【専門職】幅広い知識と、豊富な実習で培われた技術が即戦力として評価/高知リハビリテーション専門職大学


POINT
  • 学校法人高知学園が1968年に開学した高知リハビリテーション学院を前身とし、全国で最初に専門職大学の認可を受け、2019年4月に高知県土佐市に開学
  • リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻(定員70名)、作業療法学専攻(定員40名)、言語聴覚学専攻(定員40名)で構成
  • 2024年3月に卒業した2期生(120名)は、就職希望者の9割強が医療機関に就職。幅広い知識と豊富な実習により培われた技術が評価されている
  • 福祉施設等、医療機関以外にも活躍の場を見いだす学生が増加傾向にある

 「リハビリテーションに関する高度で専門的な知識と技能を修得した、至誠心に富み、信頼される理学療法士(以下、PT)、作業療法士(以下、OT)、言語聴覚士(以下、ST)を育成する」ことを理念とし、2019年4月に開学した高知リハビリテーション専門職大学(以下、高知リハ大)。2023年3月に1期生が、2024年3月には2期生が卒業を迎えた。同大学の5年間の成果について、宮川哲夫学長と、教務部長として開学準備時よりカリキュラム設計に携わってきた平松 真奈美教授に伺った。

学長 宮川哲夫氏、教務部長 平松真奈美氏

医療機関のほか、福祉機関、一般企業等にも就職

 高知リハ大は、理学療法学専攻、作業療法学専攻、言語聴覚学専攻の3専攻からなり、リハビリテーション専門職に必要な知識・理論、実践的なスキルに加え、隣接する他分野、特に高知リハ大だからこそ学べる他分野とクロスオーバーした「二刀流の教育」(宮川氏)を行っている。

 2023年3月に卒業した1期生90名の就職希望者における就職率は100%で、そのうち、医療機関への就職が92%を占める。ほか8%の就職先は、自治体や児童発達支援センター、放課後等デイサービス、一般企業等だ。就職先の地域は、高知県内が51%、高知県外が49%で、専攻別に県内:県外のおおよその比率を見ると、理学療法学専攻は3:7、作業療法学専攻は6.5:3.5、言語聴覚学専攻は7:3であった。

 2024年3月に卒業した2期生120名については、1期生からの変化として、県外就職、及び、福祉施設や一般企業等の医療機関以外への就職の増加が挙げられるという。また、学びを深めるため、働きながらオーストラリアへの留学準備を進める卒業生も1名いるとのことだ。


図 2期生 進路状況(2024年3月18日時点)


 県外への就職が増加した要因として、宮川氏は「県内の求人が少ないわけではない」とし、県内と県外の医療機関の採用活動時期の違いを指摘する。「県内の医療機関は最終学年の11月ごろから採用活動を始めるのに対し、県外は4月ごろからと早い。これだけ差があると、多くの学生は県内で就職活動を始める前に県外の医療機関への就職を決めてしまいます」と宮川氏。2024年度からはこの傾向を抑制するため、県内の医療機関に4月ごろから採用活動を始めてもらえるよう働きかけ、学生には3年次から就職指導を行い、4年次の4月になればすぐに活動できる体制を整えたそうだ。

幅広い知識と、技術や患者への対応力等が評価

 他方で、県外に就職した卒業生の就職先を見ると、専門学校時代に比べて大規模ないし著名な病院が増えているという。宮川氏は「ある程度経験を積んだうえで、将来、高知県に戻ってこようと考えている卒業生が多いのではないか」と分析する。また、声を聞けた就職先からは「今までの学生と違う」という評価も得ているとのことで、「一般のリハビリ系大学に比べると、卒業単位数を多く設定して幅広い知識を修得できるようにしていますし、臨床実習を始め実習の時間数も多く、患者さんに接する機会が非常に多い。知識だけでなく、技術や患者さんへの対応等もしっかりと身につけた即戦力として評価頂いているのではないか」と宮川氏は分析する。

