【寄稿】大学間連携の意義と可能性/日本私立大学協会附置 私学高等教育研究所 主幹・ 就実学園理事長 西井泰彦

日本私立大学協会附置 私学高等教育研究所 主幹・ 就実学園理事長 西井泰彦


大学間連携への期待と背景

 18歳人口の減少が続くなかで大学数と入学定員の総数が増大し、学生の確保が困難となり定員割れが拡大、自立的な運営が困難となっている大学や短期大学が少なくない。少子化は今後もさらに進行することが予測され、大学全体の規模の縮小や個々の大学の連携と再編等が今日的なテーマとなっている。

 日本の私立大学は学生数の少ない中小規模校が非常に多い。私学事業団の「今日の私学財政」によると、大学部門の在籍学生数が3000人未満の大学は612校中420校で3分の2以上の割合を占めている。規模のメリットを発揮できず、財政基盤が脆弱のところが多い。学生数等の減少が財政悪化に直結する大学や法人が増加している。その際に、中小規模校の存続を確保する重要な方策の一つが連携であり、これによって存続できる可能性もある。自校の弱みを補って強みを伸ばすとともに、連携校の人的・物的資源を活用できることが好ましい。単位互換により他大学で取得できる単位数は124単位中で60単位までとなっており、単位互換を拡大すれば自大学の負担は軽減される。2022年の大学設置基準の改正による基幹教員制度では大学の必要最低教員数の4分の1までは他の大学や学部の教員を算入でき、活用すれば大きなメリットとなる。

 しかしながら、現在の学校教育法では学校の管理・経費は学校の設置者が負担すべきとされている。大学設置基準では必要な授業科目は自ら開設するこが原則であり、授業科目を連携開設するためには特例措置として例外的に認められることが必要である。これらのいわば「自前主義」の原則により、私立大学では自力で施設設備と専任教員等を確保し、教育課程を整備することが求められている。単独ではやっていけないから直ちに大学間の開設科目の単位互換や施設、教員等の共用ができるわけではない。期待の大きい連携であるが、実行は容易ではない。

 一方で、コロナ禍を経験してDX化が進行している日本の大学においては情報ツールを使った遠隔授業や公開講座などの取り組みが容易となり、場所や時間を超越したユニバーサルな大学環境が少しずつ実現している。人的・物的な制約が多い小規模の大学においてもDX化による連携を進めることで多方面の活動を効率化させ、負担軽減が技術的には可能となる。

 高等教育を巡る環境の変化に伴って、国の高等教育政策においても連携への取り組みが重視されている。2018年の「高等教育のグランドデザイン」答申においては連携というキーワードが数十カ所以上で使用されていた。教育研究における大学間の連携と地域や産業界との連携協力が協調されるとともに、地域ごとに高等教育の将来計画を策定し、大学の連携・統合から撤退までを視野に入れた提起がなされた。2024年8月の高等教育のあり方に関する特別部会の「中間まとめ」においても連携の言葉が多用されるとともに、高等教育全体の規模の適正化の観点から、「再編・統合」、「縮小・撤退」等の踏み込んだ方策が示されている。大学業界の整理・統合に向けた取り組みの第一段階としての連携を重視し、競合する大学間の利害調整と協力体制を図って大学の再編・統合、縮小・整理、撤退・廃止に向けた高等教育政策が進められようとしている。

大学の連携の形態と可能性

 大学間の連携には多様な形態がある。教育分野では他の大学との同種または異種の領域における単位互換、科目等履修、転編入学等の連携交流が実施される。研究分野においても関連する多様な領域での研究協力によって新たな成果が生み出されている。大学の第三の使命である地域貢献においても自治体や産業界等との連携・交流を通じて地域の発展に貢献している。このほか、高等学校等との連携や海外の大学等との交流等が進められており、連携の対象及び範囲が拡大している。

 近年、学生数が減少して収入が伸び悩んでいる私立大学では人件費や物件費が増大して支出削減に取り組まざるを得ない。連携可能な他大学との教員の共用化、単位互換または遠隔教育ができれば人件費負担は軽減される。専任教員を非常勤教員に代替しても人件費の抑制ができる。事務の共同化や外部委託によって事務費用を削減し、キャンパスや施設の統合や共用化によって施設設備費の抑制が可能となる。大学の学部等の存続が困難な場合には他大学との協議を踏まえて学部譲渡、学部の再編・分割・統合・整理等による住み分けが考えられる。学部だけでなく大学の存続ができなければ他法人への大学部門の設置者変更の方途がある。

今後、大学が期待される連携のあり方やその価値創出

 連携という言葉には、単独では存続できないので連携するという消極的な意味と、連携によって付加価値が生み出され新たな発展の方向が可能となるという積極的な意味がある。弱みを補い、強みを伸ばすという表現は両者の意味を含んでいる。

 ここで取り上げている大学間連携の主旨は、自力では発展充実が困難な大学を大学間の連携により存続させることも期待するものであるが、単に一方を救済するだけでは連携は成立しがたい。連携を契機に、付加価値が生み出されるような再編・統合・整理が望まれる。

 少子化の進行と18歳人口の減少によって、近い将来に私立大学は厳しい状況となることは確実である。文部科学省の特別部会で2024年11月に公表された資料によると、大学入学者は2021年度の62万7000人から2040年には45万9000人、2050年には42万7000人となり、20万人近くも減少すると予測されている。地域ごとに差異はあるが長期的には平均3割前後の減少となり、入学定員充足率は7割を下回るとされている。先の「中間まとめ」の1ページでは中間的な規模の大学や短期大学が年間90校程度も減少していくと指摘されている。

