【寄稿】大学間連携の推進に向けて/文部科学省高等教育局企画官(併) 高等教育政策室長 髙見英樹
大学間の連携・統合への期待がある背景
2018年11月に取りまとめられた中央教育審議会のグランドデザイン答申では、多様性を受け止めるガバナンスのあり方として、各大学におけるマネジメント機能や経営力を強化する取り組みに加え、複数の大学等の人的・物的リソースを効果的に共有すると同時に教育研究機能の強化を図るため、一法人一大学となっている国立大学のあり方の見直し、私立大学における学部単位等での事業譲渡の円滑化、国公私立の枠組みを越えて大学等の連携や機能分担を促進する制度の創設等、大学等の連携・統合を円滑に進めることができる仕組みや、これらの取り組みを促進するための情報の分析・提供等の支援体制の構築等実効性を高める方策について検討することか必要であることが示された。
このなかでは、学外の教員や実務家等多様な人的資源を活用し、多様な年齢層の多様なニーズを持つ学生を受け入れていくため、高等教育機関が、他の機関や、関係する産業界、地方公共団体等と連携し、必要とされる教育研究分野、求人の状況、教員や学生の相互交流等について、恒常的に意思疎通を図るような体制として「地域連携プラットフォーム( 仮称)」の構築の必要性が述べられている。
加えて、国公私立の設置形態の枠組みを越えて、大学等の機能の分担や教育研究・事務の連携を進める等、各大学の強みを生かした連携を可能とする制度(大学等連携推進法人(仮称))を導入することも示され、その際、連携を推進する制度的な見直しを、質の保証にも留意しつつ、併せて検討することが示された。
大学間の連携・統合を支援する政策・枠組み
(1)地域連携プラットフォーム
上記のグランドデザイン答申を踏まえ、2020年10月には「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン」が取りまとめられた。
このなかでは、地域連携プラットフォームの必要性として、①各地域においては、人口減少、産業構造の変化、グローバル化、一極集中型から遠隔分散型への転換といった動きのなかで、地域ニーズを踏まえた質の高い高等教育機会の確保と人材の育成がこれまで以上に重要となっていること、②地域の大学等、地方公共団体、産業界等がそれぞれの立場から単独で複雑化する地域課題の解決やイノベーションの創出に取り組むことは限界であることを掲げている。
そのうえで、IT技術等の進化により、地域においてもデジタル革命等新しい産業創出やイノベーションを生み出し、地域経済・社会を革新的に変えるチャンスであり、大学等、地方公共団体、産業界等様々な関係機関が一体となった恒常的な議論の場を構築し、エビデンスに基づき、現状・課題を把握したうえで、地域の将来ビジョンを共有し、地域の課題解決に向けた連携協力の抜本的強化を図っていくことが不可欠であるとしている。
この取り組みは、大学・地方公共団体・産業界のいずれにおいてもメリットがある。即ち、①大学等にとっては、地域ニーズを取り入れた教育研究の活性化や大学間連携の推進、大学等の地域における存在価値の向上、②地方公共団体にとっては、大学等の知と人材を活用した課題解決や域内への若者の定着促進、地域の経済基盤強化と社会の維持・存続、③産業界にとっては、自らのニーズを反映した人材育成や共同研究による活性化、魅力的な雇用の維持・増加が見込まれる。
具体的な実施体制として、対象地域は、都道府県等の行政単位、生活・経済圏、都道府県を越えた広域ブロック等、地域によって最適な単位を検討するとともに、参画主体は、大学等、地方公共団体、産業界等の組織的関与(トップの関与とともにミドル層、キーパーソンが対話に参画)を示している。また、運営の考え方として、恒常的な運営体制の構築、既存のネットワークの活用も有効(議論の場、企画立案、実行組織等の役割分担、コーディネート・事務局機能)とするとともに、予算は参画組織からの会費徴収、国等のプロジェクト予算、企業版ふるさと納税等多様な財源を活用することとしている。
令和6年6月に行った「地方公共団体と高等教育機関の連携の状況に関するアンケート」では、地域連携プラットフォームは全国で277あり、3県を除く44都道府県で所在していることが明らかとなった。しかしながら、各取り組みについては頻度や内容において濃淡があるのも事実であり、今後、上記に示した趣旨の実現に向けて、さらなる取り組みの深化が求められる。
(2)大学等連携推進法人
2021年2月には、大学等の緊密な連携を効果的に推進するために、大学の設置者等を社員とし、連携に係る協議調整や連携事業を一元的に実施する等の業務を行う一般社団法人に対し、文部科学大臣が大学等連携推進法人として認定する制度が設けられた。
このなかでは、大学等連携推進法人の社員が設置する大学間において、大学が自ら開設することとされる授業科目について、他の大学が当該大学と緊密に連携して開設した連携開設科目を当該大学が自ら開設するものとみなすことができる等の特例措置も講じられた。
大学等連携推進法人については、山梨大学と山梨県立大学の連携による「大学アライアンスやまなし」の取組を皮切りに、2024年11月現在、8事例が認定されている。
