Symposium 【オンライン座談会】 まじめで素直でおとなしい生徒って? 教師はそんな生徒の成長にどう関わるか

「まじめで素直でおとなしい生徒が多いのだけれど」といった声を全国のさまざまな高校の先生から聞くことが増えています。
そうした生徒のどこに課題を感じ、その生徒のもつ良さをどう伸ばしていきたいのでしょう。オンライン座談会で、先生方に率直な思いを語り合っていただきました。

  

―まずはまじめで素直でおとなしい生徒のイメージを伺えますか。

吉岡 どんなこともちゃんとやろうとし、静かなイメージでしょうか。 

田中 教員が言ったことに疑問を投げかけたりせずに取り組む印象です。

大城 言われたことを丁寧にやる生徒。意思が見えにくい面もあるかなと。 

神谷 勉強を一生懸命やり、規則も守る生徒。それでおとなしいと、問題ないと教員が見過ごしがちです。

―そうした生徒の割合は。

神谷 学校や学年によっても違い、一概には言えないです。例えばうちの学校は服装も髪形も自由で、金髪の生徒もいます。ただ、長いスパンでいえば「はみ出さない」感じの生徒は増えた気がします。もっとエネルギーを出してよいのに、と思うので。

大城 今いる学校は、地域の伝統校で、素直でまじめな生徒が多いと感じています。前任校は都市部にあっていろいろな中学校から生徒が集まっていたのですが、その学校と比べると、おとなしいイメージもあります。

吉岡 勤務校は定時制高校で、入学する生徒の約半数は不登校を経験しています。それもあって、特に1年生のころは、休み時間中、誰とも話さず席に座っている生徒が多く、半分くらいはおとなしい感じです。

田中 うちは私立で3つのコースがあり、スポーツをがんばりたい生徒から勉強をがんばりたい生徒までいて、「おとなしい」生徒の割合は、クラスや学年、コースによってさまざまです。

昔は「いい子」と言われてきた生徒に
なぜ疑問が出るようになったのか
(田中先生)

―まじめで素直で…という話をするときの先生方は良い面として挙げつつ含むところもあるようです。

田中 昔なら学校で「いい子」と言われていましたよね。そこになぜ疑問が出るようになったのかがポイントなのでは。その一つとして、入試改革で生徒に求められることが変わってきたことも絡んでいるように思うのです。

吉岡 授業でも昔は黙ってノートを取る生徒が評価されましたが、今はグループワークもあり、「座っているだけではダメ」と言われます。授業形態や、授業で生徒につけたい力が変わったことも関係していそうですよね。

神谷 まじめで素直でおとなしい生徒が「社会で通用するとは限らない」と、教員が感じてきた部分もあるのではないでしょうか。成績は良かった生徒が就職後に意外と苦戦し、在学中にトラブルも含めていろいろ経験した生徒が卒業後に社長になった、という例が結構あるんですよ。

大城 本校はここ数年の学校改革で学力も進学実績も伸びたんですね。私はまだ赴任1年目ですが、前からいる先生は、学力向上は喜ばしいけれど、行事などの場面では「昔よりお利口さんになりすぎているかな」とも感じているようです。

心に思うことがあっても飲み込んでしまう
「声に出すと損をするから」と(大城先生)

―お利口さんに「なりすぎている」というのは何が気になるのでしょう。

田中 まじめで人の意見にも耳を傾ける姿勢は大切だと思います。「でも…」という部分は確かにあって、僕が気になるのは「疑問をもたず思考停止していないか」「自分の納得感はあるか」という点です。なぜそれをしているか尋ねたとき「やれと言われたから」と返されるとモヤモヤします。

大城 心に思うことがあっても飲み込んでしまうところがあるように感じています。言いたいことが本当はいろいろあるのに「ぶつからないでおこう」「声に出すと損をする」と考えているようで。もう少し自己表現もうまくなるといいな、と思います。

神谷 「自分がこれと思うことに一途なまじめさ」ではなく、「言われたことをこなすまじめさ」だと、それでいいのか疑問です。そのほうが楽だからそうしている生徒もいると思うんですよね。自分で考えて自分から動くのって、ときに大変だから。

