専門職大学の学修成果(考察)

2019年に一期校が誕生して6年が経過した専門職大学等制度(以下、専門職大学)について、完成年度を迎えた学校の教育・就職状況からその成果を考察したい。

新たな職業教育のあり方を模索する意欲的な学校種

 まず、専門職大学がどのような制度かを振り返っておきたい。

 専門職大学は、「社会で求められている動的ニーズに日本の大学制度が必ずしも応えられていない」という課題意識から、2017年学校教育法の改正により55年ぶりに誕生した新しい学校種である。社会の動向に即応し、産業界や自治体等と密接に連携する実践的な高等教育がうたわれる一方、初年度認可申請の難易度の高さが注目された経緯がご記憶にある読者もいらっしゃることと思う。また、制度開始から6年経過した現在もなお、「専門学校との違い」「通常の四大との違い」が特に募集におけるボトルネックになりやすく、高校や高校生への認知度は継続課題であるようだ。


図表1 専門職大学制度の位置づけ


図表2 現在の分野別大学数


 その設置認可の詳細は紙幅の関係上参考リンクに譲るが(※1)、専門職大学である以前に大学であることが求められる審査は、実務家教員4割をいかに確保するか、職業教育の奥行を多用な科目設計でどう作るかといった点で困難が多く、認可率の低さ、設置校の少なさに少なからず影響していると思われる。しかし、本来の制度趣旨に立ち返れば、これまでになかった職業教育の形として、社会の期待と設置基準のクロスするポイントを探った意欲的な制度でもあるといえる。

社会ニーズに即した実践機会の多さと科目・授業設計が特徴

専門職大学の学びの特徴を文部科学省資料より以下にまとめたい。

①実習・実技の機会が充実/理論と実践をバランス良く学ぶ
 卒業に必要な単位のうち1/3以上を実技・実習で構成する必要があり、豊富な実践経験を通じて高度な実践力・実践知を身につける。あわせて、理論に精通した研究者と、各業界の現場経験豊富な実務家(概ね4割以上)の、両方の教員による授業を受けることができるのも大きな特徴だ。クラスのサイズは原則40名以下と設定されている。

②超・長期の企業内実習で現場を体験/他分野も学べ、応用力が身につく
 学外の企業等での実習は4年制の場合600時間以上あり、実際の現場で知識と技術をリアリティ含め学び、問題解決できる思考力や対応力も身につけていく(図表3)。企業側から見ても長期の人材受け入れは未来への投資でもあり、採用活動に結びつくケースも多い。
 実践を含めた専門分野での深い学びに加え、展開科目等、関連他分野への応用的な学びも合わせて設計されており、様々な分野の関連づけ・横断が可能な人材育成を目指す。

③産業界の最新のトレンドを反映した授業/多様性に配慮した入学者選抜を実施
 前述した実務家教員や企業実習等、地域や産業界との強いパイプを活かし、最新のトレンドを授業に反映することができる。教育課程連携協議会が連携推進のハブを担う。
 また、専門職大学は設置基準第3条の2で「実務の経験を有する者その他の入学者の多様性の確保に配慮した入学者選抜を行うよう努めるものとする」と定められており、産業界側の人材も含めた人材の多様性確保のため、総合型選抜を利用するケースが多い。

④第三者による評価を実施/大学卒(短大卒)の学位を取得可能
 評価は文部科学大臣の認証を受けた第三者機関が実施。通常の大学が行う大学全体の総合的な評価(機関別評価・7年以内ごと)に加え、専門分野の特性に応じた評価(分野別評価・5年以内ごと)も行われる。卒業生には「学士(専門職)」「短期大学士(専門職)」の学位が授与される。


図表3 企業内実習(臨地実務実習)について


設計段階の人材育成像の解像度と教育成果が比例関係か

 図表4に示すのは原稿執筆段階で完成年度を迎えている学校だ。一部を除き各校を取材させていただいた内容を踏まえ、就職状況に関する観点・結果の傾向・特徴等を、所感を含め以下にまとめたい。


図表4 完成年度を迎えた専門職大学・短期大学(2024年7月時点)
※クリックで画像拡大
図表4 完成年度を迎えた専門職大学・短期大学(2024年7月時点)

