入試は社会へのメッセージ[11]2025年度入学者選抜改革/東洋大学

熊本県商工労働部産業振興局産業支援課 首席審議員兼課長 辻井翔太氏


首都圏の年内入試マーケットに学力評価重視と併願可能のスタイルを導入

 東洋大学は2025年度入学者選抜より、学校推薦入試基礎学力テスト型(学校推薦型選抜)・自己推薦入試学習証明型(総合型選抜)を導入する。いずれも学力を重視する方式だ。その狙い等について、理事・入試部長の加藤建二氏にお話を伺った。

大学教育につながる学力を年内入試でも重視する

 年内入試に学力重視型を導入する意図は大きく3つある。まず1点目について、加藤氏は次のように話す。「年内と年明けの各入試の追跡調査より、本学では年内入試のほうが、入学後の成長度合いにばらつきが大きいことが分かっています」。特に総合型選抜や学校推薦型選抜(指定校推薦)は、良い学生と伸びない学生の振れ幅が大きいという。「昨今指定校推薦は学力上位大学でも多く利用されており、志望度合いに拘わらず出願できてしまうケースが多発しています。どうしても本学に入りたいという受験生だけではなく、有名校ならどこでもいい、といった出願の受け皿にもなりやすいのです」。

 一方で、年明け入試入学者が伸びやすい理由は、「基礎学力である知識・技能を身につけた状態で入ってくるから」と明快だ。東洋大学の教育にフィットしやすいのはそういう層であり、だからこそ、年内でも学力措置を積極的に講じていきたい。こうした趣旨を加藤氏は「抗う」と称する。「近年年内入試の比率が向上し、多面的・総合的評価の主役として関心が集まっています。もちろん、主体性・協働性等を丁寧に評価する入試は、本学でも大事にしている方式ですし、早期化のトレンドへの対応も一定数は必要ですが、本学としては年内入試でも大学教育につながる基礎学力評価を諦めたくない。高校まできちんと勉強してきた生徒に入学してほしいというのが基本思想であり、年内入試にもその思想を入れていきたいのです」。だから世間のトレンドに「抗う」というわけだ。

 今回、全学部学科で導入する「学校推薦入試基礎学力テスト型」では、2教科2科目の試験を課す。東洋は一般選抜において、前期・中期は3~5教科、後期は主に2教科を課してきた。25年度からは中期を廃止し、前期・後期ともに3教科以上とするが、基礎学力テスト型では去年までの一般後期と同等の学力を持つ人材がスコープということになる。完全同一とするため3教科とする案も検討されたが、「現在の高校現場の状況を考えると、入試実施時期である12月に3教科を課すことは、授業進度の公平感に課題を残すと考えました」と加藤氏は述べる。そもそも大学入学共通テストが1月実施であることからしても、むやみに多科目入試をこの時期に設定し、高校の学習状況を阻害するように見えてはよろしくないというわけだ。募集人員は全体で578名と大きいが、主に年内入試の定員の組み換えで学力重視の比率を増やしているという。

 また、経済学部経済学科で総合型選抜(公募制)の出願資格に「学習証明型」を導入するのも、同様の意図である。こちらは、情報連携学部の年内入試で既に22年度から実施している「事前適性検査」を参考に開発するもので、オンラインによる事前学習プログラムを提供しつつ(受講の有無は問わない)、適性検査に合格した人だけが出願に進むことができるものだ。事前に受験生と学科の学力を含めたミスマッチを防ぐとともに、合格後は入学前学習プログラムも合わせて提供され、大学教育にスムーズに移行できる入試になっている。いずれも、大学教育へのスムーズな接続がキーワードの改革なのだ。

首都圏における年内併願マーケットの解放

 意義の2点目は、首都圏における年内併願マーケットの解放だ。「学校推薦入試基礎学力テスト型」は他大学や東洋大学の一般選抜との併願を可としている。首都圏では様々な経緯から、「学校推薦型」と聞けば「当然専願であろう」という発想があるが、関西地域では年内入試の併願は解放されている。年内でも学力を重視するのと同時に併願を解放することで、一般選抜の前哨戦としての学校推薦型という立ち位置を首都圏でも確立し、上位校志願者の併願と、東洋大学第一志望層の受験機会の拡大を合わせて図ろうとしているのだ。「そういう入試を課す大学が増えなければ当然高校側も対応には至りません。本学のポジションと規模をもって改革を行うことで、マーケットに対する影響は一定程度あるのではと考えています」と加藤氏は述べる。既に高校への説明等も積極的に行い、現在の進路指導スケジュールを見直したいといった声をもらっているそうだ。ここにないマーケットを構築するうえでの想定志願者数は、ベンチマークとの兼ね合い等を踏まえ、1~2万人程度を見込んでいるという。

 興味深いのは、こうした攻めの改革が、高校現場の様々な声に裏打ちされているという点である。高校現場は今、一般選抜向けの学力指導と、科目勉強はしないが面接の練習やプレゼン資料作成等で個別対応が必要な年内入試対応のダブルバインドとも言える状況に苦しんでいる。探究活動等で成長した生徒を評価する手法の1つとして総合型を歓迎する一方で、その比率が増えれば指導の負荷は累乗的に増していく。こうした状況に対し、年内で学力を重視し、かつ併願可能な入試を、学校長の推薦書が必要な学校推薦型の公募制で行うことは、一般選抜での合格を想定した高校現場の学力指導において極めて合理的なのである。

首都圏における年内併願マーケットの解放

 意義の3点目は、現在進行形の東洋の教育改革で伸びるであろう人材を確保する点だ。大学入試の大原則「大学教育に必要な素養を判定する」という点に当たる。高校現場の声に応えるだけでなく、「今の」東洋の教育で伸びる属性を確保するだけでもなく、「これからの」東洋の教育改革に合う人材を確保する。この3点の合わせ技とも言える改革なのだ。

