の充実が求められているところであり、上記で述べた現在の科学技術人材育成をめぐる状況に対応するため、近年、以下に挙げる新たな枠組みを創設する等して改善を図ってきている。

  • 卓越した研究開発を実施することで科学技術人材育成システムを先導する「先導的改革型」を、Ⅳ期以降の枠組みとして令和2年度より創設。
  • 科学技術人材育成の全国的なモデルとしてこれまでの研究開発の成果を基にした多様な実践活動の展開・普及を図る「認定枠」を、令和4年度より創設(基礎枠としての財政支援は行われない)。
  • 社会の諸課題に対応するため、自然科学の「知」と人文・社会科学の「知」との融合による「総合知」を創出・活用した先進的な理数系教育に関する研究開発を実施し、将来のイノベーションの創出を担う科学技術人材の育成を目指す「文理融合基礎枠」を、令和6年度より創設。

課題はSSH事業の高大接続

 長年継続しているSSHの課題の一つとして、3年次の研究活動が大学受験のために縮小モードになるということがある。近年、SSH指定校における研究活動の成果や学業成績等を基にした入学者選抜を行う大学も増えてきているが、こうした特色ある入学者選抜を行う大学が増えていくことを強く期待する。そのためには、SSH校やその管理機関が積極的に高等教育機関側にアプローチを行い、人材育成の理念を説明していくこと、協力を依頼することが必要であることは言うまでもないが、高等教育機関にも、SSH指定校に入学し主体的に先端的な科学研究を経験している生徒が、円滑に大学等における教育・研究活動にシフトしていけるよう、高大接続の取組をぜひ、教育委員会や高校と手を取りながら進めて頂きたい。SSHを経験した高校生は、イノベーションによりわが国の未来を切り拓く人材となる。文部科学省としては、その人材育成をこれからも引き続き、全国の高等学校及び高等教育機関と共に推進していきたい。




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