国際科学フェア、国際共同研究等を通じて科学者・技術者に必要な非認知能力を育成/立命館中学校・高等学校

立命館中学校・高等学校

POINT
  • 京都府長岡京市にある中高一貫校。生徒数は、中学校が1学年約250名、高等学校(普通科)が1学年約350名。立命館大学の附属校として、毎年約75%が内部推薦で同大学や立命館アジア太平洋大学(APU)に、約25%が難関国公立大学を中心とした大学に進学している。
  • SSH事業初年度である2002年度より継続してSSHの指定を受け、科学教育の国際化に注力してきた。
  • 2023年度からは先導的改革Ⅱ期の指定を受け、国際科学教育の普及と国際舞台で活躍する科学者・技術者に必要な非認知能力の育成に取り組んでいる。

立命館中学校・高等学校(京都府長岡京市)は、文部科学省がSSH事業を開始した2002年度から現在に至るまで連続してSSHの指定を受けている数少ない学校の一つである。指定23年目を迎えた同校のこれまでの取り組みについて、校長・東谷保裕氏、副校長・久保田 一暁氏、SSH推進機構長・廣松 光一郎氏の3名に伺った。


立命館中学校・高等学校 校長
東谷保裕 氏、副校長 久保田 一暁 氏、SSH推進機構長 廣松 光一郎 氏


課題研究、海外との交流等により生徒の多様な力を伸ばす

 まずは、立命館中学校・高等学校のこれまでの取り組みを概観する。SSH事業は、自校の取り組みを開発し確立・深化させていく第Ⅰ期〜第Ⅳ期を経たのちは、卓越した研究開発を通じて科学技術人材育成システム改革を先導する先導的改革期に入る。2024年度に23年目を迎えた同校のこれまでの研究開発課題は、図表のように変化してきた。


図表 第Ⅰ期から現在までの研究開発課題
図表 第Ⅰ期から現在までの研究開発課題


 2000年頃から文系・理系にかかわらず科学的なものの見方や考え方をベースにした教育の実践について議論を重ねていたところに、SSH事業が目指す方向性が同じであったことから応募に至ったという同校。第Ⅰ期は「思いつく取り組みはどんどんやっていこうという方針で」(久保田氏)、4つの研究開発課題を設定し、立命館大学びわこ・くさつキャンパス内に新築した同校専用の校舎でSSH主対象生徒が週2〜3日学ぶ形での高大連携や、科学的な探究活動科目「課題研究」の実施、海外の理数教育重点校との交流等に取り組んだ。「課題研究を通じての生徒の伸び、今でいう探究的学力の伸びを実感できたのが初期の大きな成果だったと思います」と当時からSSH事業に携わっている久保田氏は振り返る。

 同時に手応えを得たのが、海外の理数教育重点校との交流による生徒の成長であったという。「視野の広がりや科学に対するモチベーションの高まりを実感し、科学教育とグローバル教育を融合させて科学教育の国際化に取り組むことを本校のSSHの大きな軸にしていきました」(久保田氏)

 その後、2014年度に校舎を現在の所在地(長岡京キャンパス)に移転したことを契機に、課題研究をより多くの生徒に広げ、海外の高校との交流にも一層注力した。そして、2020年度に先導的改革Ⅰ期の指定を受けてからは、科学教育の国際化の成果やノウハウの他校への普及にも取り組んでいる。

コースに応じて英語ないし日本語で課題研究の成果を発表

 同校の生徒は、難関大学進学コース(MSコース)を除く全員、1学年あたりおよそ300名が課題研究に取り組むが、高校2・3年次に生徒が属するコースに応じて、その内容は少しずつ異なる。

 まず、SSH事業の主対象として指定を受けているSS(理数系)コースの中のSSG(理数系・国際)クラス(1学年40名)では、高3生は全員、課題研究の成果を英語論文にまとめるとともに、同校で毎年開催している国際科学フェア「Japan Super Science Fair (JSSF)」にて英語でポスター発表を行うことを必須としている。加えて、JSSFの企画と運営もSSGクラスの生徒達が行う。


JSSF2023の様子
JSSF2023の様子


 また、GL(文社系・国際)コースも、英語で論文とポスターにまとめ、同校が主催する国際フォーラム「Rits Super Global Forum(RSGF)」等で発表する。そして、一般のSSコース、及びCE(文社系)コースの生徒は、日本語で論文執筆やポスター作成を行い、校内の成果発表会にて発表する。