 東洋の近年及び今後の教育改革を図表1にまとめたのでご参照いただきたい。ここでは特に、2037年に迎える創立150周年を見据えた取り組みとして2025年にスタートする「総合知」教育を取り上げたい(図表2)。全キャンパスの多様な学問連携・融合を図る目的で、専門科目と一般教養という区分を撤廃し、どの学部の学生でも各学部の専門科目を受講できるようにすることで、一人ひとりに最適化した学問設計を可能にするという思想の教育改革だ。「これが実現すれば、学生は自分の専門性を主体的に磨きつつ、異分野にチャレンジすることができるようになります」と加藤氏は述べる。


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図表 入試の概観


 翻ってこの教育成果を最大化するには、自ら主体的に学問・専門を選択して組み合わせていく意欲・スタンスと、その基盤となる知的体力が必要になるということでもある。

 「入学段階では『何が何でもこの勉強をしたい』という意欲が強い学生ばかりではありません。このへんかな、というのはあっても、色々やってみたいというのもあるでしょう。専門を尖らせた学科よりも、例えば経済学科のように、幅広い領域を押さえることができる学科に志願者が集まるのも道理ですし、強制的に決めた進路は途中変更の可能性も高い」と加藤氏は話す。本格的に定める前に、大いに迷ったり試したりするプロセスが必要なのかもしれない。大学は、興味を絞ってくる学生が多くはないというカスタマーの状況に合わせて、しかしレベルに合う教育という意味ではなく、社会ニーズにも対応し、きちんとディプロマ・ポリシーを実現できる教育を用意していかねばならない。

 「本学は、総合大学だからこそのアプローチで機会を提供し、『学ぼう』という意欲を掘り起こしたいのです。自分で進むレールを見定め、自ら学ぶ必要性を喚起できる人材を育てていきたい。そのためには、そういう人材たり得る資質・能力を評価できる入試でなければならないし、入試プロセス全体でその方向性へ志願者を育成していく必要もある」。だから、時代に合った高度化・横断と合わせて、学び続ける人材を育てるための教育改革と、それを見据えた入試改革を連動させるのである。入試改革の裏に教育改革がある点を見逃すと、その意義を取り違える可能性がある。

大学へのロイヤリティの高い層は理念合致の高大連携協定で確保する

 なお、年内で学力を重視すると聞くと、「では主体性評価等は蔑ろか」と誤解をする向きもあろう。しかし、東洋はそちらにも手を打っている。高大連携の動きとして強化するのは連携協定。契機になったのは2016年からの麹町学園女子中学校高等学校との連携だ。今や13学部との連携協定を締結し、生徒の大学への訪問や大学教員による出張講義のほか、高校側に「東洋大学グローバルコース」という専用コースも設置。このように、双方の教育ビジョン等の合致を背景に高大で連携して生徒を育成することを目的にした協定で、協定校の生徒は一定の基準を満たせば東洋大学への進学が可能となる仕組みだ。同校出身の入学者の追跡調査を経て、大学での成績や活動状況が非常に良い結果が検証できたため、こうした枠組みを増やしていくことにしたという。こうした協定相手を吟味しながら広げていくことで、東洋大学での教育に対する主体性が高く、ポリシーに合致する入学者を確保していく方針だ。「本学は現在、入学者の16~17%が指定校推薦です。ばらつきの大きい入試区分なので、数自体は絞り、代わりに親和性の高い高校との連携を増やしていきたい」と加藤氏は説明する。大学をよく知るロイヤリティの高い層の育成枠とも言えるだろう。「入学者に占める第一志望者の割合を50%以上へ」という高い目標を掲げ、その手法の1つとして高大連携を進めているという。

大学教育に資する入学者獲得状況の実現で次のフェーズへ

 年内入試に学力重視型を導入し入学後伸びる基礎学力を持つ学生を確保すると同時に、理念合致する高校と人材育成で連携する。こうした改革を進められるのは、15年かけて進めてきた入試改革の成果として、入学者構成が東洋にとって望ましい状態を作れている今だからこそであろう。24年度入試に関する主な事項を図表3にまとめたが、全体の数が増えている中、志願者が学力上位帯にシフトしており、大学教育に必要な教科科目が入試で機能していることが分かる。この状態変化は、もちろん狙って継続的に取り組んだことだ。「即効性がある改革も長期的に見るべき改革も、いずれも東洋の目指す教育に対して有効な手になっているか、細かく成果を検証し、学内で共通認識としてデータを下敷きに議論を重ねながらここまで来ました」と加藤氏は述べる。特に注目すべきは毎年の学生満足度アンケートの解釈だ。「学生アンケートで教育満足度が下がる時は、入学者の学力が上がった時と合致しています」。高学力帯にとって今の教育が物足りないサインだという。「学生の意欲や学力が想定より高くなれば、今の教育に満足しない層が出てきます。それを根拠にしつつ、社会や時代に応じた教育のチューニングを行っています」。その結果が、世間で認知される改革校というブランドにつながってくる。教育は社会の要請のみならず、入学者の質の変化に応じても変化させていく必要がある。その両面を見据えた動きなのだ。


図表 入試の概観


 年明け入試は募集人員と合格倍率や合格ラインのコントロールで志願者数を確保し、高大連携協定で望ましい志願者層は確保したうえで、年内入試も教育起点で確実にテコ入れしていく。東洋は、目指す教育の実現に向け、「学修意欲の高い入学者の確保」「第一志望者の割合を50%以上へ向上」「アドミッション・ポリシーに合致する入学者の確保」といった取り組みを展開・強化しているのである。



(文/鹿島 梓)




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