このなかには、国公私立の枠組みを越えて連携した事例として、山口大学、山口県立大学、山口学芸大学による「やまぐち共創大学コンソーシアム」や、信州大学、長野大学、佐久大学による「信州アライアンス」、熊本大学、熊本県立大学、東海大学による「熊本地域大学ネットワーク機構」があるほか、機関の枠組みを越えて連携した事例として、岐阜大学、中部学院大学、岐阜市立女子短期大学による「高等教育ネットワーク岐阜」のような大学と短大の連携や、広島大学、広島市立大学、広島市、公益財団法人広島平和文化センターによる「ヒロシマ平和研究教育機構」のように、大学以外の機関の連携の事例も見られる。また、四国の国立大学が連携した「四国地域大学ネットワーク機構」や、地域の枠を越えた私立大学で構成される「学修評価・教育開発協議会」のように、地域の枠を越えて連携を行う事例もある。
(3)私立大学等の経営改革支援
令和6年度より、経営改革に対する継続的な財政支援を行うとともに、文部科学省と私学事業団による私学経営DXの推進を通じた「アウトリーチ型支援」等の転換支援パッケージをスタートした。
このなかでは、少子化を乗り越えるレジリエントな私学への改革を図るため、地域の未来に不可欠な専門人材の育成等を目的とした教育研究面の構造的な転換及び資源の集中等を通じた機能強化や、人的リソースや各種システムの共用化、大学等連携推進法人制度や教育課程の特例制度等の活用による複数大学の連携等による経営の効率化等の経営改革に対する支援を行うこととしている。2024年度から2028年度までの5年間を集中改革期間と定め継続的な支援を行うとともに、中間評価を実施し、その結果を支援に反映すること等を予定している。
(4)私立大学等改革総合支援事業
未来を支える人材を育む特色ある教育研究の推進や、高度研究を実現する体制・環境の構築、地域社会への貢献、社会課題を解決する研究開発・社会実装の推進等、自らの特色・強みや役割の明確化・伸長に向けた改革に全学的・組織的に取り組む大学等を重点的に支援する仕組みとして、「私立大学等改革総合支援事業」がある。このなかでは、タイプ3「地域社会の発展への貢献」として、地域と連携した教育課程の編成や社会人の受け入れ、地域の課題解決に向けた研究の推進等、地域の経済・社会、産業、文化等の発展に寄与する取組を支援するとともに、大学間、自治体・産業界等との連携を進めるためのプラットフォーム形成を通じた、地域と大学等双方の発展に向けた取り組みを支援している。
中央教育審議会における議論
令和5年9月には、盛山正仁文部科学大臣から中央教育審議会に対して、「急速な少子化が進行するなかでの将来社会を見据えた高等教育のあり方」について諮問が行われた。その後、大学分科会の下に「高等教育のあり方に関する特別部会(部会長:永田恭介/筑波大学長)」が設けられ、8回にわたって審議が重ねられ、本年8月に中間まとめとして取りまとめられた。このなかでも大学連携の促進に向けた考え方が示されている。
中間まとめにおいては、少子化が進行する一方で、今後、更なる進学率の上昇が十分には見込めないなかでは、大学をはじめとする高等教育機関は現在の規模を維持していくことが困難な状況に直面することが想定され、将来を見据えた規模の適正化は避けられない状況にあるなか、各大学が自らの強み・弱みや取り巻く外部環境等の現状を適切に認識し、自らのミッションを再確認するとともに、少子化を踏まえた適正な規模のあり方について検討したうえで、地域あるいは地域外の高等教育機関との連携強化等を進めることが必要であることを掲げている。そのうえで、具体的方策として、地域連携プラットフォームや大学等連携推進法人制度のさらなる活用促進、複数大学等の連携による機能の共同化・高度化への支援、各法人・大学が共同利用できる共通的なプラットフォームの構築、DX等の活用を通じた、連携・統合等を希望する学校法人への経営相談や、客観的な経営診断を踏まえた「アウトリーチ型支援」の充実を図ることとしている。
また、地理的観点からのアクセス確保として、各地域における志願動向や人材需要、他の高等教育機関が持つ特色等を踏まえ、各高等教育機関の強みを伸ばし、連携・再編等を通じて互いに機能を補完するなかで、求められる学問分野を学べる高等教育の機会を確保することが重要であることを示している。
この具体的方策として、地域の人材育成のあり方について議論を行う場を構築し、各高等教育機関における連携・再編等の計画策定支援や各計画の実行を支援するための仕組みの構築や、各高等教育機関や地域において検討を促すための仕組みの整備として、国全体や地域ごとのデータ整備、コーディネーターとなる人材の育成・配置、地方公共団体における高等教育振興に関する担当部署の整備、国における司令塔機能を果たすための組織体制の充実・強化が掲げられている。
今後の期待
上記の中央教育審議会については、2024年度中を目途に一定の結論を得る予定であり、中間まとめ以降も、関係団体ヒアリング等を含め、精力的に議論が行われているところである。今後、この議論を踏まえ、大学連携も含めて、新たな制度改正、予算措置等、具体の政策の実現に向けた取り組みが進められる予定である。各大学の関係者におかれては、これらの政策動向等も注視いただきながら、各地域や大学の実態等を踏まえた大学間連携の取り組みを進めていただきたい。