入試は社会へのメッセージ[12]探究ゼミナール「OPEN MISSION」/東京都市大学

熊本県商工労働部産業振興局産業支援課 首席審議員兼課長 辻井翔太氏


高校生の探究マインドを喚起し 大学教育に接続する教育プログラムを展開

 東京都市大学(以下、都市大)は2022年度より探究ゼミナール「OPEN MISSION」を実施している。その趣旨等について、入試部課長補佐の村上 守氏にお話を伺った。

探究支援と優秀な学生の確保を主な目的にスタート

 「OPEN MISSION」の2024年度スケジュール概要を図1に示した。参加者である高校生が、春から夏にかけ、大学が提示したテーマに即した探究活動を行う教育プログラムである。


図1 2024年度スケジュール概要


 導入の背景にはいくつかの事象があった。まずは業界全体における年内入試増加トレンドだ。「本学は志願者の95%が一般選抜・共通テスト受験という年明け型の大学ですが、業界として年内入試シフトが進むのに対応し、様々な入試制度で優秀な学生を確保する必要があると考えました」と村上氏は当時を振り返る。

 導入した22年度は高校で新課程が始まった年でもある。「当時、高校からは『総合的な探究の時間』の指導の仕方が分からないといった声が多く聞かれました。こうした声に対して大学ができることがないかを模索する一方で、従来の出張授業に対する課題意識もありました」。労力がかかるわりに出願歩留まりが低いというのがそれだ。高大接続の見直しに合わせて、新たな探究支援、年内入試層の質向上、それに伴う大学理解を絡めて新たに構築したのが「OPEN MISSION」なのだという。

教員の負荷を減らし、既存層とは異なる新規層を呼び込む

 「OPEN MISSION」の設計者である村上氏が拘ったポイントは2つある。まず、新規層を獲得するという点。「もともと本学の年内入試受験を考えている人が、これまでのイベントに加えて参加するだけのイベントにはしたくなかった。本学としても、これだけのチャレンジをしてこれまで接点のなかった層を獲得したいと考えました」と村上氏は述べる。

 そのため、今まで都市大を知らなかった人にどのように知らせ参加してもらうかに知恵を絞ったという。例えば、取り組むテーマを参加者が学科名から探すという従来の手法ではなく、テーマ別である点もそうだ(図2)。どの学科のテーマなのかは先に進まなければ分からない作りになっている(図3)。


図2 2024年度のテーマ発表画面


図3 テーマごとの画面構成(例)


 これは、新規層にテーマの面白さから入ってきてもらいやすくするためでもあるが、従来の学科の選び方がどうしても名称ありきになりやすいためでもあるという。「実社会の課題は学科別ではありません。テーマ別にすることで、テーマ名からは予想もしなかった学科が関係していたり、多彩な学問の複合領域であったりすることが必然的に起きる。興味あるテーマが、興味がなかった学科に関連しているケースもあるかもしれない。高校の探究活動が問い起点であるのと同じで、フラットに参加者が取り組みたいテーマをど真ん中に置いて選べるようにしています」と村上氏は言う。また、取り組んでみたが自分には合わなかったといった結果でも、「入学後のミスマッチを防げた」と捉えている。いずれにせよ注目すべきは、自分の興味・関心をテーマに結びつけたり、テーマから逆算的に自分の興味・関心を整理したりできる生徒を確保することの重要性を目的に、プログラムを組んでいることだ。「年明け入試の受験生は、入試の日に初めて本学に来たという人もいます。本学が探究に注力して行動変容する生徒を増やすことは、年内入試の直接的な質の担保であると同時に、一般層に対するアプローチでもあります」と村上氏は話す。

 もう1つのポイントは、教員の負担を減らすことだ。これまで行ってきた高大接続の出張授業の代わりに行うのが「OPEN MISSION」という位置づけであり、出向く代わりに参加者に来てもらい、大学のフィールドで探究してもらうことでより高い成果を生み出そうとしているのである。

 導入2年目からは全学部・学科が参加し、「本学に入学したからこそできる研究を打ち出す」という学長の方針も出され、学科の特色が出るコアな研究テーマが並ぶようになったという。

選抜を課すことで長期プログラムの修了率が向上

 参加対象は高校1~3年生。参加希望者はHPに掲載されるミッション動画を見て(※)、参加理由や課題計画等を文書で作成して申し込む。こうしたハードルは導入2年目である去年から課しているが、これは初年度先着順にした結果、修了率に課題があったことの打ち手として考案された措置である。これにより目的意識等に応じた選抜が可能となり、参加者の修了率が向上したという。

 参加者の選抜を経て概ね5月下旬以降、個人ワークに入る。個人ワークとは、動画で示されたミッションについて、A4用紙1枚に自分なりの答えをまとめてくるというものだ。これを6月中旬に発表し、教員や先輩学生からアドバイスやレクチャーを受ける。そこからグループワーク等を経て8月の成果発表会までにブラッシュアップしていくという流れだ。修了者には終了証明書が授与され、この証明書は総合型選抜の出願書類「自己アピール申請書」としても活用できる。

