リアルでできないことをバーチャルに完全移行/東洋大学

東洋大学キャンパス


オンラインOC:コロナ禍への対応

 突然に始まった新型コロナウイルス感染症は、人が集まることができないという大きなダメージをもたらした。特に、高校生に大学を見せるオープンキャンパス(以下、OC)は、どの大学も工夫を凝らしてキャンパスの魅力を訴えてきたが、今年はやむなく中止としたところが続出した。

 そのなかで斬新なOCをWebで開催しているのが、東洋大学である。Open Campus Web Styleと命名されたページを開くと、学長挨拶に始まり、大学の概要説明、学部紹介、キャンパスツアー、外国人留学生ガイダンス、学生生活等、多岐にわたる大学の活動が動画で紹介されている。十分な臨場感があり、何度も繰り返して見ることができるので、キャンパスにおけるその場限りの説明よりも、大学生活の全貌を細部に至って捉えることができる。OpenCampus Web Styleのもう1つの特徴は、入試概要のガイダンス、一般選抜全科目の過去問とその解説が、pdfと動画で掲載されており、高校生がWeb上で受験の傾向と対策を取れることにある。Webの特性を利用することで、必ずしも東洋大学を選択肢としていなかった高校生が、東洋大学を受験校の選択肢に入れる可能性大であろう。

学生募集戦略の転換:大学を伝える

加藤建二氏

 東洋大学がOCのWeb開催をいち早く決定できたのは、Webを利用した学生募集に関して10年近くの蓄積があることに立脚している。その主な流れを、表から見よう。2013年に紙の印刷物としていた大学案内をWeb化したのが始まりである。ネットやスマートフォンの普及と相まって、物理的な制約が多い紙媒体からの脱却が可能になった環境面の変化が、その理由の1つではあるが、それだけではない。学生募集戦略の大きな転換が背後にはある。それについて加藤建二入試部長は、次のように説明される。「かつて受験生は偏差値を目安に大学を選ぶ傾向が強かったので、募集広報もそれに合わせたアプローチになりがちでした。しかし2010年頃から、そうした流れから本来あるべき、東洋大学で学びたいという学生に如何にして志願・入学してもらうかが鍵になるといった議論が始まりました。そのため、東洋大学のありのままを見せて伝えることを目的として、2015年から『Web体験授業』の公開をはじめました」。『Web体験授業』とは、教員の授業内容を高校生対象に20分程度の動画にまとめたものであり、既に専任教員の約80%が収録に協力し、その本数は640本を超えている。通常の授業とは異なり高校生が見やすいテーマ・コンテンツを揃える。ベースとなっているのは、高校1・2年生を対象に年2回、大学の授業を受講できる『“学び”LIVE授業体験』という模擬授業体験イベントである。『“学び”LIVE授業体験』は言うまでもなく、首都圏の学生の参加が多く、提供される授業数は100講座、しかしキャンパスに1日いても受講できる授業数には限りがある。一方このイベントを経由した出願率は高く、「大学の本質である授業がコアコンテンツとなって志願度を上げることができる手応えは大きい」と加藤氏は言う。他方で、ネットで公開される『Web体験授業』とすることで、どこに居住している者も高校生でなくても、ネットに繋がりさえすればいつでも好きなだけ視聴できる。現在1カ月で4万人ほどが視聴しているそうだ。OCであればせいぜい1万人という数字を大きく超えている。

情報格差の是正:「いつでも、どこでも、だれでも」の実現

 この『Web体験授業』はTOYO Web Styleという入試情報サイトの一部を構成しており、それを通じて、出願から入学の手続き等の全てが可能だが、入試そのものも一部Webで実施していることは画期的である。それが『Web体験授業型入試』だ。2017年度入試において、新設の情報連携学部・国際学部の公募制推薦で導入されたのを皮切りに、2020年度入試では7学部11学科にまで拡大した。この『Web体験授業型入試』とは、指定された『Web体験授業』を視聴、提起された課題についての解決方法を考察してレポート提出、試験当日はWeb会議システムを通じてプレゼンや質疑応答というステップを踏んで合否が決定される。

 ここまでしてWebを活用するのはなぜか。それは情報格差の是正による入学機会の公平化という理念に基づくものである。「いつでも、どこでも、だれでも」というWebの特性を利用すれば、大学情報、入試情報、受験機会等の情報に接する機会の公平化は図られる。そのことは、志願者や入学者の大学選びの選択肢の幅の広がりへと連なる。考えてみれば、対面での高校説明会、進学相談会、OC、地方入試等を拡大したとしても、全国全てには及ばない。ましてや、海外からの留学生を求めることは不可能に近い。しかし、TOYO Web Styleはそれらを可能にする。学びそのものの情報集約と機会の公平化は、東洋大学で学びたいという高校生の拡大につながるのである。

 この一環で2017年からは『TOYO Webサポート』という、Web会議システムを通じて個別相談ができるシステムをTOYO Web Styleに搭載し、オンライン相談を行っている。コロナ禍以前からこうした施策を行っていることは驚嘆に値する。

学生募集の可能性:選ばれる大学を目指して

 『Web体験授業』が増えることで、入学者のモチベーションや学力レベルが向上したことを、多くの教職員が実感しているそうだ。「この先生のゼミに入りたい」といった強い意志を持つ新入生も増えたという。その意味では、募集広報のWeb化は成功であろう。

 ところで、この『Web体験授業』はFDの機能を持つことを、教職員はどれほど意識しているだろうか。Webの視聴回数のログは、単にその学部・学科の人気度を表す以上に示唆に富んだ情報を孕む。それは自ずと教員の授業改革を促す。授業を見せるということは、視聴者からのフィードバックを得て、大学の改善・改良の機会が進むという副次的効果を持つのである。そして、それは、いずれの大学も目指す入学者の質の確保とwin-winの関係にある。

 コロナ禍で一層脚光を浴びたTOYO Web StyleやOpen Campus Web Styleであるが、それが収束したとしても、この方向性は元には戻らないであろう。しかしながら、PCやスマホの画面からでは伝えきれないこともある。対面とWebの良いとこ取りをしながらリアルとバーチャルを組み合わせて大学を見せて伝えるか、それが課題である。今こそ実験の時ではないだろうか。


(文・吉田 文 /早稲田大学教授)


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