吉岡 まじめだけど受け身な生徒が多いと感じています。授業でわからないことがあってもわかったふりをして、自分からまわりに聞くことがなかなかできません。「わからない」という弱さも出せるようになってほしいのですが。また、まじめな生徒のなかに、その価値観をまわりにも押し付ける子がいるのも気になります。やんちゃな生徒に苛立ち、自分たちと同じようなふるまいを強要したがったり。

田中 言われたことにまじめな生徒や、まじめさを他人にも求める生徒は、「正解を欲しがる」というか、本人のなかにあるモデルから「脱線しないように」している気がします。一方で社会は、創造的であることも求めてきて、だから教員も「ときには踏み外す勇気を」と期待しはじめたのかな、と。ただ、生徒に「こうあるべき」というモデルを教えているのは、実は僕ら教員ではないか、とも思っていて、そこにすごく矛盾を感じるんですよ。

学校を、生徒を「型」にはめる場ではなく
自分の弱さや可能性と向き合う場に(吉岡先生)

吉岡 わかります。一人ひとりにはそれぞれの良さがあり、そこを見つけて伸ばしてあげたい。でも学校ではつい「型」にはめてしまう。我々の日々の指導、生徒への接し方が、問題の始まりなのかもしれません。

田中 教員の立場からすると、失敗が怖いのもあるように思うんです。生徒が言うとおりにまじめにしていれば、目の前にいるあいだは大きな問題は起きませんから。でも卒業から先はわからない。なので本当は「枠」にはめずにいろいろ伸ばしてあげたいけれど、自分たちもそんな教育は受けていないので、恐る恐るになっていて。

神谷 結局、教員もこれまで通りに指導したほうが楽ですしね。未来はどうなるかわからず、モデルも示しづらくなったけど、とりあえず今までの成功体験から「こうしなさい」と指導する。でも今は歴史の転換点かもしれず、そこで社会を変えるのは、古い体制で成功した大人ではなく、若者だと思うんです。世界ではその潮流が見られますが、日本では若い人がどちらかといえばおとなしい。それは、僕らや学校が生徒を縛ってきたからなのかな、とも思います。

大城 地域の事情も少しお話ししていいですか。私のいる沖縄県は他県より平均学力が低く、大学進学率も高くありません。だから県民には「学校で子どもの学力を伸ばし、進学もさせてあげたい」との思いが人一倍強くあるんです。それだけに私たち教員も、生徒がまじめに学び、「点数や進学率を高める」ことに重きを置くところがどうしてもあります。ただ、その大人の願いが、生徒を一つの方向に促しがちな面はあるかもしれません。

田中 これまでのAO入試や推薦入試だと、言われたことだけをまじめにやってきた生徒が苦戦していましたよね。そこで問われるのは意見を言う力や批判的思考力なので。でも、僕はそちらに振れすぎて「全員が意見をバンバン言えないとダメだ」となるのも違う気がするんです。アイデアを出す人がいれば、それを聞いて一緒に形づくる人もいるように、社会で必要とされる人のタイプは一種類じゃないはず。生徒それぞれの良さや成長に目を配りたいと今日改めて思いました。

神谷 先生がまじめで素直でおとなしい生徒を「見過ごしがち」と言われたとき、ドキッとしたんです。たしかに意識しないと、ほかの子より関わりが少なくなるな、と。

大城 「おとなしい」の捉え方は私も注意したいと思っていて、こちらから生徒に近寄っていけば、結構話が広がりますよね。

吉岡 うちの生徒のなかには、生活環境や過去の躓きから明日を生きるのに精一杯で、社会のことにまで目を向ける余裕がない子もいます。ただ、「自分と向き合おう」とはしているんですね。高校で初めて友達ができて自分を受け入れられるようになった、オープンスクールをみんなで運営して自信がついた、とか。「社会が求める人はこうだ」と生徒をその方向にもっていくというより、他者との関わりを通して、まずは自分としっかり向き合えるようにしたいと思いました。

生徒がやりたいことをやれるようにしたい
生徒を信じて、我々も挑戦を(神谷先生)