  • ※編集部にて作成。教育目標は学校HPより引用・一部要約
  • ※黄色網掛校は弊サイトに学修成果・就職キャリアに関する記事掲載あり

■就職状況に関する観点

□就職率
 まずは就職率である。学校の教育目標が社会における人材ニーズに合致しているかを見るうえで重要な値であり、当然100%に近いほど良い。ただし、想定される人材輩出業界が新規開拓となる場合は苦戦も想定される。また、アントレプレナーシップ教育をカリキュラム上肝と置く学校では、会社への就職を必ずしも重視しない向きもある。

□既存の学校種では実現し得ない就職キャリア状況になっているか
 特に専門学校や四年制大学をもともと展開していた法人が新たに専門職大学を設置する場合は、既存学校種で育成・輩出している人材との差異による価値の相対化が必要となる。そうでなければ、「学校種は変わったが、これまでの専門学校と同じような人材を育成している」と見做されかねないからだ。これらは「質の高い実践的な職業教育のための大学創設」という制度目的に照らし、学校設置が有効であったかを示すひとつの証左にもなる。また、前述した産業界と連携した人材育成が実現したキャリアでもあるといえるだろう。

 以下に具体的な観点を2点示す。

  • 既存業界とは異なる業界に人材輩出ができているか:業種の横方向の広がりやブリッジが実現したか
  • 既存業界の中でも従来なかったポストへの就職が決まる等、期待値の高い人材輩出ができているか:職位の縦方向、即ち現場人材からマネジメント・リーダー層へと育成人材像が変化したか

■高い成果を挙げている学校の特徴

 先述した2つの観点について、高い成果を挙げた学校の特徴は概ね以下2点である。

  • 既存の教育では設定困難な人物像を設定できており、その解像度が高い
  • 上記に対応した教育カリキュラム設計が精緻である

 取材においては、設置当初の育成人材の解像度が、就職キャリアの成果に直結している印象を受けた。どのようなシーンで活躍する、どのようなスキルセットを持つ人材を育成する目的で、その手段としての教育を設計し、その教育を享受するに値する人材を選抜できる入試になっていること。即ち、DP・CP・APの3ポリシーが1本につながっており、特にDPとCPの整合性が高い学校ほど、狙い通りの人材が育成できている。また、専門職大学という制度の認知度が低い段階で、一期生となることを選んで入ってきている入学生は非常に意欲の高いケースが多く、それが高い成果につながったとする声も多かった。

 特にカリキュラム設計においては、特に以下が明確であることが肝であるようだ。

  • 制度の特徴である「臨地実務実習」がどのような価値につながるのか
  • 育成人材像を生むためのカリキュラムの特徴は何か
  • 当該職業教育におけるDPを達成するために必要なAPを設定できており、人材育成スキームにスムーズに入れるか

求められるのは「この学校種でなければならない理由は何か」

 最後に、これまで触れていない観点での所感を2点述べてまとめとしたい。

 まず、特に専門学校運営法人における設置趣旨の難しさだ。既に産業界とのパイプも太く教育や実習を安定して展開し、現場に多くの卒業生を輩出している実績があるため、ノウハウや人脈が豊富で実践的な教育を設計しやすいのは大きなアドバンテージであろう。しかしその一方で、既存の教育とは全く別の人材育成をする教育躯体として設計していないと、外からは経営リソースが分散しただけという結果に見えやすい。その一方で、人材輩出先として想定されるのが同じ業界でも、活躍人材像やスキルセットを細やかに定義できている学校は、その解像度の高さ故に多様な人材育成・輩出が実現できており、経営の多角化に成功しているように感じた。

 また、特に医療系等、職業教育のプロセスで国家資格取得をマイルストーンに置いているカリキュラムの場合、専門職大学制度の特徴であるはずの臨地実務実習や展開科目等の負荷が純増として乗っかってくるため、国家資格取得率に影響するケースがある。あるべき人材像に照らし、展開科目等で意欲的な内容が盛り込まれているのに、それらが試験対策と両立しづらいのは悩ましい問題だ。その多くは単純に物理的な問題であるため、解消が難しいように感じる。このあたりをどう打破できるかで、評価が変わってくるようにも思われた。

 いずれにせよ、完成年度を迎えた学校はまだ少ない。今後も、その教育成果とともに一層の制度認知を進めていくこと、及び日本の職業教育を進化させていくことが期待される。






文/カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2024/09/25)