1年次から3年次まで一貫したプログラムでキャリアを支援/桜美林大学

桜美林大学キャンパス


 大学は、最終学歴となる「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取組事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、今年度(2016年度)新たに1・2・3年次を一貫するキャリア教育科目を開講した桜美林大学で、三谷高康学長、掛川真市キャリア開発センター長(ビジネスマネジメント学群教授)にお話をうかがった。

個人のキャリア観を学群の学びに反映

三谷高康 学長

 桜美林大学は、2005年度から2007年度にかけて学群制に移行した。従来の学部の壁を取り払い、リベラルアーツ学群を例にとれば、自然科学、人文科学、社会科学などの広範な科目を履修でき、第4セメスター(2年次後期)にその中から専攻を選ぶ制度だ。三谷高康学長は「自分が本当に学びたい学問を入学後に選び取ることができ、学生に非常にメリットがあると、私たちは思っていました。ところが、なかなか自分で決められない学生も実はたくさんいたのです」と言う。

 「物心付いてから偏差値で輪切りにされて振り分けられ、言われた通りに歩んできた。高校の進学指導も、君の学力だったらこの群の大学へ、という形が強く残っている。その結果、明確でなくぼんやりでも、こういう人間になりたいっていうイメージを、持っていない学生のほうが多いのではないかと私は思っています」

 また、社会の豊かさも、キャリア教育の重要性を高めていると三谷学長は言う。

 「昔の人は、とにかく食っていかなければならないから、卒業したらすぐに働けるところで働こうと、それが出発点だった。けれども高度経済成長以降、豊かになってくると、難しいチョイスになってきますよね。そういう中で、学生一人ひとりが自分の将来像を早い段階から考えていくことが、キャリア教育の一番大事なところではないか」

 そして、学生がキャリア観を持つことが学群の学びに反映されることも大きな役割のひとつと考えて、キャリアデザイン科目を作っていったという。

1~3年次一貫したプログラム

 従来、桜美林大学のキャリア科目は、1年次の「自己実現とキャリアデザイン」と、3年次春学期の「キャリアデザインI」、秋学期の「II」となっていた。2年次の1年間が全く空いていたわけだ。内容にも隔たりがあった。1年次の科目は初年次教育ともいえるものであり、3年次は具体的な就職活動のハウツーに近い。

 その間隙を埋めようということで、2016年度入学生から、1年次は「キャリアデザインA」、2年次になると「キャリアデザインB」、そして3年次で春学期に「C」、秋学期に「D」というカリキュラムになる。1年次の学びを2年次でさらに深め、自分の将来像を明確にして就職活動に臨むという流れを一貫させる意図だ。

 「もちろんそこにはアクティブラーニング、グループディスカッション等が入り、新しい教授法・授業法を駆使しながら、学生たちが少しずつ自分の将来像を固めていくプロセスが踏めるようにしました」(三谷学長)。

 掛川キャリア開発センター長は、それぞれの内容と狙いをこのように説明する。

 「1年次の『キャリアデザインA』は、大学の日々の学びが将来につながるということを意識付けるのが目的で、この点は従来の『自己実現とキャリアデザイン』と大きく変わるものではありません。もっぱら、大学での『学び』というところに立ち戻って授業が構成されます。

 2年次の『B』になると、少し『社会』を意識しながら、さらに具体的に将来像を考える。例えば、新聞を活用するなど、社会との接点を意識しながら授業を運営する。それによって3年次の『就職』に意識をつなげていきます」

 このような新カリキュラムを始めたが、体制の特別な見直しは考えていないと三谷学長は言う。

 「むしろ、われわれが見直そうとしているのは、アドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、そして職業とも関連してくるディプロマポリシー。各学群で、どういう学生を受け入れ、育て、世の中に送るかということを、きちんと考えましょうと」。明確化されたポリシーと直結する指導がされるなら、教員に『就職率を上げる指導をしろ』という類の号令をかける必要はないわけだ。

1~3年次プログラム

経験豊富なキャリアアドバイザーがサポート

 とは言え、桜美林大学の就職率は決して悪くない。これは2002 年度にスタートしたキャリア開発センター(CADAC:キャダック)の役割が大きいという。

 2006年度にキャリアアドバイザー制度を導入、2009年度には、それまで外部委託だったアドバイザーを専任職員として、現在は16人がCADACに常駐している。60歳ぐらいで企業を退職し、5年ほどの専任契約を結んでいるケースが多いという。

 特徴的なのは、3年次の秋学期から、1学生に対して必ず1名のキャリアアドバイザーがつくことだ。もともと桜美林大学では、1学生に対して1名のアカデミックアドバイザーがついている。履修計画などを指導する学群の教員で、いわば担任だ。

