進路ミスマッチ防止を目的に2年間で40を超える高校と連携協定を締結/順天堂大学
順天堂大学の高大連携の動きが活発だ。2024年10月現在、48の高校と高大連携協定を締結し、そのうち40校以上とは2022年秋以降に協定を結んでいる※。近年大幅に協定締結校を増やしている背景や狙い、高大連携に取り組む意義等について、アドミッションセンター事務室事務局長の長登 健特任教授に伺った。
大学教育とその先の職業の実像を伝える手段として
順天堂大学は、医学部をはじめ健康・医療に関わる9学部・5大学院研究科・6附属病院からなる健康総合大学・大学院大学である(図)。高大連携活動が始まったのは2015年の国際教養学部開設前後からだそうだが、特にここ2年間で多くの高校と高大連携協定を結んできた狙いを、長登特任教授は「進路や職業選択のミスマッチを防ぐため」と説明する。「医療の世界で働いていくには、4年間ないし6年間勉強を続け、国家試験に合格し、その後もハードな仕事に耐えていく覚悟や胆力が必要です。ましてや、10代で将来の職業を決めて入学してくるわけですから、進学してから『こんなはずじゃなかった』とならないよう、医療専門職としての意義や良い面だけでなく大変さや厳しさも含め、リアリティの高い情報を伝えたいという考えがベースにあります」(長登特任教授)。附属校を持たない同大学において、高大連携は学部教育や医療系の仕事の実際を伝えるための手段の一つであるという。
高大連携協定を巡っては、大学は学生募集に、高校は推薦枠の確保につながることを期待するケースが多く見られるが、長登特任教授は「『募集の青田買いのため』という発想はない」と断言する。「大学の一番の使命は、人を育てることです。その前提として、将来に向けた意思を持ち、自らを成長させようという意欲がある学生でなければ、我々もなかなか育むことができません。仕事や学びの実情を見てもらったうえで、意欲や興味を持った人に入ってきてもらいたいという考えで取り組んでいます」(長登特任教授)。
協定締結校との具体的な交流活動として、出張授業や高校生を大学に迎えての講演・講義、研究室見学、当該高校を卒業した学生との交流会等を高校からの申し出に応じて行っているが、大学から参加する教員や学生には制約を設けずに自由に話してもらっているそうだ。「特に医療職の仕事はハードですから、医療現場に立つ教員達の話や志を聞いて刺激を受け、興味を持つ生徒さんもいれば、時に生死に係る現場の気迫に触れ、『自分には無理だ』と思う生徒さんもいる。生徒さんの将来を考えれば、早い段階で自覚するのは良いことだと思っています」(長登特任教授)。臨床現場を豊富に持つ大学だからこそできるアプローチであろう。
人材育成を間に置いた信頼関係を築くことが連携のカギ
2年間で40を超える高校と連携協定を結んだことについて、「焦って進めたということではない」と長登特任教授は話す。当初は、関係者から紹介を受けた高校や、もともと教員間で関係があった高校等と締結を進め、活動内容を記録してHPで広報していったところ、「HPを見て」「近隣の高校が活動していたので」といった高校からの問い合わせが増え、「気づけば50近くになっていた」(長登特任教授)とのことだ。積極的な広報により、連携活動に積極的な大学としての評判が順調についていったということでもあるだろう。
協定を締結した48の高校は、入学難易度も男女共学・別学等のプロフィールも多様だ。連携相手としての選定基準は特に設けていないとのことだが、「将来的に信頼関係を築くことができそうかどうかは注視します」と長登特任教授は述べる。「我々と同じく人材育成を使命とする学校組織として、育てたい生徒像やそのために本学に何を求めるのかをきちんと語ってくださると安心して連携協議を進められますし、逆にそれがない学校とは話しづらい。ましてや、最初から『医学部の推薦枠をもらえますか?』と尋ねてくるような学校とはスタンスが異なると言わざるを得ません」と長登特任教授は述べる。互いの教育理念が完全一致することはなくとも、「高大連携は、附属校になるわけでもなく、お金が動くわけでもなく、相互に義務が生じるわけでもありません。だからこそ人材育成に関する目的意識の共有や、基盤となる信頼関係が大事だと思います」と続ける。
関係の深化と有効な連携づくりが課題
では、こうした連携の成果をどう捉えているのか。その問いに対しては、「具体的な成果が見えてくるのは、早くて大学のサイクルが一回りする4年後ないし6年後だと考えています」と長登特任教授。多くの高校とは取り組みを始めたばかりであり、現在は見えてきた課題に一つひとつ対応している段階だという。とりわけ、高校との関係を深化させつつ、連携を持続可能な形に整えていくことが直近の課題である。「現状、各高校とは定期的な取り組みや意見交換を行うというより、高校から申し出があった際に本学でできることを検討して実施するといった繰り返しです。ここからどのように関係や体制を持続可能な形に構築・深化させていくかが、これから考えていかなければならないところです」と話す。そのために、学部ごとの個性の出し方の吟味や、その個性を生かすあり方のバリエーションを模索する必要もあるとの認識だ。「現状、学部によって連携に対する力の入れ具合は異なりますし、高校によっては『特定の学部の話を聞きたい』という意向を持っているところもあります。双方の多様な意向を踏まえ、試行錯誤しながら、一歩一歩連携を進化させていければと考えています」(長登特任教授)。
ここまでの歩みを「高大連携は正解がなく、何をもって成果とするのかも難しい取り組みだと感じています」と振り返りつつ、将来的な姿として「連携による社会や地域への貢献が広く認識され、本学の社会的な評価が高まると嬉しい」と長登特任教授は話す。「そうなれば、結果として本学で学ぼうとする受験者が増え、医療・健康分野の多様な職種において、社会に貢献しようとする有為かつ多様な人材を育成・輩出することにもつながっていくのではないかと思います」。中長期的な視座の取り組みに今後も注目したい。
(文/浅田夕香)