リカレント教育

リカレント教育と日本の大学⑨/社会人向けプログラムの創設・成長事例~立教セカンドステージ大学

リカレント教育⑨イメージ(プログラム実施風景)
(授業風景 写真:立教セカンドステージ大学 2019年度撮影)


 新たなプログラムを創設し継続的に成長・発展を遂げている事例として、今回は2008年の開学以来毎年約100人の受講者を安定して集め、また修了生の社会での活躍を実現している「立教セカンドステージ大学」を取り上げる。

 立教セカンドステージ大学は、1年間の本科、本科修了生を対象とする1年間の専攻科という二つのプログラムの総称である。本科の場合、受講料は登録料を合わせ40万円。春学期・夏期集中講義・秋学期を通して必修2科目、3科目群45科目から選択する6科目以上を受講する。必修のうち1科目はゼミナールであり、受講生は修了論文の執筆が求められる。全体で202時間以上の学習となる、本格度の高い履修証明プログラムだ。受講生はその100%が年齢50歳以上…それが受講資格なのだから、当然である。

 特筆すべきは修了生の活動ぶりだろう。同学の「社会貢献活動サポートセンター」(後述)には、修了生・受講生が中心となって様々な社会課題・地域課題の解決に取り組む14の研究会が登録されており、地元豊島区からアジア・アフリカまで幅広い舞台で活動を繰り広げている。同センターが把握しているだけでも約500名、これまでの修了生1136名の実に半数が社会活動を行っているとのことだ。修了生が主体的に関与しているNPO法人は、地域活性や子育て支援、震災復興等6つにのぼる。

◆創設時から掲げた「ありたい姿」

 立教セカンドステージ大学の創設に関わる議論がはじまったのは、団塊の世代の大量退職が「2007年問題」と喧伝されていた時期。それまで社会人大学院(独立研究科)や経営学部の開設等新たな挑戦を重ねてきた立教大学が、次なる挑戦の対象として見据えたのがこの世代だった。当時総長補佐として設立準備委員会の議論に加わり、同校の教員を務めたのち現在も社会貢献活動サポートセンターの副センター長を務める坪野谷 雅之氏は言う。「大学としては18歳から22歳までを対象としたシステムでできあがっているところに50歳以上に向けた教育を行うというのですから、違和感はあったかもしれません。しかし、大学の社会的責任として、全世代に向けた教育に取り組まなければならない、そうした課題が総長室を中心にあがりコンセンサスができていましたから、議論はスムーズにはじまりました」(坪野谷氏)


坪野谷雅之氏
坪野谷 雅之氏 立教セカンドステージ大学 社会貢献活動サポートセンター 副センター長


 活発な議論を経て2007年5月にまとめられた提案書に掲げられたのは、「単に大学を一般市民に開放することではなく、シニア世代が『真の市民』として生きる力を身につけるための、あたらしい生涯学習の場を構築すること」を目指すという言葉だった。まさにこの連載で述べてきた、「ありたい姿」である。現在のパンフレットでも、立教セカンドステージ大学は「人生のセカンドステージを有意義に歩もうとする50歳以上の受講生に、自由な市民としての生き方を自らデザインできるようサポートする新たな学びの場」であるとうたわれており、設立から10年以上が過ぎてもぶれない軸となっていることが分かる。

 議論の素材として、既存の生涯学習機関についての調査やターゲットの学習動向についての調査が行われた。「他の大学のオープンカレッジにせよカルチャーセンターにせよ、数多くの講座を網羅的に取り揃え、誰でも自由に学べるシステムを取っています。自治体の市民講座には無料のものも多い。同じことをやろうとするのではなく、第二の人生にふさわしいユニークで体系的な学びの場として、一線を画すことを目指しました」(坪野谷氏)

 『あたらしい生涯学習の場』という言葉からは、立教大学だからこそできる理想的なモデルを作ろうという思いが読み取れる。

 この「ありたい姿」を具現化してできあがったのが、立教セカンドステージ大学独自の教育のあり方だ。一つひとつ見ていこう。

◆ありたい姿の具現化

 選択科目は3つの科目群からなる。「社会にどう溶け込み一緒になって共生していくか真の市民としての教養を学ぶ『エイジング社会の教養科目群』、自分が培ってきた知識経験ノウハウを活かして役に立ちたいというニーズに応える『コミュニティデザインとビジネス科目群』、自分の人生を設計していくための『セカンドステージ設計科目群』です。<第二の人生をいかに豊かに過ごすか>というところに焦点をあて、ストーリー性のあるカリキュラム体系を設計したのです」(坪野谷氏)。

 授業の内容は、受講生のニーズに応えるため毎年数科目入れ替えられている。教務委員会で分析し、運営委員会で協議し、半年間を通じてじっくりと編成されるという。本年度より立教セカンドステージ大学の副学長に就任した長 有紀枝教授(立教大学副総長)は言う。「今年初めてそのプロセスに立ち会い、躍動感を感じました。生きている大学なんだな、と実感しています」。


長 有紀枝教授
長 有紀枝教授 立教セカンドステージ大学副学長・立教大学副総長


 そして、必修となっているのがゼミナールと修了論文だ。「入学時の書類選考でも自分の人生を振り返り文章を書いてもらいますが、これまでの人生でそうした経験がない方がほとんどです。ゼミナールでは、受講者同士で討議・討論しながら学びを深め、教員のサポートを受け修了論文をまとめていきます」。アクティブラーニングの要素であるリフレクション、ダイアローグ、そしてアウトプット。現代の学生にとっては当たり前のそうした工夫は、大量の知識を効率的に伝達するために設計されたシステムでしか学んだことがなかった世代の受講者にとって、初めて出会う人も多いことだろう。新たに担当した教員は皆、受講生の真摯さに驚くと坪野谷氏は言う。

