外部資金による教育投資とコーオプ教育で実現する 学費を「上げない」学費戦略/金沢工業大学

【DATA】金沢工業大学
学生数6437名(学部5917名・大学院520名)
6学部(情報デザイン、メディア情報、情報理工、バイオ・化、工、建築)

金沢工業大学 学長
大澤 敏 氏


【戦略1】外部資金で教育投資

 2010年に国立大学並みの学費減免と専用のオナーズプログラムで育てる「特別奨学生制度(リーダーシップアワード)」が話題となった金沢工業大学(以下、KIT)。現在の学費戦略について大澤 敏学長にたずねると、「学費は上げたくない。むしろ学費を上げないための戦略を今日はお話ししたい」との答えが返ってきた。「学生に良い教育環境を作りたいが、昨今の経済状況から学費は上げたくない。だから競争的資金等の外部資金を積極的に取って新しい研究設備を作り、そこに企業を呼び込むのがまず戦略の1点目」と続ける。

 実際に2024年度「大学・高専機能強化支援事業」の採択を受け、2025年4月に大規模な学部学科改組を行った。「女性の観点や視点を取り入れなければものづくりは成り立たない。がちがちの工学技術者だけのものづくりから脱却するために、文理探究型の学部を新設し、総合大学として成長分野のDX、GX、SXを牽引する人材育成を目指そうと考えた」と狙いを語る。

 こうして「情報デザイン学部」と「メディア情報学部」の文理探究型学部を含む、新情報系3学部と基幹3学部の6学部17学科が始動。メディア情報学部は「何がバズるか、エモい等心理的要素を扱う舞台」と女子の活躍に期待する。

 目指すのは「社会実装型教育研究プロジェクトを実践する情報に強い高度専門人材の育成」である。情報を要に全学部にDXを取り入れ、あらゆる分野をプロジェクトで連携させたのが大きなポイントだ。「社会と連携する大学」を標榜するKITのプロジェクトデザイン教育の歴史は古く、全てに企業が参加するプロジェクトが約100本走る姿は圧巻だ。

 これを進める象徴的な設備として、事業予算30億円を投じた「クロスデザインラボ」が2026年に完成予定。「専門分野×情報技術」のクロスで、DX、GXの活用が社会にどんな利点をもたらすのかを身をもって体感する教育研究拠点となる。

【戦略2】コーオプ教育

 次に2つ目の戦略がコーオプ教育(Cooperative Education)である。学生が企業内で就業しながら単位と給与を得る教育法で、「アメリカでは年間30万人が取り組んでいる」(大澤学長)と、それを推進する「世界産学連携教育協会」にも加盟した。

 KITでは、社会実装教育研究のフレームワークに「KITコーオプ教育プログラム」を位置づけ(図表1)、教育改革と学生の経済的支援を同時に実現している。自分の研究を会社の実務で活かせて単位と給与まで得られるのは代えがたい経験であり、4カ月間で約60万円稼ぐ学生もいるほどだ。就職の際のミスマッチもほとんどない。内閣府「地方大学・地域産業創生交付金事業(2023年度)」の採択も受け、石川県の地元中小企業群と研究拠点を設立し、ここでもコーオプ教育を実践している。


図表1 社会実装教育研究のフレームワーク


 コーオプ教育に加え、教職員と働くことで成長する「学内インターンシップ(学生スタッフ)制度」でも学生の経済的支援を行っている。学生スタッフ、TA、SA、研究アシスタント等、6000人規模の大学で約2100人もの学生が就業中だ。

独自奨学金で集めてプログラムで育てる

 そして戦略にマッチする学生を奨学金でも支援する。2025年度入試からスタートした「女子奨学生制度」では(図表2)、ただ集めるだけでなく特別プログラムで育てる支援体制も敷く。新入生女子向け「キャンパスライフサポート」イベントや、女子学生同士の交流イベントを随時開催。「トヨタ女性技術者育成基金育成プログラム」への参加サポート等、就職・キャリア支援にも積極的だ。


図表2 金沢工業大学の独自奨学生制度


 「女子奨学生制度」の2025年度実績は定員36名が埋まり、2026年度入試は倍増の84名を予定している。KITの女子比率は現在約15%で、20%台には押し上げたい考えだ。

 15年目を迎える特別奨学生制度も進化した。2025年度実績は、スカラーシップフェローが150名、スカラーシップメンバーが530名に上った。KITオナーズプログラムへの参加を義務からポイント制に変え、2021年度からは入学後の成績とポイント実績で特別奨学生になれる「大学院等就学支援制度」がスタート。自分もチャレンジしてみようという学生が増えて全体の教育効果が上がっただけでなく、2025年3月学部卒業生のうち、特別奨学生の4割が大学院進学を決めた。理工系は大学院卒のほうが高度な職業に就けて活躍の場も広がるので増やしたい意向であり、着実に成果が表れているという。

【戦略3】Uターン型奨学生制度

 最後に3つ目の戦略として、2026年度入試からは、地元企業でコーオプ教育ができる「総合選抜(Uターン型)」にて、地方学生を支援する(図表2)

 KITの学部生は7割以上が県外出身者と驚異の数字だが、「県外から来る人は多様性があり、色んな地域の課題も知っているのでもっと増やしたい」と都道府県選抜奨学生制度をリニューアルした。保護者の中には地元に戻ってきてほしいというニーズも高く、「KITは全国の企業と繋がりがあるので、実家からコーオプ教育に通えるようにする。きちんとお育てして、地元にお返しする」と大澤学長は話す。

 さらに全国の高校との連携強化を狙い、2024年度から「DXハイスクール応援プログラム」をスタート。「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」で培ったノウハウを活かし、全国のDXハイスクール採択校を支援して連携校を増やそうとしている。

 強みを生かし、カリキュラムと奨学金で多面的に学生の経済的支援を行う、首尾一貫の戦略とはまさにこういうことを言うのであろう。


(文/能地泰代)





【印刷用記事】
外部資金による教育投資とコーオプ教育で実現する 学費を「上げない」学費戦略/金沢工業大学