 約3か月にわたる長期プログラムで離脱しないように、テーマごとにメーリングリストを運用して継続的にコミュニケーションを重ね、テーマによってはリアルに集まって実験やグループワークをする等、関係性の維持・向上に気を配る。また、参加者は大学の図書館を利用したり、教員に質問したり、学生とオンラインでMTGしてアドバイスをもらったりと、大学リソースを使い倒して自らのアウトプットを磨きこむ。こうした状況が実現している理由の1つは、やはり参加ハードルを課したことが大きいという。「高校で『とりあえず申し込んでみなさい』と言われて登録するだけでは、修了までのモチベーションは保ちにくい。やはり自分の内発的動機があるかどうかは大きいのでは」と村上氏は述べる。

 継続的な学びを支える大学側の体制として大きいのは学生スタッフの存在だ。24年度は総勢73名の学生がアルバイトで参加し、高校生の探究活動をサポートした。「OPEN MISSION」は教員の負荷を減らすこともコンセプトの1つであるため、プログラムの持続可能性を考えれば先輩学生も含めた体制になるのは必然ともいえた。教員が全てに関わるのではなく、学生も含めた体制で参加者とのコミュニケーション回数を増やすことを是としている。学生も、高校生の予想外の切り口や素朴な疑問等が研究における刺激になることも多いという。

 また、高校単位での参加もあることから、高校の探究学習を大学として支援するべく、高い質での運営を維持する必要もある。「質の高い探究支援を組織で行う大学」というブランディング広報にもなっているといえそうだ。作りこまれた動画画面からも、その本気度が窺える。

 高校生からしても、自分がやりたいテーマの視点を大学が提供してくれたうえで、そのワーク内容について大学生や教員からアドバイスやフィードバックを直接もらえる機会はそうはない。高校での探究テーマとの整合をとりながら、自らの探究力を高める格好の場であることは間違いないだろう。2年連続の参加者も出てきており、「進路選択における学問理解の役にも立っているのでは」と村上氏は述べる。

高校の探究授業との親和性からさらなる参加者獲得を狙う

 初年度申込者数は228名。2年目は参加要件を課したことで207名に減少したが、3年目は322名にまで増加した。対面参加が原則であるものの首都圏以外や海外からの参加者もおり、「探究に注力している高校、高偏差値帯の高校からの参加も多く、主体的な生徒が大半を占めることから、もっと参加者を増やしたいと考えています」と村上氏は意欲的だ。参加者アンケートを見ても「後輩にも勧めたい」という声が多く、手応えを感じているという。

 学年別に見ると、初年度は高校3年生が多かったが、徐々に1・2年生の数が増加している。新課程そのものの浸透状況と比した状況のようだ。高校入学してすぐのタイミングの1年生が参加するのはハードルも高そうだが、村上氏は「探究授業との親和性も高いので、教学方面からの浸透をさらに狙いたい。受験指導と探究を両立している高校で主体的に活動している生徒は、本学入学後の成長も大いに期待できると思います」と話す。

総合型選抜における書類提出率は現状26%

 では、プログラム参加者における実施成果をどのように測っているのか。教育プログラムであると同時に募集プログラムでもあるため、特に後者について、村上氏は以下のように話す。

 「24年度総合型選抜(2段階選抜制)で本プログラムに参加し、修了証明書を出願関連書類として提出した人は、志願者381名のうち100名、約26%でした。1つの課題に継続して取り組む積極性や知的体力が分かっている人材が志望しやすいのは、本学にとっても望ましい状況です。こうした人材は本学のPBLを中心とした学修に馴染みやすく、横断的な教育研究や3年次以降の専門領域で開花する可能性も高い。本学としては大学院進学者を増やしたいこともあり、良い流れを作ることができていると感じます」。

 主体的に探究に取り組む層を獲得することで年内・年明け問わず入試が活性化し、そうした大学教育に接続されやすい層が入学することで大学教育や研究が活性化する。この循環を今後も強化していきたいという。

 現状の課題は、引き続き高校1・2年生の参加者数を増やすことである。「高校3年生だとどうしても年内入試ありきになってしまいますが、受験までに時間的余裕がある層にアプローチをしていきたいと考えています」。そのためには、高校における認知拡大の必要があるという。「プログラム自体の広報もそうですし、成果発表会に足を運んでいただく等、本学が全学を挙げて高校教育との良い接続を図るための独自の事業を行っていることを、少しでも多くの高校の先生方に認知していただけるように、今後もしっかりと広報していきたい」と話す。

 取材を通し、探究に取り組むポテンシャルの高い高校生が大学の研究に近づくゲートを設け、継続して学べるように支援しながら募集に結びつける、非常に意欲的な試みだと感じた。また、都市大といえば大学教育再生加速プログラム(AP事業)で「卒業時の質保証(ディプロマ・サプリメント)」に採択される等、教育成果の可視化文脈でも有名な大学である。こうした高校の探究支援の傍ら、それを大学につなげて、トータルで成果を可視化するような動きも含め、今後にも注目したい。


https://www.comm.tcu.ac.jp/nyushi/openmission/


(文/鹿島 梓)



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