JSSF2023の様子
RSGF2023の様子


 課題研究に取り組む生徒数も、関わる教員数も非常に多いことから、同校では「課題研究科」を組織し、科の主任と各コースのチーフ教員が連携して各教員へ指導方針を浸透させている。「生徒が自分の興味・関心からテーマを見いだしていく過程で、いかにして研究できるテーマに持っていくかが教員の大きな役割。先行研究となる論文を読んでもらったり、その論文の探し方を指導したり、実験を行う際には独立変数と従属変数の両方に着目することを指導したりと、単なる興味から探究に持っていく指導を課題研究の授業の中で行っています」と廣松氏。久保田氏も「生徒と教員との対話の中で研究実現可能なテーマに押し上げていくプロセスで生徒が伸びていくことを感じます」と続ける。

 近年は、このプロセスにおいて一部の教員だけでなくより多くの教員の意見を聞く機会として、立命館大学の教員約10名と同校の教員数十名、そして高2生300名がホールに集まり、生徒が話を聞きたい教員を回って助言を受ける「大質問会」を実施しているそうだ。

海外の高校生との交流・研究が生徒の大きな成長機会に

 一方、同校のSSH事業の大きな軸である科学教育の国際化においては、毎年、約20カ国から30を超える高校を招いてのJSSFの開催や、海外の理数教育重点校への研修派遣、国際共同研究等に取り組んでいる。主にSSGクラスの生徒が参加しているが、特に、JSSFの企画・運営を通じて大きな成長が見られるという。「始めは物怖じしていた生徒が、学年が上がるにつれて積極的に関わっていくマインドが磨かれたり、海外の生徒に負けずにディスカッションをリードしたりするようになる。非常に大きな変容だと思います」と廣松氏。

 「粘り強く取り組む力や、コミュニケーション力等、非認知能力の伸びも感じている」(廣松氏)とのことで、現在、同校では、生徒の非認知能力の伸びや育成方法の検証を研究開発課題の一つとし、調査・研究を行っている。昨年度、OECDのラーニング・コンパス2030に示されたAARサイクルに基づき、SSGクラスの高2・高3生を対象にAnticipation(予測)、Action(行動)、Reflection(振り返り)の3要素を同校のSSH運営指導委員を務める大学教授の指導を受けながら調査したところ、特に、「予測」と「振り返り」の能力について高3生が高2生よりも高いスコアを獲得していることが分かったとのことだ。

 加えて、東谷氏は、海外の高校との連携・交流の意義を「生徒・教員ともに視野が広がることにある」と話す。「異文化理解も含めた視野の広がり等、人間的な成長が生徒だけでなく教員にも見られます。また、海外へ研修に行った生徒が、現地の生徒とかけがえのない友情を築いていく様子もたくさん見てきました。それは、将来、大学や職場で再び出会う可能性にもつながっていきます。そんな出会いや友情を築けるのが非常に良いことだと感じています」(東谷氏)。

国際的な科学教育のノウハウの全国普及を目指す

 「本校に限らず、中学・高校で探究的な学力を伸ばした生徒が、良い形で大学と接続して高みを目指して成長していってほしい」と久保田氏。そのための高等教育機関への希望として双方向性の高い授業の増加を挙げる。「生徒達を見ていると、少人数で双方向性のある授業の満足度が高い様子がうかがえます。大学においても、低年次からできる限り、少人数で双方向性の高い講義やゼミ等が増えていくといいなという思いがあります」(久保田氏)。

 加えて、久保田氏が提起するのが、突出した能力のある生徒を伸ばす仕組みづくりである。「日本にも、非常に特異な才能を持っている子ども達がいると思うのです。そういった子ども達の才能をより輝かせ、活かせるようなプログラムや取り組みを研究し、大学・大学院等で実践してもらえれば、より刺激的な教育環境ができるのではないかと思います」と久保田氏。

 一方、同校においては、2023年度より先導的改革Ⅱ期の指定を受け、先述した非認知能力の伸びの検証等に加え、これまで培ってきた国際科学教育の成果やノウハウを他校へ普及させるべく、国内・海外からそれぞれ20校ほどが参加する国際共同研究プロジェクトを立ち上げ、共同研究のマッチングや国内校向けの学習会、生徒の研究成果発表会等にも取り組んでいる。「これまでたくさんの支援を頂いて様々な取り組みをさせていただいてきたので、これからはお返しする番」と東谷氏は話す。

 「海外の学校に視察に行けば行くほど、STEAM教育等が盛んで、先進的なものづくり教育の環境が充実している学校の存在を目の当たりにし、日本の教育、特に科学教育に対する危機感を覚えます。ものづくりの本場である日本もなんとか盛り返したい。そのために本校がハブとなり、本校のような学校が各地にできて、それぞれの地域で科学教育がもっともっと盛り上がり、多様な生徒が輩出されるよう、できることはなんでもやらせていただきたい。本校をどんな形でも使っていただいて、日本が発展していければと心から思っています」(東谷氏)


(文/浅田夕香)



【参考記事】
DXによる新たな価値創出[10]【寄稿】スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業による 理数系人材の育成について/文部科学省 初等中等教育局教育課程課 課長補佐 山本 悟