【専門職】地元・滋賀県の人材需要に寄与するリハビリテーション専門職を輩出/びわこリハビリテーション専門職大学
- 大阪府と滋賀県にて医療職を養成する大学、短大、高校を運営する学校法人藍野大学が、滋賀県下唯一の理学療法士・作業療法士の養成施設である3年制の滋賀医療技術専門学校を改組し、2020年4月に開学した専門職大学
- 2020年4月設置のリハビリテーション学部 理学療法学科(定員70名)、作業療法学科(定員30名)、2024年4月設置の言語聴覚療法学科(定員20名)で構成
- 2024年3月に卒業した1期生は、45.7%が滋賀県内に就職。教育目的の一つである、「滋賀県内のリハビリテーション専門職の充足」に貢献
「地域共生社会の実現に向けたリハビリテーション専門家の養成」を人材養成の主眼に置き、2020年4月に開学したびわこリハビリテーション専門職大学(以下、びわリハ)。2024年3月には、理学療法学科と作業療法学科の1期生が卒業を迎えた。同大学の4年間の成果と今後の課題等について、学長補佐(専門教育・学生支援担当)・理学療法学科長の山内正雄氏と事務センター学生支援グループ長の丸山泰弘氏に伺った。
67.4%が滋賀・京都に就職
びわリハは、滋賀県内唯一の理学療法士(以下、PT)・作業療法士(以下、OT)養成施設であった専門学校時代の役割はそのままに、地域包括ケアシステムを支えるリハビリテーション専門職の不足という滋賀県が抱える課題に応えるべく、地域完結型医療を牽引するPTとOTを養成することを目的の一つとしている。
1期生は、卒業生46名のうち45.7%が滋賀県内に、21.7%が隣接する京都府内に就職を決めた。
進路内定先の内訳としては、理学療法学科においては、PTとして医療機関ないし介護老人保健施設等に就職した学生89%、作業療法学科においては、OTとして医療機関ないし介護老人保健施設等に就職した学生が86%であった(図)。作業療法学科からは、将来、研究に携わることも視野に入れて近隣県の大学病院に就職した学生もいるという。
図 1期生 進路内定先(2024年3月8日時点)
この結果について山内氏は「認可時期等の都合で学生募集を開始できたのがかなり遅かったため、1期生の人数は定員の半分ほど。入試の選抜機能が働いたとは言い難く、当初は意欲ある学生ばかりとは言えない状況でした。そこから、実習科目等を通じてPT・OTの仕事を具体的に知るにつれて学びへの意欲も増し、大半の学生が大きく成長してPT・OTらしくなってくれました」と振り返る。そして「後に続く後輩の道を作るうえでも、どの学生もできるだけしっかりと就職先に根づいてほしい」と期待を寄せる。
展開科目で隣接領域や活躍可能性のある領域への関心を広げる
専門職大学は、卒業単位数の3分の1以上を実習科目とし、4年制の場合、臨地実務実習を600時間以上行うこととされている。びわリハにおいても、一般のリハビリ系大学に比べて1週間程度長い臨床実習を始め、様々な科目で学内外で実習を行う時間が設けられており、実技を伴う科目が多いのが特徴だ。なかでも、学外での見学・実習の機会が、学生の学ぶ意欲を喚起しているという。「PT・OTの仕事のイメージが具体的になるとともに、知識・技術の必要性を感じて大学に戻ると目の色が少し変わってくる」と山内氏は話す。
また、地域共生社会の担い手として今後リハビリテーション専門職に期待される活躍のフィールドを意識した展開科目を揃えているのもびわリハのもう一つの特徴である。例えば、通所リハビリテーション施設等の起業を見据えた「マーケティング論」「施設起業運営論」、地域の障害者支援の現場を知る「地域共生論」「地域共生社会論」を始め、理学療法学科では、地方自治体や健康関連企業等で住民の健康増進や生涯スポーツ支援に携わることを見据えた科目や、就労支援事業所や福祉機器メーカーで福祉ロボットの活用等に携わることを見据えた科目を、作業療法学科では、児童期、成人期、老年期というライフステージごとにまだOTが介入していない領域の現状を学び、支援の可能性を模索する科目を設けている。
1期生、特に理学療法学科においては、医療機関のPTを志望して入学し、その思いの通りに医療機関に就職した学生が多かったそうで、「展開科目の効果にまだ大きな手応えはない」と山内氏は話す。他方で、「関連領域で働く、あるいは事業を興していく人材も今後必要とされてきます。科目を提供し続けることで学生の関心を育て、人材を輩出していければ。そして、展開科目の取り組みについて認知が広がり、『PTやOTになりたいけれど、隣接する領域にも興味がある』という学生の増加やそれに伴う展開科目の授業の活発化といった循環が生まれることを期待したい」と続ける。
学修支援とキャリア支援を強化
一方、課題の一つとなっているのが、一部の入学者と学修内容とのミスマッチである。毎年、職業理解が浅いまま入学、中途退学、あるいは進路変更が一定数生じているという。「『学ぶ内容が想像と違った』『想像よりも学ぶ量が多くて大変』といったギャップが大きな要因」と丸山氏は説明する。
この状況を受け、学修支援とキャリア支援の両面から学生の支援を強化している。前者においては、まず、PT・OT両学科の1年次前期の必修科目「リハビリテーション概論」においてそれぞれの仕事内容をより具体的に見せ、「その職種に本当に興味があるかどうか確認できるようにした」(山内氏)という。加えて、理学療法学科では学年ごとに設けていた担任・チューター制を、2年次以降はより少人数となるゼミ制とし、教員1名が6~7名のゼミ生の学修や国家試験対策を支援する体制に変更したという。山内氏は「学修支援をするなかで学生の悩みや不安も確認・フォローし、中退率を下げられれば」と話す。
キャリア支援においては、2024年度から1・2年生に対するキャリア講話の開催に加え、ギャップを感じたものの修学は継続するという学生に対して一般企業への就職対策講座を開く等、支援体制を整えた。また、4年間での卒業が難しく5年目以降も在籍する学生の学費を軽減する制度も2024年度から導入し、「時間を要してでもリハビリテーション専門職を目指したい学生を支援する」(丸山氏)とのことだ。
「PT・OTになるための知識・技術を収集するのに問題のない科目を揃えていますし、設備も、技術を研鑽するうえでも、研究を行ううえでも先端のものを揃えています。十分な学修環境があることに加え、展開科目で隣接領域についても学び、PT・OTの今後の可能性についても視野を広げられる。これらをより広く周知し、理解を広げていけるよう教育や広報を続けていきたい」と山内氏。「そして、地域に密着して、滋賀県の中で就職し、PT・OTとして地域を引っ張っていける人材を育成していきたい」と先を見据えている。
(文/浅田夕香)