 「教員、すなわちアカデミックアドバイザーは、就職をするのであれば、まずキャリアアドバイザーに相談しに行けと、非常に強く推しています。

 キャリアアドバイザーは、どの業種がいいとか悪いとかではなくて、まず、社会で主体的に働くとはどういうことなのか、世の中では具体的にどんなことを求めているのか、そういうことを学生たちに伝えながら、相談を始めます。教員たちが社会はこうだよと言うより、それぞれの分野の企業で働いてきた方々から学ぶということですね」(三谷学長)

 「昨年の9月から、キャリアアドバイザーの担当制を学群別に切り替えました。学群とCADACとの結びつきは今まで、それぞれがそれぞれの領域で頑張る、ということだったのですが、これをきっかけに、アカデミックアドバイザーとキャリアアドバイザーが、コミュニケーションをもっと取っていこうという取組みを始めました。そうして協力をすれば、全学をあげたキャリア支援になるので。

 キャリアアドバイザーは企業での経験や人脈があったり、企業を訪問したりと、企業との接点での情報が蓄積されていますので、それらの情報を学群にフィードバックすることによって、カリキュラム自体で配慮すべきところが見えてくるかもしれないとも考えています」(掛川キャリア開発センター長)

人は「学風」で育つ

 今後の方向性について三谷学長に尋ねたところ、まず返ってきたのは、日本社会への憂慮だった。「この頃よく思うのですが、日本はかなり劣化してきたのではないか。企業のコンプライアンス、政治家のスキャンダル、芸能人の不祥事、非常にレベルの低い話が増えている」。また、選挙権年齢が18歳に引き下げられ、今年から新入生も含め全学生が選挙権を持つことになった。これらを考えたとき、「一人前の大人としてあるべき姿、社会人として守るべきこと等を含めた教育が、ますます大学の中に入ってくるのではないか」と三谷学長は言う。

 「もうひとつ、本来、大学などで高等教育を受けた人が社会に増えることで、世の中はより良くなっていくはずだと思うのです。しかし実際はそうはなっていない。

 ですから、今後の方向性として大きくは、例えば本学のモットーである、『学而事人(学びて人に仕える)』を本当に歩んでいく人間を、どう育てていくか。ウェル・ビーイングというのか、人が幸せに生きていける世の中を作っていける人材を生み出していくというのが、大学のひとつの大きな責任ではないかと思います」

 一般的に言えば「人間力をつくる」となるだろうか。しかし三谷学長は、それは「どこの大学でも言っている」ことであり、「人間力というのは非常に味気のない言葉」だと言う。

 「この頃あまり言われなくなってきましたが、大学生は『学風』で育つものです。それがないがしろにされ、忘れ去られているのも、高等教育の空洞化だと思います」

グローバル・コミュニケーション学群の新設

 今年度開設されたグローバル・コミュニケーション学群も、グローバル人材の育成という現代の普遍的な課題に応えるものであると同時に、桜美林ならではの学風を顕したものだ。

 「1966年に、桜美林大学は文学部のみで生まれました。大学が文学部で始まる場合、英文と国文が普通のパターンなのですが、桜美林大学は英語・英米文学科と、中国語・中国文学科の2つで始まった。創立者の清水安三は、これからの世界で活躍する人間が身につけるべきは、語学力でありコミュニケーション能力だと、それがなかったために日本はとんでもないことをやってしまったと。そういう考えを持っていました。それで、当時でいえば国際人、今の流行の言葉ではグローバル人材を、育てようとした」(三谷学長)

 それから50年を経て開設されたグローバル・コミュニケーション学群は、中国語、英語、日本語(海外からの留学生向け)の3つの言語で学び、英語だけでも学位が取れる。英語・中国語特別専修では、それぞれの語学の基礎力をつけ、留学させ、それ以降の授業は英語・中国語で行う。その授業には留学生も合流できる。日本語特別専修は、留学生が日本のことを日本語で勉強するコースだ。

 「まさに本学の創立時に、英文科と中文科として具現化したものだと思う。伝統のリバイタリゼーションが始まったということです」(三谷学長)

 新学群開設は50周年記念事業の一環でもあるが、三谷学長は、「50年って大学の歴史の中ではそんなに長くないのですよね」とも言う。世界の大学の原点といわれるボローニャ大学が1100年頃に創立、英国オックスフォード大学の歴史は700年とも800年ともいわれ、米国でもハーバード大学は400年近い歴史を持つ。

 「大学は、そういった長い歴史の中で、卒業生が活躍し、次第に成果が蓄積されていくもの。だから、10年20年じゃなくて、100年200年で真価を表していくことを目指したい。今、この時期、生き延びていかなきゃならないという問題を抱えながらも、100年単位の将来について、視点を持っていなければならないと思うのです」


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)


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