 専門職大学では、4年制の場合、40単位以上を実習科目とし、そのうち、臨地実務実習を20単位(600時間)以上とすることとされている。別途、指定規則(※)に定められている国家試験受験資格を得るために必要な臨床実習の単位数がPTは20単位、OTは22単位、STは12単位であることと比較すると、言語聴覚学専攻は大きく上回っている。理学療法学専攻、作業療法学専攻は同等だが、高知リハ大では独自に上乗せして臨床実習を行っているという。加えて、3専攻とも、ほかの実習科目や一般の科目でも臨床現場を行き来する時間や現場とWebで繋ぐ時間を設けており、「ほかの養成校よりは確実に現場力がつく機会を作っている」(平松氏)とのことだ。
※国家試験受験資格を付与することができる、一定の水準を備えた学校及び養成所を指定する基準。

生活支援の場等、医療機関以外への就職が少しずつ増加

 専門職大学は、教養教育と専門教育に加え、関連他分野の教育も行うことが特徴の一つである。高知リハ大においても、地域社会に貢献する人材や国際的に通用する人材を育てることを主眼に、関連他分野も含めた幅広い教育として、地域の課題を知るための科目や、各展開科目、海外大学と連携した授業等を設けている。

 例えば展開科目は、将来、業界や職業の変化をリードして活躍できるよう、理学療法学専攻ではPTの予防領域での活躍・起業を視野に入れた経営・マーケティング等の科目を、作業療法学専攻では障害のある人の就労支援やロボット技術を活用した生活環境の整備等を学ぶ科目を設けている。そして、言語聴覚学専攻では、日本語を母語としない人や言語でのコミュニケーションが難しい人に対する、視覚情報を始めとした言葉によらないコミュニケーションの可能性を考える科目等を設けている。

 また、海外大学との連携については、宮川氏の担当科目を中心に、オランダ・マーストリヒト大学と繋いでのライブ講義や、ハワイ大学での研修等を行ってきた。

 こうした科目と進路との関係について、平松氏は「リハビリテーション専門職の今後の可能性の広がりを知り、関心を持った時に進んでいける土台を作るという考えで取り組んでいるので、卒業してすぐに起業するといった者は稀だと思っている」と話す。そのうえで、1期生と2期生の進路について次のように分析する。

 「PTやOT、STとしての基本的な技術をどこでどんなふうに伸ばしていくかと考えたときに、多くの学生が第一選択として医療の場を選んだということだと思います。ただ、少しずつ、放課後等デイサービスを始め、医療とは異なる生活支援の場等への就職が専門学校時代に比べると増えてきています。その点で、資格取得が第一目的となる専門学校とは異なり、本学の学生は多様な学習の機会を得たうえで、『自分はどこでなら働いてみたいか?』と考え、進路を選んでいる印象を個人的には持っています」(平松氏)。

新カリキュラムでは、学外での実習を増加

 今後は、より一層、教育内容の充実を図っていくという。2024年度から新カリキュラムを導入し、学外での実習を増やした。その意図を平松氏は「実習を学内で終わらせるのではなく、より多くの時間、学外と繋がった本来の『実習』を真っ当に行いたい。そうして臨床実習の手前の段階から現場でトレーニングを重ねていくことで、コミュニケーション能力等をより一層育てていきたい」と説明する。コミュニケーション能力は、卒業後の1期生を対象に行ったアンケート調査において、回答者の多くが「社会に出て必要な能力」として挙げた能力でもある。

 また、学生との意見交換会やアンケートで挙がった「卒業単位数が多すぎる」という意見をふまえ、知識・理論に関する科目における科目間の内容の重複等を整理し、130単位台に減らすことも行った。

 加えて、国際的な取り組みや、地域との連携も強化していくという。宮川氏は「より多くの海外大学との連携を進めて、現地の授業をライブで受けるような授業をどんどん増やしていきたい。また、専攻ごとに設けた地域連携組織を介して、教職員や学生が地域のサポートを行う機会もさらに増やしていく」と意気込む。「一般のリハビリ系大学にプラスアルファした教育内容によって幅広い知識と様々な技術を教え、世界に羽ばたいていける人材を育てていきたい」と先を見据えている。



(文/浅田夕香)