高等教育の最新事情

<寄稿>教育の無償化・負担軽減の政策動向 ―前編―

鈴木敏之
文部科学省 生涯学習政策局
文部科学戦略官

1 教育費負担の現況

 本稿では、現政権の最重要課題とされる「人づくり革命」の要となるテーマ、教育の無償化・負担軽減をめぐって、2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」を中心に、最近の政策の動きを紹介したい。

 まず、この動きの背景となっている、日本における教育費の家計負担の現況について概観する。家計(保護者または子ども)が負担する主な教育費は、授業料等の学校納付金をはじめ、修学費(教科書・教材費、文具購入費等)、課外活動費、通学費といったものがある。これらは高等教育段階では「学費」と呼ばれる。初等中等教育段階の教育費であれば、こうした経費のほか、給食費や学校外教育費(学習塾費、けいこごとやスポーツ・文化活動に要する経費)が含まれる※1

 教育費は、幼稚園から大学(学部)までの19年間、一人の子どもが全て国公立学校へ通う場合で約800万円、全て私立学校へ通う場合で3倍弱の約2300万円に達する。30歳を越えてから二人の子どもを持つ世帯を想定すると、両者揃って私立大学に通うとき(親は50歳程度)、平均可処分所得の7割程度を教育費が占めると試算される。大学進学に備えて消費を切り詰めて貯蓄し、進学後に取り崩すというパターンが家計行動として一般化している。国民の負担感は重く、各種の世論調査でも少子化の一因となっていることが示されている。

 他方、教育費の公的負担については、OECD諸国との比較から、低い水準にあるという指摘がある。特に幼児教育、高等教育については、教育費に占める公財政負担割合は、それぞれ46%、34%、OECD平均(82%、70%)の半分程度となっている。

 もとより、様々な状況・背景を異にする諸外国との比較は慎重を要するが、文部科学省では、教育の機会均等の理念の下、幼児期から高等教育段階まで切れ目なく、教育費負担を軽減すべく施策を講じてきている。2018年度予算案においては、給付型の支援(貸与型を除く)として、次のような内容が盛り込まれている。

主な教育費負担の軽減策(2018年度予算案)

    <幼稚園>
  • 所得・子どもの数に応じ、「就園奨励費」を補助し、保育料の負担を軽減。段階的な無償化に向けて、新たに年収270~360万円未満相当世帯に係る支援を拡充。【330億円】
    <高等学校等>
  • 公立の授業料相当分以上の「就学支援金」(年収約910万円未満の全世帯。一定所得以下の場合、私立に係る加算を措置)を支給。【3708億円】
  • 低所得層に対し、授業料以外の教育費負担減のため、子どもの数に応じて「奨学給付金」により支援。【133億円】
    <大学等>
  • 平成29年度に創設された給付型奨学金制度を拡充し、非課税世帯で一定の学力・資質要件を満たす学生を支援。【105億円】
  • 経済的に修学困難な学生に係る授業料減免に取り組む国私立大学を支援。【480億円】
    ※公立大学については地方財政措置。(2016年度実績で35億円)
  • 専門学校生への経済的支援の在り方について実証研究。【1.8億円】

2 教育費をめぐる議論の沿革

 教育費負担の在り方は、教育の機会均等という、憲法・教育基本法の普遍的理念・目標の実現のため、これまでも一貫して重要な課題であった。加えて近時では、厳しさを増す行財政事情の下、急速な社会の変化に対応して教育の質をいかに高めるか、そのための投資や財源の在り方はどうあるべきか、ますます強く問われるようになってきた。

 現在の安倍政権(2012年発足の第二次内閣以降)においては、教育改革を推進するため、2013年に「教育再生実行会議」が設置され、これまでに十次にわたる提言がまとめられてきた。特に2015年の「第八次提言」※2では、教育投資の必要性として、①日本創生・経済再生を支える、②少子化を克服する、③公平・公正な社会を実現する、④経済成長や歳出削減に貢献という四点を掲げたうえで、「これからの時代に必要な教育投資」として、喫緊の課題である少子化の克服や世代を超えた貧困の連鎖の解消のため、幼児教育の段階的無償、高等教育の教育費負担軽減を特記している。

 2017年に現政権が、「一億総活躍社会」をつくっていく上での本丸として「人づくり革命」、人材への投資を掲げたことは、こうした議論の延長上にある。その際、「人生100年時代」と言われる超長寿社会の到来に着目し、これに対応した経済政策のグランドデザインを検討するため、9月11日に発足したのが「人生100年時代構想会議」(以下「100年会議」という。)である※3。同会議は、検討テーマの筆頭に「全ての人に開かれた教育機会の確保、負担軽減、無償化、そして、何歳になっても学び直しができるリカレント教育」を据えて議論を開始した。この時点では、施策の実行に伴う財源の問題について成案は無く、100年会議で議論を行うこととされていた。

 その後、9月25日、安倍総理大臣は、少子高齢化の課題を克服するため、子育て世代への投資を拡充し、消費税の使い道を見直すことを決断し、その信を問うべく、衆議院の解散を表明した。また、その中で、新しい経済政策パッケージを年内にまとめる方針を示した。10月の選挙後、内閣としては、国民の支持が得られたという認識の下、急速な少子高齢化を「国難」と呼ぶべき事態と位置づけ、これに立ち向かうべく「人づくり革命」を断行する旨の「基本方針」を閣議決定した(11月1日)。

 こうした政府の動きが加速する中、100年会議の議論も重ねられ、有識者議員の意見を踏まえて「新しい経済政策パッケージ」が策定され(12月8日閣議決定)、続いて同会議の中間報告がまとめられた(12月21日公表)※4

<寄稿>教育の無償化・負担軽減の政策動向 ―後編― に続く