 「課外活動も大きな意味を持っています。夏期に行われる清里での2泊3日の合宿は、ゼミを超えた付き合いの場でもあります。そして合宿のほか、新入生歓迎会や各種パーティーの運営、ニューズレターの制作等、運営の一端を極力、受講生に自主的・自発的に担ってもらっています。これは、修了後もコミュニティーでの活躍を期待するという仕掛けです」(坪野谷氏)。

 学ぶ意欲を持つ者ばかりの安心・安全な学習コミュニティを形成し、毎年更新される授業内容が、能動的に学べる教育方法によって提供される…まさに、ありたい姿に記載された「自由な市民としての生き方を自らデザインできるようサポート」がなされていると言えるだろう。


清里合宿でのフィールドワーク風景
(清里合宿でのフィールドワーク風景。写真:立教セカンドステージ大学 2019年度撮影)


◆修了生の活動を勇気づける「社会貢献活動サポートセンター」

 前述の通り、立教セカンドステージ大学が実現しようとしているのは、受講生が「自由な市民としての生き方を自らデザインできる」ことだ。そしてそれが果たされていることは、これまでの1000人を越える修了生のその後の活動から見ることができる。

 多くの修了生が受講した年度をまたいで「研究会」と呼ばれるグループに集い、まちづくり支援や交流人口の拡大、震災復興、海外での学校建設支援等の活動に携わっているのだ。前述の通り、その活動が発展して設立されたNPO法人も6つにのぼる。分かっているだけでもそうした活動への参加者は全修了生の半数に達し、個人的に活動している者を含めればさらにその割合は増えるだろう。

 オープンカレッジや市民講座、また公民館や図書館といった生涯学習機関・社会教育施設は、学習者が学んだことを社会に返すことよりも、学習者個人の生きがいやQOL向上のための施設と捉えられがちだ。実際には、オープンカレッジで学んで芥川賞作家となった若竹 千佐子氏のケースに象徴されるように、多くの学習者が仕事や社会活動にその学びを活かしているのだが、残念ながらそのことはあまり注目されてはいない。それは学習者が自らやろうとしたことであり、教育機関自身が準備・支援したものではないから致し方ないことかもしれない。

 しかし立教セカンドステージ大学の場合は異なる。開設次年度、つまり修了生輩出の初年度である2009年には「立教セカンドステージ大学社会貢献活動サポートセンター」が設立され、修了生の活動支援が始まった。「出口戦略、つまり学んだあとの社会貢献活動を促進しフォローしていくにはどうすればいいか議論しました。そこで設立されたのがこのセンターです。私を含む担当教員がセンターに登録された14の研究会を見守り、フォローしています。具体的には、例えば今であればコロナ禍での活動をどうすればいいか相談を受けて火を絶やさぬよう促していますし、ほかにも、メンバーのつながり支援や報告会の実施、運営上のアドバイス、NPO法人設立の支援等、多岐にわたるサポートを行っています」(坪野谷氏)

 立教セカンドステージ大学のパンフレットには、教員の上田恵介氏の言葉として、修了生が「社会に出て行きました」「社会のあちこちで元気に活躍しています」とある。「社会に出る」というのは象徴的な表現だろう。確かに、一つの会社で長く働いてその価値観に染まり閉じたコミュニティーの中にいた社会人が、未知の知識や考え方を取り込み、価値観の異なる他者との対話を通じて自らの人生をデザインする力を身につけ、具体的な社会貢献活動に踏み出すことは、「社会に出る」という言葉にふさわしい。

 修了生との関わりを形作っているのは社会貢献活動サポートセンターだけではない。研究会とは別に修了生の多くが所属する同窓会が結成され、純粋な交流や趣味的な活動等社会貢献とは直接的な関係がない活動が行われている。「コミュニケーションと連携の手段として、立教セカンドステージ大学になくてはならない組織です」(坪野谷氏)。

◆生涯学習機関の新たな姿

 「人生のセカンドステージを有意義に歩もうとする50歳以上の受講生」というターゲットを設定し、立教大学だからこそ取り組むべき課題を設定し丁寧に議論したことで導き出された「ありたい姿」=「自由な市民としての生き方を自らデザインできるようサポートする新たな学びの場」。そこから分かるのは、立教セカンドステージ大学が提供する価値は、授業やそこで伝えられる知識というよりも、学んだことにより社会活動に踏み出すようになる受講者自身の変化だということだ。自分の人生の振り返りを伴う入学試験も、学習コミュニティーの形成を促す合宿や委員会活動も、学んだことを肚に落として行動へと結ぶゼミナールや修了論文も、修了生の活動を勇気づける社会貢献活動サポートセンターも、受講者にその価値を提供するための工夫として一貫している。継続的な募集の成功、そして修了生の活躍は、その成果といえるだろう。

 生涯学習機関の新しい姿をもたらした立教セカンドステージ大学。長副学長と坪野谷氏に今後のビジョンを問うた。

 「受講生自身へのインパクト、修了生がもたらすインパクト、そして、立教セカンドステージ大学が生き生きと存在し続けることで社会にもたらすインパクト。三つのインパクトをともに追い続けていきます」(長副学長)

 「規模の拡大ではなく、生涯学習の理想的なモデルを追求し続けます。全ての情報をオープンにしていますから、全国津々浦々、立教モデルが広がっていけば理想的ですね」(坪野谷氏)



文/乾 喜一郎 リクルート進学総研主任研究員(社会人領域)
(2020/12/01 取材日2020/10/16)