 高等教育の規模を縮小するためには、国公立私立の各大学が全て3割程度に入学者数を縮減することが単純明快な方策である。しかし、国立大学の入学者数は減少から微増し、公立大学は増加が続いており、私立大学は減少に転じている。2023年度の学校基本調査によると、私立大学の入学定員は50万3000人、入学者数は49万9000人である。国公立大学の入学者数が減少しないとすると、私立大学への入学者数は2040年の推計数の45万9000人から国公立大学の2023年度の入学者合計の12万9000人を除いた33万人程度となる。つまり、私立大学の入学者数は現在の49万9000人から16万9000人も減少して約3分の2の規模となる。入学者が減少しない私立大学もあるので、定員を充足できる大学と定員割れが厳しい大学に二極化する。大都市周辺や地方の中小規模の私立大学のなかには半分以下となることもあり、相当な人員削減をしなければ存続できない。

 このため、大学間の可能な限りの連携を進めるとともに、大学全体の連携体制が望まれる。地域の人材需要の変化に応じて高等教育の規模と内容を想定し、大学同士が競合しないように進学者数を適切に分配する必要がある。地域の大学間の連携を通じて、既存の学部学科の再編・統合と縮小・整理により、各大学は規模が縮小しても存続が可能となる。

 ちなみに、私立高校では、1989年が15歳人口のピークで在籍者数は160万人であったが、2023年には101万人となり、63%まで減少している。一方、高校総数は1311校から1321校に増加している。一校当たりの平均生徒数も63%に縮小しており、私立高校は縮小均衡する形で存続している。

連携推進の課題と解決の方向性

 2018年の高等教育のグランドデザイン答申では、都道府県別に2040年の大学への進学者数等を推計し、2040年に減少する入学者数等に基づいて、地域連携プラットフォームの構築や大学等連携推進法人の導入が提起され、当該地域の高等教育のグランドデザインの提示が期待されていた。しかし、今回の「中間まとめ」では、グランドデザインが多くの地域で実現できず、地域、産業界等との連携も深化されなかったとし、個々の高等教育機関に任せるだけでなく、国としての具体的な方策が必要であると述べている。連携が深化しなかった背景には、地域の各大学の当事者の相互連携への姿勢が熟しておらず、地方公共団体や産業界等の認識が産官学の連携に留まり、国として連携、再編・統合、縮小・整理等への支援体制も十分ではなかったこと等が考えられる。最近では公立大学の急増と地方国立大学の定員増があり、大学入学者数を地域ごとに抑制する方向が後退している。この状態では大学間連携を期待することは難しく、逆に、自由競争による私立大学の整理淘汰が進行する恐れが大きい。

 大学コンソーシアムの活動においては、参加大学が提供するコマ数や担当教員に関して、教員の過重負担による非協力、人気講座の出し惜しみ、各大学の負担均等化の要求等により連携が広がらない。大学の合併においては吸収合併や設置者変更の形態があり、吸収する立場と吸収される立場が異なる。連携の場合においても必ずしも対等ではない。利益が相反することも多い。連携の中核となる大規模な大学が利己的な姿勢をとれば他の大学は参加しにくい。双方が納得できる連携の条件を追求し、受け入れざるを得ない内容と適切なタイミングでの実施が望ましい。

 建学の精神を異にして競合関係が続いた大学との連携等には抵抗も大きい。教職員は身分保障や業務負担増の観点から消極的となり、学生や同窓生等も不安が生じる。学部学科の再編や募集停止には教学側の反対が強い。教職員の異動・雇用・労働条件変更等の問題も生じる。しかし、何もしなければ大学の存続は困難となる。大学内の経営改善と大学相互の協議を踏まえて、最終的には学校法人の機関決定と所轄庁の認可で決まる。

 大学進学者数は長期的に減少することは確実であり、大学間の連携等を通じて各大学の人的・物的な資源を相互に活用することは教育上かつ経営上も有効であり、連携により新たな展開が生まれる可能性もある。高等教育のグランドデザイン答申には「定員割れや赤字経営の大学の安易な救済とならないよう配意する」との記述があるが、地域の高等教育体制を安定的に存続発展させるためには幅広い連携体制を作ることが重要である。大学設置基準や地域連携プラットフォームや大学等連携推進法人の要件を緩和して、地域の大学、特に私立大学や短期大学の参加と負担軽減が期待される。

 相互に連携することの必要性を大学関係者が認識して、他の大学との連携を前向きに進める姿勢を保ち、連携等を契機に大学の一層の魅力アップを図り新たな可能性を追求することが必要となる。地域の自治体や経済団体等においても大学の諸活動への平時からの協力と高等教育機関の連携に関する支援が望まれる。連携に際しては適確で公正な情報提供や相談助言が重要であるが、私学事業団や私学団体の積極的な役割を発揮してほしい。所轄庁である国や地方公共団体においては、私立大学や短期大学を整理・廃止に追い込むのではなく、大学間の連携、再編・統合または規模の縮小等を通じて、大学教育の質を維持し、高等教育の機能を強化するとともに、システムとしての高等教育制度の安定化と充実への取り組みを期待したい。


表/外国人留学生数が現状のままであった場合

表/外国人留学生数が増加すると仮定した場合




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