―そうした生徒の可能性が広がるよう、できることはあるでしょうか。

吉岡 授業でめちゃくちゃ失敗させたいですね。「わからない」ということに一人ひとりがちゃんと向き合えるように。数学の授業では、問題を解くときにグループで質問し合える環境にし、正解が出たら次ではなく、「何か困っていることはない?」とおのおのが弱さを出すことを僕自身も歓迎しています。授業の最後には、生徒自らが作問してペアで解き、その過程でも自分のわかっていない部分に気づくようにして。黙ってノートを書いて満足している生徒への僕なりの挑戦です。授業の感想で「わからないと言えることが大切だとわかった」と書いてくれたときはすごく嬉しかったです。

大城 自己表現できる場を増やしたいと思っています。それぞれの生徒が個性を出し、私たち教員がそれを発見し伸ばしていけるように。公民の授業では、意見を発表する機会をつくり、感想を書くコメントカードも取り入れています。また、ルールだからといって声を出しきれずにいる生徒たちに「自分たちの声が反映される」とも感じてほしく、生徒指導部では、校則の見直しを生徒と共に進めています。

田中 まだ守ってもらえる立場だからこそ「失敗してもいいんだよ」という空気をつくり、学校の中だけにとどめず、外にもどんどん出したいです。「間違えたら」と正解がわかるまで様子見がちな生徒にまず動いてみることを、そして教員だけでなく多様な人から一つの「枠」に収まらず学ぶことを体験してほしいので。本校は総合の時間やインターンシップで、生徒が地域の人や企業と関わる活動を進めています。実社会のなかで「自分でやってみた」経験が、生徒の自信につながるのを感じています。

神谷 生徒がやりたいことをやれる場にし、「興味開発」をできるようしたいです。言われたことをやれば幸せになれる、という時代ではなくなった今、何をするかは自分で見つけるしかないと思うからです。そのために地理の授業でマイプロジェクトに取り組んでいます。生徒が自分たちでテーマを決め、課題に挑んで発表するのですが、地元の名産を使ったスイーツを企業と共同開発したりと、高校生のすごさを改めて感じています。生徒に任せてみよう、と思うようになったのは、東日本大震災がきっかけです。被災地のボランティアに勤務校の生徒を連れていっていいか、現地の方にためらいがちに訊いたら「こっちでは小学生でもやってるよ。先生、生徒の力を信じてあげてよ」と言われ、頭をガーンと殴られた気がしたのです。実際、被災地での生徒は頼もしく、我々がもっと生徒を信じないとダメだと思いました。

大城 うちの生徒たちは、自然豊かで人も温かい地元が大好きなんですね。先生方のお話を聞いて、地域とつながれば生徒の学びはさらに広がるんだ、私もチャレンジしてみたいなと思いました。それと、生徒の自己表現と言ってきましたが、考えてみれば私たち教員も以前より発言しなくなったと思うのです。職員会議などで、教員も本音で意見をぶつけていく必要性があるように感じました。

神谷 同感です。「子どもは大人の鏡」と言いますし、生徒よりも前に、教員がまず意見を出し合いたいですね。「そもそも何を目指しているんだっけ、本当にこれでいいの?」と、我々も思考停止せずに、いろいろなことに挑戦していけたらと思います。


  

沢高校(埼玉・県立)
神谷一彦先生 教職24年目、教科は地理歴史。NPO活動にも飛び込み、自主自立を掲げる現任校でマイプロジェクトも展開。

  

摩耶兵庫高校 (兵庫・市立定時制)
吉岡拓也先生 教職8年目、教科は数学。定時制の現任校で「社会とつながる」「わからなさを楽しむ」授業を実践。教務部長。

  

鳥取城北高校(鳥取・私立)
田中光一先生 教職11年目、教科は数学。授業や面談では答えを示すより問いかけを重視。地元企業などとの連携も推進。

  

名護高校(沖縄・県立)
大城エリカ先生 教職18年目、教科は公民。前任校ではなぎなた部の全国優勝の躍進に貢献、現任校でも同好会設立を思案中。

取材・文/松井大助