学ぶと働くをつなぐ[45]多くの産学連携プロジェクトで、 長く働く女性のキャリア形成を支援/戸板女子短期大学


画像 戸板女子短期大学


画像 戸板女子短期大学 学長 白川はるひ氏、学長補佐 金井裕太氏

きっかけは広報部門職員の提案

 戸板女子短期大学は、実習や実技系の授業が多い短大でありながら、PBL等の産学連携教育を数多く実践している。白川はるひ学長は、女性が長く働くようになっていることがその背景にあると語る。「本学でも、一生働きたいという学生が年々増えています。そういった学生が、例えば卒業当初はセールス等の現場にいても、ゆくゆくは企業経営の基幹的なところで働ける力をつけていってほしい。そのために、産学連携のPBLを通じて社会人の基礎力や、ビジネス的なものの考え方を、しっかりと学生に学ばせて、社会に送り出していきたいと思っています」。

 産学連携の取り組みは10年ほど前、服飾芸術科の学生を大規模ファッションイベント「東京ガールズコレクション」にスタッフとして参加させることから始まった。当時、直接動いたのは広報部門の職員だった。金井裕太学長補佐は、「受験生を集めるためにも、魅力的な学びの機会を作ろうというのがスタートでした」と振り返る。

 授業内外を問わず産学連携を拡充していく過程でも、企業出身の職員の力が大きかったという。一方で学長を中心に教員研修を増やし、教職員同士で自分が関わるプロジェクトについて発表しあう場を設ける等、多くの教員が積極的に産学連携に関われるようにしてきた。

 現在、約400人の1年生全員が、必修の「戸板ゼミナール」で産学連携の企業コラボに関わるほか、2024年度に選択科目として単位化した10個の「TOITAプロジェクト演習」、産学連携が組み込まれた個別の授業やゼミ、さらに課外でも企業コラボが多数実施されている。「全員の必修は1つだけですが、1年に3個も4個も産学連携に取り組む学生がいて、そんな学生は1年で見違えるほど成長します」(金井学長補佐)。


2024 年TOITA プロジェクト演習


活動を通じて自信がつき、顔つきが変わる

 それほどに多くの学生が積極的に取り組むのには、学生募集時から始まる動機付けがある。「オープンキャンパスで、学生自身が生き生きとプロジェクトに取り組んだ様子を語り、高校生がそれに憧れ、半年後の自分の姿をイメージして、入学を決めるということはあります」(金井学長補佐)。入学式でも先輩が「チャレンジしないと損だよ」「自分はこんなに成長したんだよ」とプレゼンテーションして、新入生のモチベーションを高めている。「学生が合言葉のように言うのが、『2年間戸板にいたら挑戦しないともったいない』です。そういう空気感をもっともっと作れたらと思います」(白川学長)。昨今、学生募集停止を発表する短大が多くなっているが、学生募集も順調だ。

 白川学長によると、高校までとても活発で主体的に色々な活動をしてきた学生ばかりではなく、むしろとてもおとなしかったという学生が多い。そういった学生も、産学連携を通じて大きく成長していくという。「例えばある学生は、高校まではとても引っ込み思案だったけれど、今は『社長の前でプレゼンをするのが趣味です』なんて言う。企業の方と触れ合って、企業目線でアドバイスをいただいたり、温かく接していただいたり、その中で自信をつけていくことがとても大きく、学生の顔つきが変わっていく感じがあります」。

 産学連携教育の効果は、積極性と自主性、行動力の面で顕著だと金井学長補佐は言う。それを受けて、今年10個で始めた「TOITAプロジェクト演習」を来年度は20ほどに増やす予定だ。また、プロジェクト演習の質も高めるためには企業とコラボをする時間の確保が課題であるという。海外を含む長期の学外活動を推進し、多様な学生の多様な学びを可能にするためオンデマンド授業を活用した柔軟な授業運営が行える学事暦の見直しを検討中だという。

授業開始前から将来のキャリアデザインを意識

 年限が2年と短い短期大学のキャリア支援は、「授業が始まる前から就活の話が始まるような感じになります」と白川学長は言う。「例えば1年生前期のキャリアデザインという授業では、講義をしつつ『夏休みにはインターンシップですよ』といった話もして、就活に向けたプログラムに学生を乗せていきます」。この夏も、300人弱の1年生がインターンシップに行き、キャリアセンターの職員だけでなく教員も巡回して支援する形をとっている。

 金井学長補佐は「戸板のインターンシップは、基本的には『仕事を好きになる』ことを第一優先にしています」と言う。専門学校であれば、仕事を知る・慣れるといったことが主眼になるが、それとは違い、楽しく仕事をさせたいという考えだ。

 卒業後の進路は圧倒的に就職が多い。それだけに、四大卒に負けない力を持った学生を出していきたいと白川学長は言う。「実際、入社式でスピーチする新入社員代表に、四大卒ではなく戸板の卒業生を指名してくださるという例も出ています」。

 就職状況は良く、卒業生の満足度も高いようだ。「ゼミに戻ってきて『自分はこんなふうにやっている』『在学中こんなふうに学んだのが良かった』等、喜んで在学生にフィードバックしてくれる卒業生がたくさんいて、いい循環ができていると感じます」(白川学長)。

将来に向けて戦略的に活かせる2年間に

 最後に、こんな短大にしていきたいというビジョンを伺った。

 「女性がキャリアを考えるときに色々な選択肢があるべきだと思いますし、その意味で短大の2年間というのは戦略的に使えると思っています。2年間短大で学んだあと、留学しても、専門学校に行っても、就職してまた学び直ししてもいい。そういう戦略でむしろ短大を選ぶような高校生が入ってくれる、本学がそういう短大になったら面白いと私は思っています」(白川学長)。



(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)


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